第12話 ワガママ三昧な妹と元婚約者の企み

「ちょっと! 私は肉が食べたいのに、なんで魚料理なんて出すわけ!?」


 無事にアベル様と結婚をし、アベル様の実家であるベルナール家の屋敷に住むようになった私は、魚料理が乗った皿をコックに思い切り投げつけた。


 コックは常に私の食べたい料理を出す義務があるというのに、どうしてこんな料理を出すわけ!? 本当に意味がわからない!


 今日の朝も、私は赤いドレスが着たかったのに、メイドが持ってきたのはピンクのドレス。あまりにもムカついたからその場でクビにしたし、その後には、廊下にあった絵画が少し曲がってたのがムカついて、そこの掃除をしていた執事をクビにしたばかりだというのに! あーどいつもこいつもイライラするわ!


「も、申し訳ございませんニーナ様!」

「つっかえないわね! あんたクビ! さっさと屋敷から出て行きなさい! そこのあんた、明日までに新しいコックを探しておきなさい!!」

「そ、そんな……お考え直してください! 私には家族が……」

「知らないわよそんなの。興味もないわ! その無能をさっさと追い出しなさい!」


 私が一言そう命令しただけで、ベルナール家直属の兵士達が大広間へと入ってきて、コックをつまみ出した。ふふっ、私に逆らうからこうなるのよ。いい気味だわ!


 でもまだイライラが消える気配がないわ。またお父様からお金を貰って、こっそり奴隷でも買おうかしら?


 国の決まりで奴隷の売買は禁止されてるけど、裏の業界では割と頻繁に行われてるのよね。最近、私の婚約者の暗殺を依頼した男から教えてもらって、どっぷりハマっちゃったの! 奴隷をいたぶるのが楽しくて楽しくて!


 あ、これは私だけの秘密の遊びだから、絶対に誰にもバレないようにしてるわ。まあ何人かの使用人にはバレたんだけど……そいつらは……この先は語る方が野暮ってやつね。


「ニーナよ、その辺にしておきたまえ。君の美しい顔が台無しじゃないか」

「も~アベル様ったら。いくら事実だからって、そんなに褒められたら照れちゃいますよ~」

「はっはっはっ! 照れる顔も美しい! まさに美しいボクの伴侶にふさわしい!」


 もう何度聞いたかわからない、アベル様の自画自賛の台詞に愛想笑いを浮かべながら、私は食事を続ける。


 アベル様、見た目も家もいいんだけど……この自画自賛をするのはいただけないわ……正直、気持ちが悪いのよね。おっと、我慢我慢。折角お姉様から奪った上玉の夫を、自ら逃すような発言は良くないわ。


「そうだアベル様。この前おススメした小説はお読みになられました?」

「最近流行っている恋愛小説の事かね。もちろん、愛する君に言われたその日に購入して読んださ」

「ふふっ、嬉しいですわ。実はその小説、ベストセラーに選ばれたそうですよ」

「ほう、それは知らなかったな。実際に面白かったし、そうなっても不思議ではないな」


 確かティア・ファルダーとかいう人間が書いた恋愛小説で、とても流行ってるから私も読んでみたの。よくある王子と庶民の女の話なんだけど、これがまた面白くて、すぐにアベル様に教えたの。


「ありきたりな設定でここまで面白く読ませるのは、天才的な才能が無いと不可能だろう」

「ですよね! あーあ、この作者に私達をモデルにした、理想的で幸せな夫婦の物語を書いてほしいなぁ……」


 チラッと上目遣いをしながらアベル様におねだりをすると、アベル様は意を決したかのように勢いよく立ち上がると、自分の顔の前に握り拳を一つ作った。


 ——ふふっ。うまくいった♪


「愛するニーナの願いというなら、必ず叶えてみせるのが世界一美しいボクに課せられた使命! よし、この作者を見つけ出して屋敷に連れてきて、ボク達を題材にした物語を書かせよう! もちろん美しくて気高いボクを主人公に、愛するニーナがヒロインだ!」

「素敵! 流石アベル様! 愛しておりますわ!」

「ああ、ボクも愛しているぞニーナ!」


 まさに舞台の上に立つ二人の男女のように、私達は熱く抱きしめあった。


 ふふっ、案の定乗って来たわね。男なんてちょこっと色目を使っておけば簡単に動かせるのよ。それにアベル様は私の事を愛してくれているし、自分達が世界一幸せで美しい夫婦と思っているから、そこを刺激してあげれば――後は見ての通りよ。


 あ~私の可愛さや幸せさ、そしていかに凄いかが小説になって全世界に轟く……考えただけで惚れ惚れしちゃう。もしかして、あまりにも素晴らしい人物過ぎて、過激なファンが押し寄せてきちゃったり? いや~んそんなの困っちゃう~。


「さて、そうと決まればこのティア・ファルダーという人間がどこにいるかを調べないといけないな。おい! すぐにこの人物の事を調べろ!」

「かしこまりました、アベルおぼっちゃま」


 いつもアベル様の隣にいる初老の男は、深々と頭を下げてから部屋を出ていった。


 調べると言っても、どうやって調べるのかしらね? なにか使用人の連中しか知らない、秘密のやり方でもあったりして。まあやり方なんかに興味は無いわ。ティアという女を連れてきて、私達の物語を書かせられるなら、それで問題無しってね。


「それでアベル様、どんな物語を書かせるんですか?」

「それはもちろん恋愛小説――いやまて、ボク達が世界中を冒険して、様々な苦難を乗り越える話とか面白そうではないか!」

「まあ、面白そうだわ! もちろんアベル様は最強の力を持ってて、私の事を守ってくださるんですよね?」

「勿論だとも! どんな怪物だろうと、何万の軍だろうと、君への愛から生まれるボクの力は、留まるところを知らないのさ!」


 冒険物と言っても、未開の地を冒険したり、誰も挑戦した事が無い霊峰に挑んだり、地下の大空洞に潜ったり……様々な種類がある。どれも捨てがたいけど、私達にはなにが合っているか、意見を聞いて回るのもよさそうね。


 もちろん、不適切な意見を言った人間は……クビだけどね! 主人を満足させられないんだもの、当然でしょう?


 挿絵は有名な画家を使って最高に可愛くて美しい私を書いてもらわなきゃ! あぁ~今から夢が広がっていくわ……もう本当に、お姉様がいなくなってから毎日が幸せすぎて逆に辛いわ~。


 きっとお姉様達は、私が用意したボロ小屋で、ボロ雑巾のような生活をしてるでしょうね~……考えるだけで愉快だわぁ!

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