第21話 八百万の神の前で

ニヒルな笑みを浮かべた真田刑事が近づいてくる。

「やっと見つけたぞ」

つられたように、肩で息をしている二人の男も迫ってきた。一人はハンカチで額の汗を拭っている。どうやら三人はこの炎天下のなか、無実の僕を捕まえるために必死で走ってきたようだ。そんなことを考えていると僕はなんだか三人が可哀想に思えてきた。


三人が歩く姿はまるでゾンビのようだ。


僕の目の前まで止まった真田刑事は、

「望月光くん、随分とふざけたことをしてくれるじゃないか」

と眉間に皺を寄せて、僕に言った。普段の僕なら確実にパニックになっていたはずだ。しかし、なぜか僕は落ち着いていた。先ほどデハニ50形52号にお参りし、八百万の神に見守られているからだろうか。そして、なぜか力が漲ってきた。暑さをものともせず、脳がフル回転する。そもそも僕は、バカではない。あまり嫌味になるから言いたくないが、僕が通う高校の偏差値は70を超える。少なくとも、僕が挙動不審な行動をとったというだけで、一人の罪のない高校生を犯人と決めつけて死に物狂いで追いかけてきた刑事をやり込めるぐらい朝飯前だ。

「ふざけたことって、刑事さん・・・僕は大真面目ですよ。真面目に出雲大社でお参りをしているのですよ。僕がふざけているなら、一年でこの神社にお参りする800万人近くの人々も侮辱していることになりますが」

ちなみに800万人の件は10分ほど前にネットで仕入れた知識だ。


3人の刑事の顔が怒りでみるみる赤くなる。真田刑事のこめかみには青い血管が浮き出ている。ここで僕はようやく我に返った。

『やばい』

僕は頭のなかで、さまざまな対応をシミュレーションした結果、最も害がないであろう策を講じることにした。

「なんちゃって」

僕は努めて明るく言い、

「それでは、おあとがよろしいようで」

と、落語家のようなセリフを残し、3人の刑事に背を向けて歩き出そうとしたが、一瞬で囲まれてしまった。

「署の方で、たっぷり話をきかせてもらうか」

真田刑事の言葉を聞き、僕は観念した。


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