中傷〈現代and異世界ファンタジー〉

嫌味な上司に復讐したくて、神様に転生お願いしたら餅屋のババアになって叫んでた。クソと味噌は違うんだよー!٩(๑`^´๑)۶


 夜七時。浜松駅からタクシーに乗ると白いものがちらついてきた。


「浜松って雪降るんですね。俺、ダウン着てこれば良かった。仁美先輩、そんな薄着で寒くないですか?」助手席からシンヤ君が心配して聞いてくれた。


「ありがとう。サトルのおかげで体質改善されてさ、暑がりになったよ」本当はホットフラッシュだけど黙っておく。シンヤ君のポケットの中のマサルに聞かれると面倒だ。気合いが足りないって竹刀振り回されるのはごめんだ。


 スモールG商事の浜松支社でとんでもない新商品の企画が生まれたと連絡が入ったのは昨日だった。リモート会議では詳細が分からず、企画部長になった私が直接確認しにきたってわけ。男性社員三人の所に乙女が一人で行くのも考えものだ。私はシンヤ君に同行するようお願いした。


「仁美先輩、商品化されたら絶対売れるって思うんですよ。そしたら小さいオジさん族解雇でいいんじゃないですかね。い、痛えよ、うそ、うそ。マサルたちのおかげでこの会社持ち直したんだから。小さいオジさん族最高だよ!」

 

 シンヤ君の独り言にタクシー運転手がドン引きしながら、目的地に着きましたと棒読みで言った。


───すみれ割烹風居酒屋。お店の看板を確認して中に入る。浜松といえば鰻でしょ。鰻重の予定で来たんですけど、割烹風って何? 居酒屋に不安を感じる。


「おお、こっちこっち! わざわざ遠い所から来てもらって悪かった!」


 顔のデカイ男が店の奥の席で手を振っている。私の苦手な松平支店長だ。すでに顔が赤い。加齢臭に酒臭いなんてもっと嫌だ。私はシンヤ君を先に行かせた。


「仁美君、久しぶりだね。君も出世して良かった、よかった。で、まだお局さまってみんなに疎まれてるの? あーごめん、ごめん」一言目からの嫌味攻撃。


 大っ嫌い。大っ嫌い。この松平はかつて東京本社にいた。ワタル営業部長と出世争いで負けて、今は浜松支社にいる。簡単に言えば左遷である。


「すいません、仁美部長。支店長もう出来上がってます。さあ、どうぞ」


 白尾君と小粥おがい君だ。二人ともまだ二十代だがかなり優秀である。松平支店長を無視して、席に招いてくれた。お座敷の個室である。


「鰻じゃないの? 何で、何で餃子なのよ!」テーブルの上には餃子定食がぎっしり置かれていた。郷土料理でもてなすって言ったよね! 発狂する私。


「仁美君、浜松といえば餃子だよ! 仁美君は庶民的だからこっちの方が合うと思ってさ。生ビールでいいかな。シンヤ君も……お、いきなり失礼」


 席に着いた途端に松平は席を外した。白尾君がいつものですと苦笑いをする。


「支店長、昨日電話でワタル部長に怒られたみたいです。今回の企画を自分の企画みたいに言ったんですよね。僕たちのアイデアを盗んで」


 松平支店長のやりそうな事だと思った。昔からそういう男だ。私も若い頃アイデアを盗まれた事がある。嫌な事思い出しちゃった。


「で、いつものって何?」シンヤ君が白尾君に聞くと、小粥君と顔を見合わせて笑った。食事が不味くなるので、後で話しますとの事だった。


───生ビールにはやっぱり餃子が合う。上手い。私は上機嫌になる。十分待っても松平支店長が戻ってこないので、つい食べ始めてしまった。


「仁美部長、そろそろ新企画の説明してもいいですか」白尾君が真顔でアタッシュケースを開けて、パソコンとゲーム機を取り出しテーブルの上に置いた。


「……これです。ついこの前まで若い子の間で流行ってた物を取り入れました。

異世界体験ゲームです。タイムリープって言ってもいいかな。まずここで神様を呼び出します」


♫♪ ヨーレヒヨーレヒヨーレヒホー♪♫


聞いた事がある曲が流れて、神様が画面上に現れ踊っている。久しぶりだ。


「神様が出たら、ここでお願い事をしてください。仁美部長、何かありますか?

神様が異世界に飛ばしてくれますよ。押しちゃって下さい。まだ試作の段階なので実際には行けませんから大丈夫です。どれにします?」


 私は画面上の見知らぬワードに驚いた。聞いた事はあるが、全く興味ない言葉が並んでいる。まっ、どういうコンセプトかを知るだけだから適当でいいね。


「神様、私やっぱり松平支店長の事が許せません。簡単に仕返し出来る方法を教えて下さい……あっ、ここね、この『転生』か『転移』『召喚』を押せばいいのね。チートとかダンジョンって何? 貴族社会、魔法、勇者、オプション?」


 もうなんでもいいわ! 異世界でこの世の恨みを果たしてくればいいの。


 じゃ、松平支店長も転移させて、私も……。ポチッとな。あれ? どうして?!



 

試作品って言ったよね?!


目の前真っ暗なんですけど!


異世界ってこうやって行くの?



「仁美先輩が消えた!」シンヤ君が私を探してる。マサルも焦ってる。


「どうしよう! 支店長がいない! 下痢ピーでずっとトイレにこもってたはずなのに消えてるよー」トイレを確認して戻ってきた白尾君が、小粥君に報告する。そして小粥君が青くなって叫んでいる。


「……仁美部長、選んじゃったみたいです!」



みんなの声が聞こえるのはなぜ? 憑依ってなあに?







 


 













 

 






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