第7話「ボスゴブリン①」

――タワー入口


 正午を過ぎた頃、タワーの入口にこれまでのよそおいとは違い、いかにも冒険者と呼べるような格好の二人が立っていた。


「装備整えてきたんだな! まあ俺もなんだけど」


「前回の事もあるしね……あんな事があると低層でも怖いなって……」


「それにタワーが出現してからタワー用の装備扱う店も出てきて気になってたし!」


 蓮は黒みがかった赤色を基調とした上下の装備で揃えている。一方、葵は白のベースに青の刺し色が入った装備に身を包んでいる。


 そして蓮はポケットに手を入れ透明なオレンジ色の紙を出した。そして2枚あるうちの1枚を葵に渡した。


「エスプカードを2枚買ってきたから1枚は葵が持っててくれ」


「これって確か帰還用のアイテムだっけ?」


「そうそう、レベル10から使う事が出来てタワー内でそれを破ると入ってきた入り口に戻る事が出来るんだ」


 エスプカードがあればこれから先タワーでの死亡のリスクを大幅に下げる事が出来る。


 どういった仕組みでタワー入り口に戻れるのかはよく分からない。


 しかし、使用の際にペナルティもあり現状のレベルに応じた経験値マイナスが発生してしまう。


 タワーで人が亡くなるほとんどのケースはこのカードを持ってはいたがレベルが下がる事を嫌って粘ったあげくモンスターにやられてしまう場合である。


「ありがと! 危なくなった時はすぐ使わないとだね」


「そーだな! それでボスについてなんだけど、それは行くまでの間に説明するよ」


 そう言うと蓮達はタワーの中へと足を進めた。1階層に入るとやはり低層だからなのか人の気配はほとんど無く、戦闘している音も聞こえてこない。


 ゴブリンを片付けながら通路を進んでいく。


「――それでボスについてなんだけど、盾を壊さないように本体にダメージを与えなきゃいけないんだよ」


「加えて周りには取り巻きがいて邪魔してくるって感じだな」


「んー、蓮のチェインも使えないとなると1体ずつ倒していくって形になりそうだね」


「最悪チェインを使って周りの取り巻きを倒してから強くなったボスを相手にするってのも出来なくないんだが……」


「まあパターンはいくつか想定しておいた方がいいもんね!」


 ボス攻略について話しながら進んでいくと恐らく4階層の中腹とみられるあたりまでやって来た。


「最後に確認だけど、本当に危なくなったらカードを使って戻る事! それだけは守ってくれ」


「分かった。けどそれは蓮もだよ」


「だな」



 2人は5階層の前の階段まで来ていた。そこで装備の最終確認をおこなっている。


 エスプカードもそうだが、リュックにはこの日のために他にもタワー攻略に必要な道具を詰め込んできた。


 ゲームではあるような体力回復の為のポーションがあるわけでもなく、ほとんど武器や食料で埋まっている。


 (まあ一応ポーションも存在はしてるんだけど、かなり希少なスキルでしか生成出来ないから無いに等しいんだよな)


 こうした理由でリュックが大きいのはゲームと違いアイテムバッグの用な便利な要素が無いからだ。


 モンスターからのドロップ品もリュックに直接入れるしか無く小さなリュックだとすぐいっぱいになってしまう。


 これまでの緩い探索と違ってここまで用意周到なのはこの5階層より上の階層に到達した人が圧倒的に少ない事が関係している。


 5階層のボスに挑む人は多くいるらしいが最終的にあと少しというところで倒さず離脱してしまうらしい。


 大人数で討伐パーティーを組む人もいたが、人数に応じて敵のステータスも上がるため劇的に楽になるわけではないようだ。


「それじゃ、そろそろ行くか!」


「だね!」


 扉を開けてその先にある階段を登って行く。


 階段を登り切ると目の前には縦に長い部屋が続いていた。部屋の最奥には次の階層への扉も薄ら見えている。


 部屋に足を踏み入れると後ろの階段へ続く扉がバタンッと音を立てて閉まった。


「なっ、扉が閉まったぞ」


「開かないよ!」


 (なるほど。離脱はカードに頼るしかないって訳か)



 いつもの戦闘とは違う少し重たい空気が流れている。どことなく肌寒さのようなものも感じる。


 その奥で怪しく光る紅い目がこちらを一瞬鋭く睨みつけた。


『グガァァァァァァァッ』


 空気が揺れる程の振動で叫ぶと共に上方へ跳躍すると蓮達の目の前に姿を現した。


 離れていたら分からなかったが高さは四メートル

程はありそうで思った以上に大きい。


「こいつがボスゴブリン……」


「カスタマイズ[改変]ATK+、AGI +をロングソードへ!」


 右手に持ったロングソードにスキルを発動しながら、左手のナイフにはコマンドカットを利用してATK +とDEF+を付加した。


 やはり意識するだけでスキルを発動できるのは便利だ。


「剣戟!」


 葵もスキルを発動し、右手に持ったサバイバルナイフをもう一度ぐっと握り直した。


 2人が前方へ力強く足を踏み込んだ瞬間……


 ボスゴブリンを囲むように大量のゴブリン兵士が現れた。


『グギギギッ』

『シャャャャャッ』


 現れるや否や半数程がこちらに飛びかかって来た。あとの半分はこちらの様子を伺いながらボスゴブリンを守っているようだ。


「この場で固まりながら向かって来たモンスターを1体ずつ倒そう!」


「分かった……けど予想以上一斉に来たね」


「はっ! だぁっ!」


「葵! 右後ろから来てるぞ!」


「分かった! たぁぁぁっ!」


 葵はゴブリンの同じ箇所に高速で何度も斬りつけた。習得したばかりの連撃の効果の為か1体を倒す速度は確実に上がっている。


「蓮! 左右から1体ずつ来てるよ!」


「ああ! 分かってる! ずりゃぁぁぁぁ! はぁっ!」


 剣を頭上から右に振り下ろし1体を倒すとすぐさま剣を切り返して左の敵の首元へ一撃を入れる。


 数体倒したがこれではキリがないと思っていた時に蓮の四方からからゴブリンが攻撃してきた。


 最初と次にきた攻撃は避けたが三発目の攻撃を避けれず背中に激しい痛みが襲う。


「くっ……」


 葵も加勢したいのは山々だが自分の目の前の相手だけで精一杯の状況だ。


 (一体どうすれば……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る