自分の役割

新たな仲間のディルックとの出会いを果たした俺はギルドのマキさんの所でパーティー入会手続きをすぐに済ました。


その後、ディルックは俺の戦闘センスを見たいとか言って、俺を武器屋の隣にある訓練所に連れて行った。訓練所と言っても空き地に少し障害物や用具が手入れもされずに置いてある粗末な場所だ。



「なぁ伽耶。お前って戦闘の経験って無いんだよな?」


そうか。確かに、平和そのものである現代日本にいた俺は、探索業なんて危ない仕事をこなせるのだろうか?というか、そんな俺を雇うくらいディックも追い込まれていたのだろう。


「そうだな。俺が元いた世界は探索も戦闘もする機会がなかったからな…暇つぶしにサッカーっていうスポーツしてたから、体力は問題無いとは思ってるんだが…」


「そんなら心配無さそうだな。じゃあそこから適当に武器選んでくれ。」


そう言ってディックは、隅に置かれた、木の剣やら槍やらが入った箱を指さした。

とりあえず、ディックが持ってるのと同じ、片手持ちの剣を取った。

すると、ディックは


「コホン。剣というのは基礎が大事なんだ。よく聞きなさい。まず、持ち方は上から…」


と、剣の師範でも気取って説明し始めた。

ふざけているようだが、ディックの説明は予想に反して易かった。


「なるほど、確かにこれなら上手く力が伝わるな。これも、親父から?」


「いや、探索者の剣に型なんて無いさ。だって金稼ぐために集まったガサツな奴ばっかだぜ?これは俺が考えたんだ。」


へぇ、こいつ結構凄いんだな。この分だと俺の出番はないんじゃないか?


「とりあえず、これで基礎はできるはずだから、俺と手合わせしてみよう。じゃあ剣を構えて。」


まぁ、とりあえず最善を尽くしてみよう。


「始め!!」


掛け声に合わせて、右足から踏み出し、2歩で間合いを詰める。そして、基礎の通り右上から斬る。もちろん、それは読まれ、剣の軌道は塞がれる。そして、次の攻撃を考えた瞬間、俺の攻撃を防いだ剣は「カンッ」と音を立て、ディックの手から弾かれた。


「カタン」


剣が地に落ちる。俺の頭には?が並んでいる。

すると、ディックは少し悔しそうに、


「俺、こう見えて頭脳派なんだよ。でも、力がどうも付かなくて、戦闘は苦手でね。」


そういう事か。だから1人で潜らず酒場に。


「にしても、初心者に負けるとは思わなかったよ。しかもこんな派手にね。きっと中級探索者くらいとならいい勝負できるよ。」


まさか、そんなわけないだろ。今日初めて訓練用の剣を持ったってのに。


「ありがとう。お世辞でも、嬉しいよ。」


「お世辞じゃないって。良い戦闘員を迎え入れられて良かったよ。」


まぁ、人の役に立てるのは悪い気分じゃない。


「じゃあ、今日はもうちょっと剣を練習して行こう。探索は明日から行こう。」


こうして俺は、『探求』パーティー内で、戦闘員という役割を手に入れたのだった。










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創造 藁観 @simerikeno-rougoku

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