第46話 3兄弟は有能だったよ

慧仁親王 堺 1522年


「姉様……」


 堺に戻って手にした姉様からの書状は、驚くべき内容だった。『予定と違う』そんな言葉が思わず漏れてしまう程の衝撃だった。とは言う物の、よくよく考えれば、あの行動力の姉様なら無くはないよねと、納得出来ない程でも無かったか。となると、此方の予定も大分変わって来る。さて、どうしようかな。


 ひとまず、今日はゴロゴロ日とする。だって、帰って来たばかりだからね。2歳児の体力を侮るな!もうヘロヘロだぞ。


〜・〜


 2歳児の回復力は侮れないぞ。今日はアクティブに過ごそう。


 まずは農業モデル地域への視察だ。行雅におぶられて馬で走っている。商家が整然と並ぶ街を左右に見ながらメインの通りを真っ直ぐと進む。街を囲む堀に架かる橋を渡り、数軒が寄り添う様に固まった集落を抜けると、整地が始まった見渡す限りの水田に出る。石津川から用水路を網目の様に引いている。


「川上に溜池が欲しい所だね。鉄匙は足りてるのか?」


 波多野にそう尋ねると、


「さすがに不足していますので、急いで作らせている所です」

「うぬ、一月も経っていないのに、ここまで進んでいるとは、元清、元盛、賢治、よく指揮をしてくれた。お前達に頼んだ事、間違いでは無かった」

「有り難きお言葉で御座います」

「塩水選の方は如何した?」

「殿下の仰せの通り、試してみました。苗代をお見せいたしますか?」

「是非、見せてくれて」


 辺り一面に苗代が並んで太陽の日の光を浴びている。刈りそろえた芝生の様だった。


「綺麗な眺めだな。これが田の隅々に植えられるんだ。見渡す限りの青田か、楽しみだ」


 青田が茂り、所々覗き見える水面には青空や真っ白な雲が映る。エモいね。エモい。映えだね。インスタにあげたいね。出来ないけど。

 田畑の緑は自然の緑ではない、自然破壊の緑であるって、昔何かの本で読んだけど、緑は緑だし、二酸化炭素を吸って酸素を吐き出してくれてる。何となく綺麗な空気を吸ってる気分になったものだ。自然じゃないけど、エモいんだ、エモーショナルなんだよね。別にエモいって使いたいだけって訳じゃないよ。

 感慨に耽っていると、何を勘違いしたのか元盛が、


「何か手違いがありますでしょうか?」


 と、聞いて来た。


「いや、あれだけの説明で、ここまで出来るとはな。本当にご苦労だった。お前達に安心して任せる事ができる。大内や毛利などにも西国や九州の大名達にも、参考の為に堺に人を送る様に申し付けてある。その様な者達が訪ねて来たら、惜しみ無く教えてあげて欲しい。宜しく頼む」

「畏まりました」

「考えてみろ。お前達の働きが、日の本中の百姓を笑顔にさせるんだぞ、日の本中だ」


 想像してみたのだろう、少し間が開いて、


「気分が良いですね」


 と、本人達も満更でない顔をした。


「そうだろう。今後も励んでくれ」

「はっ!」


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