恐ろしくも美しい、金魚に魅入られた若者の末路

 時は明治。妓楼の次男、涼次郎は金魚をこよなく愛する青年でした。体の弱さの故に、望んだ道も諦めなければならかった彼が出会ったのは、雄の金魚に追い回される美しい雌の金魚。哀れに思った彼女を買ってしまったことから、彼の日常は少しずつ狂い始めて——。

 ままならない現実への閉塞感と、美しい金魚へ向ける偏愛。兄に虐げられながらも表面上は穏やかであった日々が、少しずつ少しずつ不穏な影に覆われていくのがひしひしと感じられて、あっという間に最後まで読み切ってしまいました。

 迎えた結末は、恐ろしいもののはずなのに、そのあまりの純粋さゆえに、どこか物悲しく、とても美しい余韻が感じられました。

 背筋がぞくぞくしてしまうけれど、秋の夜長にぴったりの、恐ろしくも儚く美しい物語です。

その他のおすすめレビュー

橘 紀里さんの他のおすすめレビュー936