第29話 ヒッカル君の容疑を晴らせ

「それで、アリサ様は、モモッチヒッカル君とはどのようなご関係ですか?」

どうやら真田刑事は僕のことを、モモッチヒッカル君と記憶してしまったらしい。経緯を知らない鉄道研究会の面々の目が点になっている。アリサは、眉をひそめて「モモッチヒッカルって何よ。モモッチ...え?モモッチヒカル、モチヒカル…」と一人で何度か呟いた後、

「モーちゃんのことだね。モーちゃん、つまり望月光とは高校の同級生で、同じ部活に所属しています」

アリサの登場以来すっかり相好を崩した真田刑事は、

「そうですか。モモッチ君とは同じ高校にお通いなのですね」

と言うと、今度はあからさまに面倒くさそうな顔をして、鉄道研究会のそのほかの面々に向かい「それで、お前らは何のために来たんだ」とぶっきらぼうに問いかけた。

 

おそらく最も真田刑事の怒りを買っているであろう木村が代表して、「モーちゃんの容疑を晴らすためです」と胸を張って答えた。木村の言葉を聞いた真田刑事は、フンと小馬鹿にするように笑い、

「残念だが、モモッチヒッカル君には動機があるんだ」

と言い放った。

「動機って、マッスルトレインさんに罵倒されたことですか」

木村を押し退けて田代が問う。僕は田代がいつもの癖で「キッショ」と言うのかと思い、内心冷や冷やした。

「なぜそれを知ってる?地元の新聞社にはまだ発表していないのだが」

真田刑事が訝しむ。

「だって、モーちゃんに実際に映像を見せてもらいましたから」

今度は、小型扇風機を回しながら、酒井が涼しい顔で言う。「え?どういうこと?」真田刑事は目をぱちくりさせ、困惑した。


「何にも知らないんだね、刑事さんは」そう切り出すとアリサは、昨夜のことを話しはじめた。

「実は、モーちゃんは一昨日の夜、つまり、サンライズ出雲に乗車中に動画を撮影していて...」


問題のシーンを収めた衝撃映像を昨夜遅くのライブ配信中に公開した件についてアリサが説明している間、真田刑事は時折頷きながら、こまめにメモ帳に何かを書き込んでいた。気になった僕が覗き込むと、メモ帳にはアリサの似顔絵が描かれていた。しかも、アリサの顔には吹き出しが加えられ、「真田刑事って、イケメンですね」と書かれている。


「それで、マッスルトレインさん、要するに被害者は何時ごろ殺害されたのですか?」

再び田代が問いかける。

「死亡推定時刻か?そんなこと、お前らに話す必要はない」

真田刑事はにやついた表情を慌てて引き締めてから答えた。しかし、アリサが懇願の眼差しで真田刑事を見ながら「死亡推定時刻が分かれば、モーちゃんのアリバイを証明することができても、ですか?」と尋ねると、「深夜0時30分ごろです」と即答した。その言葉を聞いた熊谷が、

「それならモーちゃんは無実ですね」

と勝ち誇ったように宣言した。

「無実だと?どういうことだ?刑事にウソついたら偽証罪になるのをわかって言ってんのか」

真田刑事が熊谷を問い詰める。熊谷は薄情にもすぐに目を逸らし、僕に目線でSOS信号を送ってきた。

「だって、深夜12時から3時までYouTubeでライブ配信をしていましたから。ここにいる全員が配信に参加しました。つまり、証人です」

僕がそう言うと、真田刑事は目をキョトンとさせ、「え?そうなの?」と言ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄道系YouTuberの事件簿 - 寝台特急サンライズ殺人事件 Karasumaru @kennyblink360

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ