第6話 サンライズ出雲

21時25分、第一回目の動画で取り上げることに決めていた列車が、東京駅の9番ホームに入線してきた。落ち着きのあるベージュ色、そして、朝焼けのような淡い赤色に染められた、実に美しい列車だ。サンライズ出雲・瀬戸号である。オール2階建ての豪華な列車であり、1998年のデビュー以来、大勢の鉄道ファンに愛されてきた。


僕ははやる気持ちを抑えて、ビデオカメラで入線シーンの撮影を開始した。カメラを持つ手が震えないよう、細心の注意を払わなければならない。サンライズ出雲・瀬戸号は、現時点で、定期運行を行っている唯一の寝台列車である。東京発のサンライズ号は14両編成で運用されている。9時50分に東京駅を出発すると、東海道本線をひたすら西に向かって走り、横浜、熱海、沼津、富士、静岡、浜松と途中停車を行い、岡山駅で切り離しを行う。前7両は児島駅に停車後、瀬戸大橋を渡り、香川県の坂出に停車。そして、県庁所在地である高松へと向かう。後ろ7両は、倉敷、備中高梁、新見、米子と停まり、中国地方を縦断した後、松江、宍道へと停車し、出雲市駅を目指す。サンライズ瀬戸号は約9時間30分をかけて、そして、出雲号にいたっては約12時間をかけて乗客をそれぞれの終着駅へと運ぶのだ。


僕は自分の座席(部屋)のある11号車から車両の中に入った。今回予約したのはシングルデラックスと呼ばれる個室だ。デラックスの名称を持つだけあり、寝台利用料金は他の種類の個室よりも高い。最安のノビノビ座席と呼ばれる座席を確保することも考えたが、今回の動画は記念すべき第一回目であるため、思い切ってシングルデラックスを予約した。シングルデラックスの料金は1万3980円。これに乗車料金と特急料金をプラスすると、東京から出雲間で3万円近くの出費となってしまう。一方のノビノビ座席だと、約半額の1万5000円で済む。ただし、ノビノビ座席は所謂ごろ寝スタイルのスペースであり、プライバシーはほぼない。そのため、動画をしゃべりながら撮影することは難しく、YouTuberの僕にとっては妥当な選択肢ではなかった。


サンライズの車内は、ハウスメーカーが設計に協力したというだけあり、実に居住性に優れている。私が乗車した11号車はA寝台車であった。通路は通常の旅客列車とは異なり、中央ではなく、端に設けられている。こうすることで個室の空間を広く確保することができる。一方のB寝台車は中央に通路があり、両側に個室がずらりと並ぶ。僕は切符で自分の個室の番号を確認した。シングルデラックスは2階にある。1階にあるのはサンライズツインと呼ばれる2人用の部屋だ。僕はカメラを構えながら階段を慎重に上り、部屋の扉を開いた。


シングルデラックスには、ベッドはもちろんのこと、コンセント、机、椅子、さらには洗面台まで完備されており、列車の車内とは思えないスペースである。僕は部屋の扉を閉めると、早速個室内を撮影しながらインテリアやアメニティの解説を始めた。

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