【御礼企画2】大切なモノは誰にも知られてはならない

アルファポリスでお気に入り100記念です!

ギャグでグダグダな作品ですが

読者様に支えてもらって書き続けることができています

ありがとうございます!

ネタがなくてこんな話ですが、すこしでも喜んで貰えたら幸いです

毎度誤字脱字多くてごめんなさい




【大切なモノは誰にも知られてはならない】






「それは何?」



「あっ!ダメ!」

小さな子供が地面に座り込み両手で何かを隠すように握りしめていた

俯いたまま僅かに顔を上げてチラチラと自分を見上げる


「大丈夫。嫌がることはしない」

その一言に安心したように息を吐き

そしてふにゃりと綿菓子のように笑う

その顔を見るたび何度俺は連れ去ってしまいたい衝動に

何度胸を苦しませてきたか数えきれない

そんな胸中も知らない哀れな天使のような子は

頬染めて俺を優しく見つめてくれる




冷たいまるで人形のようだと言われ感情がないと

俺と一度知り合ったものは皆そう言う

そんな俺を相手にしても目の前の小さな…

本当にか弱く無垢なこの子は

俺を人間にしてくれる


花が日の光がなければ咲かないように

水がなければ自由に大海を泳げないように

翼が無ければ空高く羽撃くことが出来ないように

俺にとってお前はかけがえのない

己の存在より大事な存在であった



「…どうしたの?辛いの?」

舌ったらずの幼い声でそう言った


「違う。平気だよ」

お前は知らない

お前を笑わせたくて鏡の前で笑顔の練習をする滑稽な俺を


「よかったぁ!ねぇねぇ!今日は何して遊ぶ?」

握りしめていたものをポケットにしまい

これからどんな遊びをするかを想像して笑っている


「…そうだな。じゃあ都の方で流行っているカードゲームを。いや、せっかく今日は天気がいいんだ。乗馬でもして見ないか?」

お前は知らない

訓練や勉強よりお前が楽しみ喜んでくれる事を調べる毎日の努力を


「もう馬に乗れるの!?すっごぉい!流石だね!」

その場で跳ね両腕を空に伸ばし自分のことのように喜ぶお前


「いずれお前も乗れるさ。だから好きなだけ乗れるようになるまで俺の後ろで馬に乗って走ろう」

お前が喜ぶからそうした

お前にすごいと言われその笑顔見るために俺は必要な全てを身につける



「うん!でも、僕が乗れるようになっても一緒に乗りたいな」

当たり前のように俺の冷たい手を柔らかく汚れと恐れを知らない美しく愚かなお前が俺に触れ手を握る

その温もりは俺にとって命の血の巡りだった


「…お前がそう望むなら、いくらでも乗せてやる」

きっと俺はーーーーなんて言葉では言い表せられない

ドス黒い中身の感情だ

願わくば一生お前に気づかれたくない

臆病な俺の小さな願い

願わくばそんな俺を暴いてーーー欲しいなんて

身勝手で甘美な願い


「ふふふ!やったぁ!大好きだよ!」

純然に真っ白で残酷な言葉


「俺も大好きだ」

白々しく伸ばす黒い手


「じゃあ約束!」

「わかった」

誰にも教えない二人だけの約束




「さぁ一緒にいこうよ!ログナス!」

光が手を伸ばす


「ああ、一緒にゆこう。セウス」

影が烏滸がましくも触れた



世界で一番

幸福だった






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「あれ~ん~……んー。無いなぁ」

「何が無いんだ?」


「うにゃっ!?」


猫のように飛び跳ねてしまった僕


「ろ、ログナス!気配消して後ろから現れないでよ!」

驚いて早く鼓動する胸に手を添えてそう言った


「すまなかった。つい探し物をするセウスが可愛らしくてな」

涼しい顔をして言い放つ


「そ、そういうのはいいから」

お世辞だとわかってても顔が赤くなってしまう

この男は息をするように甘い言葉を放つ

そのままではその気もないのにどこかのご令嬢が勘違いをしてしまうよ罪な男め!

そんなことを思って見つめるが口元だけで微笑まれた

様になっていてかっこいい….じゃなかった!


「てか何でいるの?今日来る日だったかな」

確か二日前の手紙に北の雪原地域まで騎士団で向かい

そこで近隣住民を襲っているという凶暴化した大型魔獣が現れたらしく。その討伐に向かっていたはずだ

あそこから早馬でも三日はかかるのにどうして居るんだろう?

そう疑問に思った


特に反応を返さずに僕に近寄り頬を撫でるログナス

自然な動きでつい大人しく触られてしまっていた


「予定より早く終わらせたんだ。なので来た」

当然だと疑問すら抱いていない顔をしている

太々しいな

別にダメじゃないけどさ


「そう…ん?二日前だよね出立したの」

「そうだ。午前のうちに俺だけ先行して到着してたまたまその場に討伐対象がいたから討伐した。なので直接直帰した」

日帰り気分なの?

しかも直帰って自宅扱い…まぁ親戚の子供のように出入りしてるけどさ


「仕事は?王都の方でも書類仕事はあるでしょ?」

「問題ない。直帰途中団の者たちに後処理は任せたし内務作業は既に予定通り終わらせてある」


「そうお疲れ様」

「ありがとう」

チュッと額にキスをされる

真顔なのにどことなく嬉しそうな気配をされるので恥ずかしいからやめてとは言えない


「それで何を探しているんだ?」


「あーそうだった」

途中でしたね

本を読みながらお茶をしていたんだけど

つい手元が外れてカップを倒してしまった

素早くユダが火傷の確認と後処理をしてくれたんだけど

お気に入りのズボンが汚れてしまったのでシミ抜きを頼んだ

先に服を用意してくれようとしたけど自分のミスだし

そのぐらい自分で用意できると部屋の中を探していた

そう話すとログナスは納得した顔をした後

目線を下に下げた

ん?


「…だからそんな格好なんだな。俺はかまわないが風邪をひく。ん、少し足の付け根の皮膚が赤いな…」

「んぁ」

僕の露出したシャツからはみ出たお尻と太ももの中間を

わざわざ手袋を外してなぞるように触れた



すっかり忘れていた

自室で誰もいなかったからシャツ一枚に下は裸だった

その格好でうろちょろしていて

部屋に現れたログナスと普通に会話していた

………………………………




「うわぁああ!!!??」


僕はログナスの手袋を奪い取り顔に投げつけて逃げ出した

廊下の窓から見える景色は穏やかで

僕の内心と真逆だとすら気づかず半泣きで走った





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫






「落ち着いたか?」

「……はい」



すぐに追いかけてきたログナスに確保され

宥められてちゃんとパンツを履いて今に至る......


チラッと廊下の曲がり角からカールトンが笑顔で親指を立てていたがなんでだろうすごく腹が立つ

今は自室にいる

ソファに座って互いに向き合いながらお茶をたしなんでいる

ふぅ......何とか落ち着いてきたぞ

たかがちょっとお尻が見えちゃったくらいだ全然気にしてない

同性だし昔から一緒にいたログナス相手だし恥ずかしいことなんてないよね小さい頃は一緒に川遊びしていたぐらいだし今更こんなことぐらい全然だし全然


「やはり塗り薬ではなく魔術で治療したほうがいいんじゃないか?いや...なんでもない」

気を使っての配慮だとわかっているがログナスが言い終わる前に僕の表情を見て言葉を変えた

大人しく優雅にお茶をたしなんでいる


そういえば同じようなことが依然あった気がした

いつだっただろう...

あれはたしか...


考え事をしながら皿に乗っている一口サイズのクッキーを掴もうとしたが空を切る

「あれ...」

いつの間にか空になっている

そんなに食べちゃったかおかわりを頼もうか迷っていると視線を感じた

「何?」

ティーカップを受け皿において不思議そうに見つめてログナスは言った

「いつペットを飼ったんだ?」

ペット?ペットってあのペット?

うちには屋敷を我が物顔で散歩する悪魔猫だけじゃないか動物は...

今は庭で昼寝でもしてるんじゃないかな

ではなぜ僕を見つめながら不思議そうな顔でログナスはそう言ったんだろう

もしかして僕がペット?いやいやそんなわけないじゃないか落ち着け僕

一旦思考を落ち着かせようと自分の分の紅を飲もうと口元の寄せたが叶わなかった

あれ?

持っていたはずのティーカップがない...

??

すると至近距離でごくごくと小気味いい音がした

もちろん発生源は僕じゃない

下を向いた

そこには膝に図々しく座ってティーカップを両手で持って美味しいそうに嚥下した白い毛むくじゃらの生き物がいた

「...え?」

「?」

え?みたいな顔をされても...


ティーカップをちゃんと丁寧に皿の上に置いて膨らんだ自分の腹をさすっている

なんてふてぶてしいんだ

毛色も白くもふもふで緑のパンツと黄緑のスカーフをつけた白い子猿がいた

瞳が新緑のように鮮やかで綺麗だった

見つめていると頬が赤くなり照れちまうぜ...というように頬を爪先でかく仕草をした



「珍しいな白い猿なんて」

「...初めて見た」


「猿は動物売買の売り場かサーカスでしか見たことがなかった。どこで拾ったんだ?」

「拾ってないよ」

「買ったか貰ったんだな。陛下か王妃様...まさかリオスか?なら今すぐ捨てたほうがいい。監視魔術が仕掛けられてるかもしれない」

真面目な顔でログナスが言った

「あはは。流石にリオス兄上でもそこまでしないよぉ」

「……」

異母兄弟であるリオスからの贈り物の品にも怪しい点が幾つもあり粛々とユダが選別していることをセウスは知らなかった


「…かわいいなぁよすよす〜」

白いお腹と頭を撫でる

小猿特有のフワッとした感触が気持ちがよい

小猿もまんざらでもないのか仕方ねぇなと言う顔をして触らせている

その様子をじっとログナスが見つめる

そっと静かに手を伸ばす

だが触れそうになる直前にその手を弾かれる

「……」

「……」

無言で見つめ合う小猿とログナス

そして始まった

シュッ パシッ シュッ パンッ シュッ パシュッ

小猿とログナスが素早い動きで触れようとするログナス

それに順応した動きで叩き落とす小猿

セウスは驚きながらも見つめている

そして互いに膠着する

「…やるな」

「…ヒヒッ」

そして握手をしてその場は決着した

何がしたかったんだ?


「なんですか?…それ」

入室したユダが開口一番にそう言った

僕も知りません


「知らないものを容易く入れないでもらえます?」

「いつの間にかいたんだよ」

ユダと会話しながらも小猿をもふる

「…なんとなくムカつきます」

僅かに眉根を寄せていった

「邪気はないようだから危険はないと思う」

「ログナス様がそうおっしゃるならそうなんでしょうけど….」

主人に対して当たり強いのにログナスに対しての対応の差はなんですか?

確かに信頼度的には圧倒的だけどさ


「…屋敷に無断で入れる時点で普通じゃありません。捨ててきなさい」

「そんなぁ」

「ダメです。どうせ最初だけ世話して後は私に面倒見させる展開が見えます」

「えー」

「猿まで増えてサーカスでも開くおつもりで?猛獣と珍獣はもう結構です」

「仲間に対して辛辣ー。こんなに可愛いのに…」

「どこがですかこんな丸っとした小猿なっ!」

目を閉じて小言を言ってお茶のおかわりを注ごうとしたユダの小ぶりな綺麗な輪郭のお尻をパンと叩くいい音がした

ギギギッと音が鳴りそうな音を出して首を動かすユダ

僕は青ざめながら首を横にする

僕の膝の上で嬉しそうに笑みを作り両腕を掲げパンパンと手を叩いて笑っている小猿

犯人は陽気だった

「……」

「ゆ、ユダさん!相手は小猿だからね!そのナイフしまって!」

ドス黒いオーラを出しながら無言でナイフを向けるユダ

必然的に僕にもナイフ向けられてるから怖い


「…剥製にして貴族にでも売って差し上げます」

「ヤる気まんまんですね!」


「落ち着いてくれユダ。お前らしくないぞ」

「……お見苦しいところを。申し訳ございません」

主人に言おうねそういうこと


「構わない。何事にも全力を尽くす姿勢はすばら…」

パンッ


「「「…」」」


パンパン!

小猿が僕の膝の上で小躍りし席を立ってユダを諌めてくれたログナスの凛々しいお尻をパンと叩いた

ログナス本人は特になんとも思っていないようだ

「…追い出しましょう」

「ま、まって!」

僕は魔術式を構築し始めたユダの前で子猿を守ろうと盾になる

「まだ子供だからさ!ね?」

「免罪符になり得ません。高く売れそうですね」

「早まらないで!」

パン!

え?


僕の後ろから小気味いい音がした

だが僕のお尻は叩かれていない

振り返ると子猿の腕がログナスによって掴まれている

僕のお尻を叩こうとしてログナスに止められたのか

「名も知らぬ小猿。それは許せん。わかったか?」

こちらからは見えない顔で圧をかけているようだ

本人には自覚はないらしい

小猿は顔が青ざめてプルプルしている

「あ、ありがとうログナス!もう大丈夫だから!」

つい可哀想で抱き寄せた

こんな小さいのに震えて

怖かったよね


「…ヒヒッ」

笑ってる?

下を向くと小猿は布切れを持って笑顔を浮かべていた

何か嬉しいものでも見つけたのかな

「どうしたんだぁお前?ニコニコして可愛いなぁあはは…は?」

その布は水色の絹でできたサラサラとしていて蒸れなく着心地の良いパンツだった

よく知っている

だって僕のだもん

「んなぁー!!」

ドサッ

捕まえようとして避けられ僕は情けなく床にくっつく

「大丈夫か?」

「う、うんそれより、返して」

ニマニマと笑って僕のパンツを掲げている

やめて!


「身の程知らずの小猿め」

ユダが怒って小猿に迫る

知ってたよ僕お前はいざとなれば忠臣キャラだってことをさ!


「それはオーダーメイドの一級品でアイロンしたての下着ですよ。返しなさい!」

そ、そっちかぁ!


素早く小猿に迫り手を伸ばすユダ

取ったと思ったが触れる刹那

小猿はまるで武道の足踏みのように動きかわす

「なっ!?」

「ヒヒッ」

小猿はソファの上で跳ねて笑っている

やめてユダを怒らせないで!

死者が出る!


「こらダメだろ小猿」

ログナスが後ろから子猿の両脇を掴み持ち上げる

小猿は気づかなかったようで逃げようとするが叶わない


「ナイスログナス!」

「役に立てたなら良かった」

「フフ剥製…」

ダーツのようにナイフを投擲するユダ

眉間に刺さりそうになったがログナスが小猿を抱えたままクルリとまわり回避する

「邪魔をなさらないでください」

ユダの手から緑色の光が放たれる

植物魔術で蔦が現れ小猿を捕まえる

だがログナスは腕力だけで引きちぎる

「クッ」

「落ち着けユダ。ほらお前も謝れ」

小猿をぬいぐるみのように持ち突き出すログナス

逡巡した顔をした後ペコリと頭を下げる

「…」

「ほら動物が謝ってるんだからね?僕からも頼むよ」

そう懇願する

子猿の剥製とか見たくない

「…仕方ありませんね。次は…」

小猿を睨んでナイフをちらつかせる

それを見て小猿は怯えて後ろのログナスに抱きつく

まるで襷掛けした鞄のようでちょっと面白い

「離れてくれ。俺の胸はセウスのものなんだ」

僕初耳です

「…いい加減握りしめているパンツ返して」

ログナスの首に腕を回しているせいでちょうど口元にパンツがある

履きたてだから不衛生ではないけど

気持ち的に嫌

あ顔を動かさないで!


「さぁ返して」

後ろから子猿を掴み離そうとするが離れない

「……親だと思ってたりして」

「それは困る」

ふふ真顔で困るって言ってもねぇ

「俺はセウスとの子以外作る気はない」

「それは違う!」

色々とね!


「は・な・れ・ろ・パ・ン・ツ返せー!」

「ヒヒッ」

「わっ!」

パッと小猿が離れたそのせいで僕は後ろに倒れるけど

ログナスが素早く腰に手を回し支えてくれた

「ありがとう…」

「構わない」

ぎゅっと抱き寄せられる

もう大丈夫なんだけど…


部屋の窓枠に登りこちらを見つめる小猿

その手には僕のパンツと何か光るものを持っていた

なんだろ

「ッ貴様!」 

上から焦ったような声が聞こえ見上げると

ログナスが眉根を寄せ険しい顔をしていた

「返せ!」

素早く動き小猿へ手を伸ばしたが小猿は窓から屋根に飛び移ったようで窓枠に手をかけたログナスが忌々しげに見つめる


「取り返してくる。セウスは待っていろ」

そう言ってログナスも屋根に飛び移ってしまった

僕は流れについていけずぽかんとする

「…下着どうするんです?私は知りませんよ」

そう言ってユダは颯爽と部屋から去っていった

……


僕のパンツ!!


意識をハッキリさせて僕はログナス達を追いかけた



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「ど、どこに行ったんだよぉ〜」

トコトコと屋敷内を捜索する

今は屋敷のオープンテラスにいた

白い床とテーブルとチェアがありそこから眼下に庭が見える

走って暑くなった体に外の風が心地よい

「あれ坊ちゃんどうしたんですかぁ?」

気の抜けたような声が聞こえ顔を向けるとそこには

ガーデニングの中央にカカシのように吊り上げられているカールトンがいた

「何をしてるの?」

「ここでお庭を見守るお仕事を任されたんですよ!」

「暇じゃない?」

「全然!アリさんが可愛いです!」

楽しそうで何よりだ

「そう。…ログナスと小猿見なかった?」

「ログナス様と小猿?ですか?」

キョトンとする

そりゃそうだよね

「あれですか?」

磔にされた体で自由な部分の手で斜め上を指差す

その先を見る

ログナスが屋根を身軽に走りながら追いかける

小猿も追いかけてくるログナスに負けずに器用にジャンプや狭い隙間を通って時間稼ぎをして逃げている

人の家の屋根で何してるのさ…


「あはっ!楽しそうですねぇ!」

ガシャンッ

間を詰めたログナスから離れようとした小猿がバックステップした

そのままこちらに落ちてくる

あ、危ない!

と思ったがくるくると空中で周り窓の屋根を緩衝材にして落ち、カールトンの頭に着地した

「うわぁ!お猿さんですぅ〜!」

喜べるんだねそれ


ストン…

「ログナス」

「時間がかかってすまない。思ったよりできるやつでな。下手に本気を出すと怪我をさせてしまう」

ちゃんと配慮してくれているんだね

「パンツがダメになってしまうからな。殺せない」

「そっち!?」

やはり優先度はそっちが高いんだ

ありがたいようで複雑な気持ちでもある



そんなことを話していると小猿が手すりに飛び移り去っていってしまった

「あっ!?」

「どうしたの?」

拘束されたままのカールトンが驚いたような声を出した

「わ、私のおやつが盗られてしまいました」

シクシクと泣き出す

「…取り返すから待っててね」

「はい!!お待ちしてますね」

陽だまり…直射日光に照らされながら微笑んだカールトンを背に追いかけようと走り出した

「あーすばしっこいね」

下を見ると既に中庭に行ってしまったようだった

一階に降りないと

そう思った時担がれる

「…ログナスさん?」

「首に捕まっていろ」

「えっ」

返事を返す前にお姫様抱っこをしたままログナスは飛び降りる

ここ三階だけど!?

芝生に音もなく着地する

そのままログナスは小猿が消えた方へと走り出す

「降ろしてよ!」

「こちらの方が早い」

「そ、そうだけどさー」

子供扱いのようで複雑……確かに揺れもなく安定感抜群で眠くなるくらい居心地はいいけどさ…



そのまま追いかけていると

正門近くで馬車を掃除しているヘイム達がいた

「おう坊ちゃん達!相変わらず仲良しだな」

「もう兄さん!揶揄わないの!」

「お?そんなつもりはなかったが、すまなかったな」


二人とも白いシャツ一枚で作業していて暑かったのかはだけている

「お仕事お疲れさま!あと小猿見なかった?」

その言葉に二人は顔を見合い、そして答えた

「見たぜ」

「はい見ました」

でかした!

「可愛い白い小猿ですよね。僕初めて見ました」

「俺もだな。動物は好きだからもっと遊びたかったな」

二人には好印象のようだった

「何かされなかった?」


「いえ、特には…」

「そうだな。掃除をしていたらバケツの水を倒されたぐらいだ。ちゃんとバケツも直してくれたし汗拭き用にか布までくれたからな!」

ニカっと笑って頬の汗を布で拭ったヘイム

「そ、それ!?」

「それ?」

首を拭き鼻を拭く

ちょ、止まって!

指摘され布を開くヘイム

まさにそれは僕のパンツだった

「これは、パンツか?」

「…ッ!」

広げられたパンツを叩き落とすように奪い取る

「まさか坊ちゃんのか?悪かったな汗拭いてしまった」

「……別にいい。それじゃあね」

黙っていたログナスを急かし捜索を続行する



「…何を考えてるの?」

「セウスのパンツで汗を拭く。それはどんな感じだろうと熟慮していた」

「世界一無駄な熟慮だからやめて」


そのまま心を擦り切れさせながら追いかける


ドカン!ガシャンッ!


何かが倒れる音が聞こえる

「室内からだ!」

屋敷の中へ入る

扉近くの部屋

ここは展示室だ


「おやめなさい馬鹿猿!それいくらすると思って…な、投げるのはおやめなさい!どこに乗っているんです!」

慌て苛立った声が聞こえた

この声はユダだ

嫌な予感がする

ログナスに指示しゆっくりと部屋を覗く

すると大きな壺の上に小猿が片足で乗っており

手には絵画を持って振り回している

手に持った物をポンポンと投げそれを素早くキャッチするユダ

完全に遊ばれている

「…もう許せません。拘束せよ!」

部屋の壁の模様が動き形を成して小猿を囲み拘束しようとした

だが回避するため不安定な場所で不安定な動きをしたために持っていた大皿と足元の壺が揺れる



あぶない!!


固唾を飲んで見守っていると

予想した通りに大皿が投げ捨てられ壺は他の展示物を巻き込むように倒れる

「ッ…」

ユダは苦渋の決断で空中の大皿をキャッチし倒れそうになった壺を拘束魔術で支える

危機一髪な状況だった


「…見ているぐらいから手伝ってください」

「…はい」


ログナスと二人で手伝い荒らされた部屋を片付けた





「おや、お二人でどうしたんです?」

また外を捜索していた僕たちの前に外窓を掃除していたらしいルカと遭遇した


「白い小猿を探しているんだ。見なかった?」

手すりの上でバランスをとり考える仕草をするルカ

「…もしかしてあれですか?」

指差された方を向くと屋敷の装飾円柱のところに小猿がいた

「危ないところにいるなぁ」

「いい加減捕まえるぞ」

そう言ってログナスはまた身軽に壁をよじ登る

「お手伝いしますか?」

「忙しいのにごめんね。屋根まで運んでほしい」

「お任せください」

ルカに背負われ屋根に運ばれる

屋根からの景色はいつもと違って普段過ごしている場所なのに景色が違って見える

もう夕暮れが迫っている



ルカに運んでもらいログナスに追いつくとなかなか切羽詰まった状況だった

ログナスが一歩近づこうとすると小猿は円柱の端を掴み離れる

もう少しで落ちてしまいそうだ

下は普段近寄らない物置があった場所だ

あそこはログナスと知り合って間もない頃よく僕がいた場所に通じている

人見知りでログナス相手にも発揮して隠れていた

すると勝手がわからないのにログナスが一人でやってきて黙ってそばにいてくれた

徐々に慣れて、よく喋る僕と静かに寄り添い相槌を返してくれるログナスが僕はすぐに好きになったんだ

幼い頃の話だった



そういえばログナスはなぜあんなにムキになって追いかけているんだろう

僕のパンツと何かを盗ったみたいだからそれかな

あの執着が薄そうなログナスが動揺するぐらいだ

どんな物だろう…贈り物かな…




「観念しろ」

「…ヒヒ」


一人と一匹が睨み合う

「もういいだろ小猿さん?寒いからお家に入ろう。ね?」

僕も横で手を伸ばす

それを見て小猿は丸い瞳を向けながらこちらに向かってきた

これで解決だ

そう思った時だった

「キッ!?」

強い風が吹いたせいで軽い小猿は体勢を崩し

落ちてしまいそうになった

「あっ!?」

僕が足を踏み出す瞬間横から疾風の如く青い影が動いていた


「…悪戯は程々にするんだな」

「……ヒヒ!」


小猿を小脇に抱えたまま柱につかまるログナス

間一髪だったけど問題は無くなったようで安心した

そう胸を撫で下ろしていると

小猿のポケットから何かが光を反射して落ちた

!!

僕は考えるより体動いてしまった


「セウス!!」

後ろからログナスの声が届く

だが伸ばされた手は届かない

手の平の中に収まった物を胸に抱えて僕は落下しながら天を仰ぐ

あー…骨折で済むかなぁこれ

またユダに怒られちゃうなぁ


怪我したら、ログナス悲しんじゃうかなぁ

その顔を想像するがうまく想像できなくてこんな状況なのに笑ってしまった

「笑っている場合か!」

「わっ!?」

地面までもうすぐの状況で

目に入ったのは夕暮れのオレンジと青

そして一番星を背景に

見たことがないような顔をした

焦った顔をしたログナスの顔だった


そして抱きしめられる



「風よ!」

フワッと着地する

魔力操作が卓絶しているから僕を抱えながら略式詠唱でもちゃんと魔術が発動して僕は助かった


「危ないことはやめてくれ…」

「…ごめんね」

僕より辛そうな…

切なそうな顔で僕を見るログナスを見て僕は胸が苦しくなった


「あの、これ…」

「?」


僕は持っていた物を手渡した

それはネックレスチェーンに銀の薔薇の装飾と赤い

…赤い魔宝石がついたネックレスだった

これは……


僕が初めてログナスにあげた物だ

二歳年上なだけなのに、誰よりも厳しく学び日々研鑽していたログナスに何かあげることはできないかと母上に相談して

この二つをあげた

銀の薔薇は銀の塊に魔力を流し操作して形を作る

基本的な魔術の練習法だった

それを応用して毎日隠れて練習してなんとか満足のいく出来のものをあげたんだ

そして見習い騎士から本格的に騎士となると決まり

僕たちの秘密の場所でこの赤い魔宝石を送った

これは僕が一年間毎日魔力を込めた物だ

それは送った相手の無事と成功を祈り加護を求めて祈る古くからある方法だった

それを僕は恥ずかしくも婚姻関係にあるような恋人に送る物だと知らずにあげてしまったのだ

普段表情を変えず冷淡とも言われる騎士ログナスが

僕が贈り物をした時頬を赤らめ瞳を輝かせたのが

幼いながらも僕は美しいと感じた




「……これ」

「……宝物なんだ」


微笑んで受け取り、愛おしそうに見つめ小さく薔薇と宝石にキスをしたログナス

僕にされたわけでもないのに顔が熱くなった




「目的は果たした。もう夜になる」

その言葉に僕は星が輝く空を見る


「そうだね」

星が輝く青い夜空だった


「戻ろう」

返事を返すように僕は差し伸べられた手を握り地面に足をつけ

そのまま手を握り屋敷に戻る


静かな黄昏時の

出来事だった






≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





案内されるとそこには彼はいなかった

いつもの場所かと思い止まらずそのまま部屋を後にする

調度品が並べられている豪奢な屋敷を出て

人が近寄らない場所へ向かう

最初は養子である自分を連れて母親となる人が仲が良いと国王の王妃とその実子に面会させるために連れてこられた

興味もないが仕方ないので言われた通り、反復された動作を繰り返し定型分通りの言葉を述べる

それで終わりだ

そのはずだった

本来面会するはずだったもう一人の人間がおらず

王妃が言うには屋敷のどこかに隠れてしまったらしい

人見知りだと言われ謝られたが構わないと当たり障りなく言った

親たちが話に夢中になってしまったので

あなたは屋敷内でも案内してもらいなさいと言われ

使用人に案内されたが途中でここで庭を見ているから大丈夫だと言って下がらせた

見栄え良く整えられた庭はどこか空虚で

まるで自分のようだと皮肉なことを思ってしまった

そのまま行く当てもなく歩いていると

なぜか庭から離れたところに獣道のような道があり

なんとなく辿って進んだ

すると木々の間を抜け小さく開かれた場所に

白い花が咲いている場所の中心で頬を赤く染めながら

愛おしそうに花を愛でる子供を見て俺は

運命だと


たった一つの宝物を見つけたと

本気でそう思った瞬間だった



本で読んだことがある

こう言う状態を

陳腐な恋物語や城下の下々の民にも話題となる恋の話でよく聞く御伽噺に引けを取らない夢物語



《一目惚れをした時だった》











〈余談〉



ガサガサ!

「ヒヒ!」

「おっ」


草むらから飛び出してきたのは葉っぱをつけた小猿だった

小猿は自分を見つけた人間の肩に馴れ馴れしくよじ登った


「随分ご機嫌じゃねーの。どこ行ってたんだよ」

ある仕事を遂行するため極秘に

愚かな自称友人たちがいる屋敷へと来ていて

ある人物以外には接触しないように行動していた

その相棒がこの小猿だった


「白猿〈ハクエ〉遊んできたのか。程々にしろよ」

「ヒヒ!」

「ったくしかたねーやつだな。腹減ったし報告する前になんか食うか?腹減ったぜ俺」

「ヒヒ!」

「おっ!クッキーじゃん。くれるのか?いーやつだなお前」

ゴシゴシと頭を撫でられニコニコと笑うハクエ

サクッと音を立ててクッキーを食べる


「うま!あのユダのか。あいつぜってー俺にはくれないからなサンキュー。あー御師様の手作り、また食いてーな…」

すっかり夜と様変わりした空を見てつぶやく

「ヒヒ!」

「お前もそう思うか。早く帰って褒めてもらおーぜ!他の奴ら俺がいねー間にこそこそなにすっかわからねーしな」

「ヒ!」

しかしなぁ

夜空に呟く


「あいつらも大変だな。御師様ならこれも運命の試練とか言うんだろうけど」

小猿は黙って相棒見つめる

相貌の瞳には青と緑が映る


「俺にはわかんねーけど、死なねぇといいなー」

きっと叶わぬ願いとなる

そう思うが少年

ヒスイは呟く

「もう守るものは決めちまったんだ。どっちもとは都合よくならねぇ、そんぐらいはわかる」

視線を下げる

「できるのはそれだけの強さと、捨てる覚悟を持った奴だけだ」


冷たい夜風が吹いた


「だからよ。死ぬ気で頑張れよ」

後頭部で腕を組んで龍脈穴を開き扉を開く

そこに翠の風が吹き込んでいった


小さくハクエがヒヒっと笑った









 

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