第12話 暴虐の魔王ライガル


 ワシはアオイとミドリコを連れて空間移動を使った。


 空間移動を使えば一瞬でキサラムの所へ行ける。

 そして目に写る光景も一瞬で頭に入ってくる。

 森に入る手前に広がる荒野。

 そこには百を越える魔族の軍勢と・・・

「キサラムさんん!」

 傷だらけのキサラムじゃった。

 現在、明らかに格上の魔族3人と対峙している様子じゃ。

 フゥ、満身創痍のようだが、命に別状は無さそうじゃな。

 一先ず安心したぞ。

 じゃがしかし・・・

 やってくれたな。

 こんな多勢に無勢の状況で、女一人によくも・・・

「魔女様・・・すみません・・・私に力が無いばかりに・・・」

 ワシが来たことで気が抜けてしまったのか、キサラムは片膝をついて謝罪の言葉を述べた。

「何を言っておる。そなたはよくやった。きちんと守衛の役割を果たしたの。後は任せておけ・・・アオイや。キサラムの治療をしてくれ。」

「は、はいぃ。任せてくださいぃ。」

 ワシの指示に素直に従い、アオイはキサラムに回復魔法をかけた。

 うむ、散歩の成果が出ておるようじゃな。

 所々肉は抉られ、骨は折られ、出血が止まらないキサラムの傷を、痕も残さず治すことが出来るようになっておる。

 それにしても・・・

 素直に詫びに来ればよいものを・・・

 まさかこんなことをするとはの。

「おい!貴様ら!よくもワシのかわいい僕を傷つけてくれたな!覚悟は出来ておるんじゃろうな!」

 さすがのワシも腸が煮えくり返る思いじゃ。

 キサラムの傷は明らかに軽傷ではない。

 力の差があるのをいいことに、散々痛ぶったのじゃろう。

 それなのに・・・キサラムはワシが来るまで闘志を消さず、こやつらに立ち向かったのじゃ。

 何と健気な・・・

 そして何と責任感が強いことか・・・

 痛かったじゃろうに・・・

 魔族ども・・・

 ただではおかんぞ。

 ここにいる奴らの血肉だけでは飽きたらん!!

 やはり・・・滅ぼすか。

「ハッハッハッ!やっと来たか!覚悟するのはどっちかな!魔王様からその女は殺すなと言われたから痛ぶる程度にしてやったが、お前は殺すなとは言われてないからな!」

 調子にのって喋りだしたのはこの前の魔貴族の男。

 ふん。

 ワシの殺気すら感じられん小物か。

 こんな奴の為にキサラムが・・・

 許せんな。

「この3人は魔王ライガル様直属の精鋭だ。どう頑張ってもお前じゃ勝てないんだよ!ハハハァ!いけー!その女を殺せ!!」

 魔貴族の合図で、先程までキサラムと対峙していた3人の魔族がワシに向かってきた。

 正直この程度の奴ら、指一本使わずとも倒せるのじゃが。

 ワシは敢えて身体を動かすことにした。

 最近運動不足じゃったしな。

「ハァ!」

 掛け声と共に繰り出されるそれぞれの得物達。

 一人は剣、一人は槍、一人は斧。

 どれもが魔力が込められており、威力もスピードも通常の一撃より跳ね上がっておる。

 まあそれでもワシにとってはどうってことは無いのじゃがな。

 止まって見えるそれを、ワシは優雅にかわす。

 多少驚いたようじゃか、奴らは再度攻撃を繰り出してきた。

 勿論それすらも余裕でかわす。

 その後も、何度も何度も攻撃してくるがワシはその全てを舞を踊るかのようにかわしていった。

 いや、実際にはただ舞を舞っていたのじゃがな。

「主様ぁ・・・綺麗ですぅ・・・」

「素晴らしい・・・」

 アオイとキサラムの感動している声が聞こえてくる。

 ワシは単純に鈍った身体をほぐしているだけに過ぎないのじゃがな。

 しかしさすがに飽きてきたの。

 そろそろよいか。

 3人の攻撃が一斉に繰り出される瞬間、ワシは人差し指にちょびっとだけ魔力を込め軽く奴らの武器に当てた。


 パァァン!


 派手な音を辺りに響かせ、壊れる武器達。

 そして得物を無くした3人の魔族達は勢い余ってワシに飛び込んでくる。

 勿論それを軽くかわすワシ。

 更には後方に行かせないように、3人の腹を蹴飛ばして前方に転がしてやったわい。

 本当に何てことはない連中じゃ。

 ワシがキサラムを10日程鍛えてやれば、簡単にこんな奴ら凌駕するじゃろう。

 フム・・・

 そうじゃな。

 鍛えてやるかの。

 まあ何はともあれ、こやつらを何とかせねばな。

「・・・で?ワシをどうすると言った?」

 ワシは威圧をかけながら3人の精鋭魔族と魔貴族に詰め寄った。

「ば、ば、化け物め・・・お前はいっ、一体何なんだ!」

 腰を抜かし、地面に尻を付けながら後退る魔貴族の男。

 何だとは何じゃ。

 ワシはワシじゃ。

 それ以上の何がある?

 それにしても・・・

 ああ、もう!

 イライラするのう! 

 何故にあやつは未だ謝罪に来んのじゃ!

 ワシはこの軍勢の一番後方にいる、この中ではワシの次に魔力の高い魔族に苛立ちを覚えていた。

 仕方ない。

 ワシは持てる魔力の3%程を解放した。

 たかが3%じゃが、この場では十分じゃろう。

「あ、あ、あ、あり得ない・・・さっきので手を抜いていただと?」

「こ、こんなの・・・我々でどうにか出来る訳がなかった。」

「もしかして俺達・・・やってはいけないことをやってしまったんじゃ・・・」

 怯えた目でワシを見る3人の魔族。

 いや、この3人だけではない。

 ここにいるワシとアオイとミドリコとキサラムとあいつ以外の魔族達も、ワシの魔力の圧に気圧され立っていることすら出来ないでおる。

 全くだらしがないのう。

 この程度で精鋭部隊を名乗っておるのか?

 見たところ先程の3人のレベルは大体150~200程。

 それ以外は100前後。

 こんな奴らを引き連れて、お山の大将気取りか?

 ライガルのやつは。

「久しぶりだな。均衡の森の魔女クロア。」

 身動きの取れない軍隊の間を縫って、一番後方からワシに近づいてくる一人の大男。

 こやつこそワシが来ると思っておった相手じゃ。

 この森の北西付近にある魔族の大国。

 こやつはそこに君臨する王なのじゃ。

 『暴虐の魔王』と呼ばれているが、ワシにとってはただの調子に乗った若者に過ぎん。

 なので何度も懲らしめてやったものじゃ。

 今回、こやつのところの貴族がワシに迷惑をかけたからの。

 その詫びを待っていたのじゃが・・・

「ライガル様、お願いします。この女を成敗してください。」

 小物魔貴族がライガルにワシを倒させようとする。

 本当に何もわかっておらんようじゃな。

 ライガルがワシに勝つことなど出来るわけがなかろう。

 この魔貴族は相手の力量を丸っきり、全然測れないようなのじゃな。

 こんな奴を貴族にしているとは・・・

 これは王が悪いの。

 ライガルはワシの前まで来ると、その場で仁王立ちし、その高い身長でワシを見下した。

 何じゃ?この態度は。

 気に食わんのう。 

 そう思い、脛でも蹴飛ばしてやろうとしたその瞬間、ライガルは片膝をつきワシに頭を下げた。

「この度は・・・誠に申し訳なかった!何卒、何卒怒りを鎮めてもらいたい!」

 恐怖を含んだ声でワシに謝罪するライガル。

 ふん!

 最初からそうやって謝ればよかったのじゃ。

 しかしもう、そう簡単には許してやらんぞ!

「許してほしいか?じゃが遅かったな。ワシが現れた時点で謝りに来なかったこともそうじゃがその前に、キサラムを傷付けた時点でアウトじゃ。覚悟は・・・出来ておるんじゃろうな!」

 そう言って、ワシは更に2%上乗せして魔力を解放した。

 流石にもうワシの前に立っておる奴などおらんな。

 ライガルでさえ最早両膝を付き、頭を上げることすら叶わんようじゃ。

「ワシは今からそなたの国を滅ぼす。異論は許さん。」

 冷徹に言い放つワシ。

 これは天災なのじゃ。

 ワシの怒りを買うということは、天の怒りを買うことと類似なのじゃよ。

 諦めてもらいたいのう。

「ま、待ってくれ!国には善良な奴だって大勢いるんだ!だから・・・出来ることならなんでもする!頼むから許してくれ!」  

 必死にお願いしてくるライガル。

 う~む・・・

 まあワシとしても、無垢な魂を持つものがいるかもしれんところに広範囲殲滅魔法を放つのは少し気が引けるのう。

 しょうがない。

 ここは別の償いで許してやるか。 

「・・・フゥ。仕方無いの。今回はそなたの顔に免じて国は滅ぼさずにいてやる。有り難く思うがいい。」

 ワシは魔力の圧をとき、ライガル達を解放した。

「本当に・・・本当に申し訳なかった。」

 許しを得たと思ったライガルは、ほっと一息ついて胸を撫で下ろした。

 いやいや、まだ許してはいないがな。

 滅ぼすのを見逃してやっただけじゃよ?

 なのでワシはライガルに許すための条件を言おうとしたのじゃが・・・

「ちょっと待ってください!ライガル様!このままこの女には何もしないのですか!俺はこの前この女に殺されかけたんですよ!この女を放置しないでください!」

 例の空気読めない小物魔貴族が横槍をいれてきた。

 何なんじゃ?こやつは?

 後で適当に始末してやろうと思っておったのじゃが、どうやら酷い責め苦を自らに所望しておるらしい。

 ならばそうしてやろうかの。

「おい!黙ってろ!やっと落としどころができたんだ。お前は口を出すな!それからもう絶対この方に手を出すなよ!元はと言えばお前が『均衡の森の魔女の偽物』が出たから退治してくれと泣き付いてきたのが原因なんだからな!」

 ライガルは魔貴族を叱りつけた。

 まあ当然じゃな。

 また話をややこしくしてワシの怒りを買うわけにもいかんじゃろうからな。

 ライガルも必死じゃの。

 しかしそういうことじゃったか。

 ライガルはワシの偽物が出たことをけしからんと思い、精鋭部隊を率いてやって来たのか。

 そして真偽がわからん状態の内にキサラムと出会い、交戦したのじゃろう。

 キサラムを殺すなと命じたのも、もしかしたら本当にワシの部下かもしれないという心配があったからじゃ。

 もし本当にキサラムがワシの部下だとして、その部下を手にかけてしまったら・・・

 ライガルならどうなるかわかっておったじゃろうからな。

 ということは・・・

 フム。

 この場合、ライガルも被害者の一人かもしれんな。

 しかしこんな奴を貴族にしておるこやつも悪い。

 ライガルには国の総責任者として罰を受けてもらわねばな。

 この魔貴族の男も、少しは魔王に申し訳ないという気持ちを持って反省すればまだ可愛げがあるのじゃがの・・・

 じゃが、やはり何も響いていない様子の魔貴族の男は、叱られたことを面白く思わない。

 しかもそれだけじゃ治まらず・・・

「何を言ってるんです!もういい!俺がこの手で始末してやる!」

 そう言ってワシにかかってくる魔貴族の男。

 ハァ・・・

 やれやれ。

 面倒くさいのう。

 そう思い、軽く消し炭にしてやろうと手を振ろうとしたワシの前に、ライガルが魔貴族の男の左腕を切り落とした。

「ギャアアア!!クソ!クソォォォ!」

 傷口から大量の血を流しながらも、それでも止まらない魔貴族の男。

 すると次はキサラムがワシの前に立ち、魔貴族の男の右腕右足を切り落とした。

「ギャッ!ギャハァァァァ!!」

 もうどうにもならず流石に止まろうとする魔貴族の男じゃったが、片足だけでは勢いが殺せずそのままゴロゴロと地面に転がってしまう。

 自業自得じゃな。

 こやつはもうおしまいじゃ。

「ウガァァァァァ!チクショーー!イテェヨーー!ウギャァァ!許さねぇ!!呪ってやるーー!呪ってやるぞーーー!!」

 地面でのたうち回り、魔貴族の男は憎しみの声を上げ続ける。

 ふん。

 呪うか・・・

 ・・・いいだろう。

 こやつには口先だけではない、本物の呪いをかけてやろうかの。

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