第8話 悲しき初ライブ配信 1

 おーとーなーに なぁったら

  にほんかいに あいたくなるぅ〜


僕の耳元で、実に甘い声で誰かが囁きかけている。


僕は目を開くと、欠伸をしながら声がする方向を見てみた。そこにはスマホが置かれてあり、引き続き美声で僕に語りかけてくる。


 あなたの あのことばがぁ

  いまも ひびいてるぅ〜


僕は慌てて飛び起きると、腕時計に視線を落とした。無常にも11:55という数字が時計のディスプレイに並んでいた。

『ウソだ!』

どうやら僕は2時間半ほど昼寝ならぬ、夜寝をしていたらしい。


 おーとーなにかわったら

  にほんかいにだかれたくなるぅ


僕に語りかけていたのは、スマホの着信メロディーであった。北陸新幹線、そして、特急サンダーバードの車内で流れる「北陸ロマン」だ。スマホの画面には、


岸川アリサ


と記されている。


僕は急いで緑色の通話ボタンをタッチし、音声をスピーカーに切り替えた。

「もしもし、アリサ?」

僕が恐る恐る問いかけると、サンライズ全体の窓が割れるのではないかと心配するほどの大音量で怒声が響いた。

「おい、モー!ライブ配信はどうした!夜11時半からスタートするんじゃなかったんか?」

僕はハッとした。確かに予定では11時半からライブ配信をすることになっていた。アリサによると、部員全員が既にYouTubeで待機しているものの、肝心の主催者がなかなか姿を見せなかったため、部員を代表してアリサが連絡してきたようだ。


僕は慌ててバッグからラップトップのコンピュータを取り出すとブラウザにアクセスし、YouTubeの自分のアカウントページを開いた。そして、開始予定時刻を30分ほど経過した段階でライブ配信を開始したのであった。


「ええと、皆さん、こんにち、いや、こんばんわぁ、どうもモーです。はじめまして。あのぉ、お待たせしました。ごめんなさい」

こうして、僕の記念すべき初ライブ配信はグダグダモードでスタートした。早速メンバーからキツいコメントが次々と投稿されてくる。


アリサ:なんなの、その挨拶・・・

齊藤:もっとハッキリ喋れや。何言っているのか分からん。

田代:きっしょ

木村:とにかく草。

酒井:このために深夜まで起きてたのかオレは・・・

アリサ:サングラスかけろ


僕はアリサの2回目のコメントを読み、慌ててサングラスをかけた。


「失礼しました。テイク2。ええと、まずは自己紹介から始めますかね。僕は高校2年生の鉄オタで、今日からYouTubeを始めました。鉄道関連の動画を投稿していこうと思っています」


沢村:モーちゃん。これライブやぞ。テイク2って・・・

アリサ:知ってるよ、そんなこと!

酒井:モーちゃん、がんばれ・・・(涙)



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