第42話 そろそろ牡蠣の養殖も始まるんだったよね

慧仁親王 船上 1522年


 海上を滑る様に走る船上に居る。


「もう一刻程で到着すると思います」

「うぬ、分かった。ところでな、隆勝は造船には詳しいのか?」

「造船ですか。そうですね、仕事道具ですからね。些か詳しいとは思いますよ」

「そうか、では、200人くらい乗せられる船は作れるか?」

「今の技術では難しいと思います」

「それでは何人ぐらいならいけそうだ?」

「そうですね、120人くらいですかね」

「では、それを2艘作ってくれ。出来るだけ多くの船大工を集めて、技術の向上に努めながらな」

「はっ、畏まりました……って、まあ、そうですね」


 隆勝は、こちらに向かい直り、頭を下げた。


「村上隆勝及び村上党、殿下に臣従を誓います」

「うぬ、後悔はさせない」

「宮島が見えて参りましたね。天気が良くて順調でした」

「この後、大内等との会談が有る。同行してくれ」

「御意に」


〜・〜


 船着場には大内義興が出迎えてくれた。


「この度は、この地まで足をお運び頂き、恐悦至極に存じます。私、大内義興に御座います」

「大内家家臣、陶興房に御座います」

「うぬ、出迎えご苦労。面を上げて下さい。取り敢えず、まだ寒いので温い所にでも案内を頼めるか?」


 そう言うと、義興は床机を持って来る様に指示を出し、陣幕の中の焚き火の側に案内された。


「義興、安芸と言えば牡蠣だよね。今回は用意出来るの?」

「御所望と有ればご用意いたしますが」

「大好きなんだ、宜しく頼む」

「御意」

「義興、好感度が上がりました。従五位筑前守をご用意します。楽しみにしててね」

「真実ですか!有難き幸せに存じます」


〜・〜


 暫くして港から程近い館に案内される。


「握り飯は出来るか?香の物も有ると嬉しいんだが」

「只今、ご用意させます。暫しお待ち下さい」

「では、待つ間に、義興との話を済ませてしまおうか」

「はっ」

「今日、来たのは他でもない。今後についてだ。義興には長門・豊前・豊後・筑前・筑後・肥前・肥後・壱岐・対馬を任せたい。どうだ?」

「周防・安芸・石見はどうなりますか?」

「それなんだが、周防を陶に、安芸を村上に、石見・出雲・伯耆を土佐一条家に、備後・備中を毛利に任せようと思っている」

「大友はどうなりますか?」

「大友は義興に任せる。攻め滅ぼしても構わないし、臣従させても構わない。尼子も同じ扱いになる。山内家・陶家共に俺に臣従して貰う事になる。つまり同格だ」

「何故、陶を?」

「それについては話しても良いが、義興の胸の内に仕舞う事が出来るか?」

「はい、誓います。聞かせて下さい」

「俺が神憑りだと言う噂は聞いているか?」

「噂には聞いていますが、目の前の殿下を見れば、噂どころではない事は分かります」

「そうだな。俺も自分が気味が悪い。しかし、神憑りと言うのは事実だ。30年後、大内家は陶に滅ぼされ、数年後、陶家は大友家に滅ぼされる事になるのを知っている。残念な事に、陶家もそうせざるを得ない理由が有ったのだ。私は今上陛下への忠義篤い大内家に、その様な最後を迎えさせたくない。陶家にもそんな最後を迎えさせたくない。なので、両家を同格で分けさせたいのだ。ただ、断れば容赦はしない。大内を朝敵と見做し追い込むぞ。俺が倒れても、天皇家にはもう1人の神憑り、聖良女王が居る。断るなら覚悟せよ。姉様は俺以上だぞ」

「断るなど滅相もございません。御意に」

「では、陶と村上を呼べ」

「誰か!興房と隆勝を此方に!」

「大友はな、奴隷売買にてを出すんだ。日の本の民を外国に売り飛ばすんだ。それだけは赦さない。大内ではやってないよな?」

「はっ、その様な事は決して有りません」

「なら良い」


「陶に御座います。お呼びでしょうか?」

「隆勝に御座います」

「うぬ、入れ」

「失礼致します」

「義興、俺から話しても良いか?」

「お願いします」

「興房、これから山内には北九州攻めを頼んだ。それでな対尼子なんだが興房に頼もうと思う。それでな、義興が陶に周防を任せると言っている。どうだ、大名にならないか?」

「私がですか?」


 興房は俺と義興を何度も見返す。義興が興房に頷いてやると、


「誠心誠意務めさせて頂きます」

「隆勝には安芸を与え、呉にて港を整備、造船所の建設及び造船を言い渡す」

「はっ、畏まりました」

「良いか、其方3人の働きは今後数百年後に対する布石となる。心して励んで欲しい。改めて、其方はこの俺に臣従しては貰えぬか?」

「この義興、臣従させて頂きます」

「興房も臣従させて頂きます」

「隆勝も臣従させて頂きます」

「うぬ。義興には錦の御旗が下賜され、北九州平定の綸旨が下される」

「はっ」

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