第14話 アオイVS魔王ライガル


 キサラムとキロイが住む家から出てすぐにある広い庭。

 そこでアオイとライガルは向かい合い、臨戦態勢をとっている。

 何故こうなった?

 ワシはただライガルに今回の責任を取らせるためにここに連れてきただけじゃぞ?

 何なのじゃ?

 このアオイの狂暴さは。

 ことワシのこととなると豹変するのう。

 好いてくれるのは構わんが、こうもいちいち好戦的になられると困る。

 しかしまあ起こってしまったものは仕方無い。

 それに、ワシが審判をすれば大事になることは無いじゃろう。

 ・・・闘わずとも勝敗は目に見えておるがの。

 キサラムとキロイ、そしてミドリコは心配そうにアオイを見ている。

 まあ気持ちはわからんでもないが。

 相手は魔王じゃしの。

 ともかく巻き添えを喰らわんように、キサラム達とこの家はワシが守らねばな。

「では始めるがよい。」

「ウリャァァ!」

 ワシの出した開始の合図と同時に、アオイは細剣を振った。

 放たれた5つの風刃。

 5つ・・・

 こやつ、いつの間にか細剣の性能を更に引き出しておるぞ。

 さてはまた森で魔物を刻みまくったな?

 ・・・まあよいか。

 そんな3つから5つに増えた風刃がライガルを襲う。

 これは受けてはいけないと瞬時に察したライガルは右へ左へと華麗にかわす。

 魔王の中で一番攻撃力に特化しているとはいえ、さすがレベル1500のステータスじゃの。

 素早さもそれ相応あるわい。

 そしてその直後、ライガルは一気にアオイとの距離を詰めた。

 繰り出されるライガルの大剣。

 それを余裕の笑みでかわそうとするアオイ。

 しかし・・・


 ガツン


 諸に右肩に喰らっておるな。

 じゃが当然無傷。

 少し驚くライガルじゃが、そこで手は止めない。

 今度は大剣に闇の魔法を纏わせ、攻撃力を格段に上昇させてから振りかぶり振り落とす。

 アオイは鼻で笑いながらそれをかわそうとした。

 が・・・


 ガツン


 頭にまともに受けてしもうた。

 勿論無傷じゃが。

 しかし、これにはもうライガルの動揺は隠しきれん。

 何度も何度も攻撃を繰り出すライガル。

 それを華麗にかわそうとして全部喰らうアオイ。

 どちらも苛立っている様子じゃ。

 ライガルとしてはアオイにダメージが与えられない。

 アオイとしてはライガルの攻撃を綺麗にかわせない。

 まあライガルの気持ちはわかるが、アオイは別にかわす必要は無いんじゃないか?

 防戦一方は続くが、疲弊していっているのはライガルだけ。 

 このままでは先に体力を使い果たしてしまうと思ったライガルは、小休止とばかりに一旦距離をとる。

 じゃが、それはいけなかった。

 そこはアオイの間合いじゃ。

 アオイは待ってましたとばかりに、広範囲に数10本ものホーリーランスを出現させる。

 しかしライガルがこれを全部かわしきれないとしてもこの量じゃ。

 アオイの魔力では、一撃一撃に大した威力も無いじゃろう。

 勿論その事にアオイも気付いておる。

 つまり、狙いは別にあるのじゃ。

「てりゃぁぁぁ!」

 発現したホーリーランスを放つと同時に、アオイは突きを三回繰り出した。

 なるほどの。

 そういうことか。

 ホーリーランスに風刃を紛れ込ませたというわけか。

 線の攻撃から点の攻撃に変えるこのセンス。

 こやつ、戦士の才能は無いくせに戦闘センスは目を見張るものがあるのう。

 ライガルもこの撹乱の意味を見抜き、構えをとる。

 全てかわすのは出来ない。

 じゃからじゃろう。

 大剣を振りかぶり、迎え撃つ構えをとった。

 風刃を見極めるために、ホーリーランスを打ち消すつもりなのじゃ。

 迫る攻撃に、魔力のこもった大剣を振り下ろす。

 確かにこの威力ならばホーリーランスを消すことは出来るじゃろう。

 しかし運が悪いことに、大剣は風刃に当たってしまった。

 

 バキーン


 砕け散る大剣。

 驚愕するライガル。

 そして・・・


 ドスッ


 ドスッ


 左肩と右膝に風刃を喰らってしまった。

「グハァァァ!!」

 声を上げ、左膝を地面に着けてしまったライガル。

 大剣は砕け、大怪我も負ってしまった。

 もう闘いにはなりゃせんじゃろう。

 勝負ありじゃな。

 わかっておったことじゃが、アオイの勝ちじゃ。

「アオイさん・・・凄い・・・魔王を倒してしまうなんて・・・」

 驚きと感動の声を漏らすキサラム。

 まあそうじゃな。

 誰もあんな華奢で貧弱そうな女子おなごが魔王を倒してしまうなどと思わんじゃろうからな。

 さぞビックリしたことじゃろう。

 しかし・・・

「チェストォォォ!」

 アオイは止めをさそうとライガルに飛び掛かり、その首を狙う。

 フゥ・・・やれやれ。

 ワシは目にも止まらぬ速さでアオイとライガルの間に割って入った。

 そして指2本で挟んでアオイの剣を止め、発生した風刃もワシの魔力で消滅させる。

「!?何で止めるんですかぁ!」

 ワシが止めに入ったことが面白くないアオイ。

 やはり・・・

 狂戦士モードになっておったか。

 仕方無いの・・・

「アオイや・・・不服かの?ワシのしたことに・・・何か文句でもあるのか?」

 威圧の籠ったワシの言葉に、アオイは我に返った。

「あぁ・・・すみません・・・でしたぁ。ごめんなさいぃ・・・」

 剣から手を離し地面に落とすと、本当に申し訳なさそうに謝るアオイ。

「わかればよいのじゃ。」

 モジモジと幼子のようにワシの顔色を伺いながら謝られては、許さんわけにはいかんじゃろう。

 それに、反省するならこうなる前にしてもらいたかったのう。

 ワシはともかく、ライガルの怪我を治してやった。

 おっ・・・と、いかんいかん。

 つい治してしまったが、アオイの経験値にさせてやればよかったのう。

 まあよいか。

「どれ、もう気が済んだじゃろう。とっとと家に入って話の続きをするぞ。」

 ワシはキサラム達とライガルにそう告げると、アオイを連れて後に続いた。

 その道程。

 アオイは背後からワシに声をかけてきた。

「あのぉ・・・主様ぁ・・・怒ってますぅ?」

 そうオドオドと尋ねてくる。

 ああ、そういうことか。

 さっきの威圧を受けて、ワシが怒っていると勘違いしたのじゃな。

 あの時はそれが一番楽じゃからそうしたまでなのじゃが。

 もっと・・・そうじゃの。

 手刀で気を失わせたり魔法で眠らせたりといった方法もあったのじゃが、それだとこの後面倒じゃろう?

 じゃから威圧をかけて窘める程度で済ませたのじゃ。 

 それに、勝者が敗者に止めを刺そうとするのは当然の摂理じゃからな。

 なので別に怒ってなどいないぞ。

 ただライガルには生きていてもらわんと困るから止めただけじゃ。

「怒っとらん怒っとらん。じゃからそんなに落ち込むな。ただそなたの暴走を止めるためだけに威圧しただけじゃから気にするな。」

「でもぉ・・・私ぃ主様の弟分を殺害しようとしちゃったしぃ・・・もし主様に嫌われたら私ぃ・・・」

 ワシの言ったことにまだ納得しないといった様子のアオイ。

 ・・・

 ・・・しょうがないのう。

 ワシはアオイを優しく引き寄せ、抱き締める。

「怒っとらんと言っておるじゃろ。それに嫌ってもおらんよ。これから先、そなたが何か間違ったり危ないことをしようとしたら、そりゃあ叱ったり注意したりするじゃろうが、それで嫌いになったりはせん。安心しろ。」

 穏やかに、安心させるようアオイにそう言うワシ。

 それを聞いて安堵したのか、ワシの背中に手を回すアオイ。

「主様ぁ・・・主様ぁ・・・」

 肩を震わせ、何度も何度もそう言いながらアオイはこの後しばらく泣き続けたのじゃった・・・

 そんなにワシに嫌われるのが怖いのかのう。



 ・・・


 ・・・


「さて・・・ライガルよ。覚悟は出来ておろうな。」

 再びリビングに集まった後、ワシはライガルにそう告げた。

 ハァ・・・

 やっと話が進むの。

「・・・ああ・・・腕でも足でも持っていけ・・・」

 全て諦めたように言うライガル。

 いやいや、誰がお前の身体の一部なんぞ欲しがるか!

「まあそう身構えるな。何もそなたをどうこうしようとは思っとらん。そなたに対する罰。それはそなたの権力でここにいるキサラムに爵位を与えることじゃ。そうじゃな。伯爵くらいでよいかの。」

 ワシはライガルにそう命じる。

 これならライガルの国においてキサラムの立場は確立し、安全に暮らせるようになるじゃろう。

 貴族に対する敵対行為はライガルの国では重罪じゃからな。

「そ、それは・・・出来かねる。元々爵位とは・・・」

 ライガルは当然の反対してくるが、ワシはそれを途中で止めた。

「お主の言わんとしていることはわかる。しかしの。言ったじゃろ?これは罰でそなたに断る権利なぞ無いのじゃ。」

 そう、これは罰なのじゃ。

 例え多少無理があったとしても、ライガルにはこの命令をこなさなくてはいけない義務がある。

 反論なぞ聞いてやる必要は無いのじゃ。

「しかし、本来この国に貢献してきた者に授けられる爵位をいち冒険者に・・・しかも実力主義の魔族で伯爵位といったらレベル250は必要になる。どう見てもその者では実力不十分だ。」

 ライガルは、キサラムにはその実力が無いと言いたいのじゃな。

 フッフッフッ・・・

 そうくるじゃろうとは思っておったよ。

「レベルはワシが鍛えればどうにでもなるじゃろう。後は国への貢献度か・・・それならキサラムはワシの森の守衛になったのじゃ。ワシの加護を得る希少な存在。それだけでも十分そなたの国に貢献できているのではないか?」

 ワシが加護を与えるほどキサラムを買っているのには訳がある。

 それは妖精としての種族の能力。

 それが一つの要因じゃ。

 おそらく、いや、絶対キサラムはライガルに並ぶほどの強者になるじゃろう。

 そしてもう一つ。

 それは献身度じゃ。

 ワシの命に実直に取り組むことができ、そしてワシや妹の為なら命をかけることも出来る。

 実に鍛えがいのある奴じゃ。

 なので伸び代はまだまだあるじゃろう。

 このキサラムなら爵位を得て、ワシに更なる貢献をしてくれるに違いない。

 ワシの加護を受けていると聞いたライガルは一考した後、ポンッと手を打ち覚悟を決めた。

「・・・うむ。確かにそうかもしれないな。わかった。そこの女に爵位を与えよう。存分に国へ貢献するがいい!・・・それにこの者を貴族にしておけばお姉ちゃんとちょこちょこ会えるかもしれないしな・・・」

 最後の方はごちゃごちゃ言っててよく聞き取れなかったが、兎に角キサラムに爵位を与えることを決断したようじゃ。

 じゃがちと勘違いしておるようじゃの。

「いや、キサラムはそなたの国へあまり関与させんぞ?因みにキサラムの領地は、そなたの国のこの森に隣接する地域一帯じゃ。そうすればもう、此度のような不届き者の侵入を防げるじゃろう。」

 ワシの目的はあくまでこの森とキサラム達を守ること。

 従ってキサラムを国のゴタゴタに巻き込ませるつもりは一切無い。

「な・・・それでは・・・いや、それでもいいか。よし、そうしよう。」

 妙に聞き分けのよいライガル。

 よからぬことを考えてなければよいが。

「突然のことで呆然としておりましたが、よいのですか?私が貴族になどなって。」

 驚きと謙遜の表情でワシに聞いてくるキサラム。

 そうじゃったな。

 本人の了承も了解も無いまま話を進めてしまったの。

 じゃがまあキサラムなら期待に応えてくれるじゃろう。

「よいのじゃよいのじゃ。そなたは歳もとらんし、これで永久的にわしの森の守衛を勤めることが出来るじゃろ。宜しく頼むぞ。」

「はい!魔女様の為なら喜んで尽力致します!」

 いい返事でワシへの忠誠を再確認させてくれるキサラム。

 やはりこやつは良いのう♪

 期待通り、いや、それ以上じゃ。

「よし、話は以上じゃ。どれ、小腹も空いたことじゃしおやつにでもしようかの。」

 話も纏まり、気を良くしたワシは異空間収納からお菓子を取り出した。

「これは?」

「あれぇ?これってぇ・・・」

 始めてみるお菓子に首を傾げるキロイと、出した覚えのあるアオイ。

「これは二日ほど前にアオイに用意してもらったラスクという食べ物じゃ。旨いから皆食うてみい。」

 そう言ってワシはテーブルの上にラスクのたっぷり入った篭を置いた。

 それを恐る恐る手に取るキサラム達。

 ワシとアオイはヒョイッと一枚ずつ取ってすでに食べ始めている。

 ワシ達が平気で食べている姿を見て、迷いは無くなったようじゃ。

 それぞれが口にラスクを運び、パクリと食べた。


  !!


「美味しい~🖤」

「サクサクゥ~🖤」

「旨い!」

 初めて食べたそれぞれが、感動の声を上げる。

 そうじゃよな。

 ワシも最初食べたときは同じ反応じゃったわい。

 じゃが皆が幸せそうにおやつを食べている最中、一人だけ深刻そうな顔でラスクを見つめている奴がおる。

 何を考えておるんじゃ?

 あまりいい予感はせんが・・・

「俺より強くて、こんな美味しいものまで用意してくれる・・・これは・・・アリだな。」

 食べながら、何やらブツブツ呟いているライガル。

 そして急に立ち上がったかと思うと、向かいに座るアオイの手を握った。

 そして・・・

「アオイ殿、どうだ?俺の妃にならんか?」

 いきなりのプロポーズ。

 そしてアオイの反応は・・・

「うげぇ・・・」

 ライガルをまるで汚物でも見るような、物凄く嫌そうな顔をしておった・・・

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