鉄道系YouTuberの事件簿 - 寝台特急サンライズ殺人事件

Karasumaru

第1話 鉄道系YouTuberになる!

高校2年の夏、京都府内の高校に通う僕は、ある決心をした。それは鉄道系YouTuberになることだ。


僕が通う北山高校には鉄道研究会という鉄オタ(鉄道ファン)が集まる文科系の部活があり、小学校1年生の頃から鉄道に魅せられてきた僕も当然所属している。やはり、というか部員はほぼ全員男子であり、運動部でもないのに非常にむさ苦しく、誰も汗をかいていないのになぜか部室は少し汗臭い。


7月20日、1学期の終業式を終えた僕はいつも通り鉄道研究会の部室に向かった。今日、僕は仲間達の前で大きな発表を行うつもりであった。部室の扉を開くと、路線図を机に広げながら、大学受験をなかば諦めた、あるいは完全になめきった2人の3年生の男子部員と、2年生の男子部員2人、1年生の男子部員3人、そして、僕と同じクラスの鉄道研究会の紅一点、岸川アリサが理想の鉄旅(鉄道メインの旅)について語っていた。いつもの光景だが、男子部員は路線図そっちのけでアリサの顔をジロジロと見つめている。涎を垂らしながら見ている変態もいる。無理もない。アリサは現役の高校生ながらファッションモデルとしても活躍している美人だ。しかし、アリサはガチ鉄オタとしての顔も持つ。モデル仲間とは全く話が合わないらしく、仕事が入っている日以外は誰よりも部室に入り浸り、路線図や時刻表を食い入るように見つめ、妄想にふけっている。鉄道研究会のアイドルであり、そして、2年生にして部長でもある。僕を含む部員全員にとって憧れの存在であり、高嶺の花である。


アリサは部室に入った僕に気づき、

「おお、モーちゃん、いいタイミングだ。これから、毎年恒例の「サマー鉄旅」のプレゼンを始めるんだけど。モーちゃんもプレゼンする?」

とキラキラと目を輝かせながら話かけてきた。

モーちゃんとは、僕のあだ名だ。望月こうだからモーちゃんらしい。他の部員は光を新幹線の「ひかり」とかけて「ひかり」と呼ぶが、アリサ曰く、僕が「ひかり」を名乗るのは100年早いらしい。実際に1年生の頃、入部した日に自己紹介をしたとき、上級生の1人が僕のことを「ひかり」と呼ぶと言い出すと、アリサは鼻で笑い、「クソガキね。まずは「こだま」から始めなさいよ」と先輩の提案を一蹴したことがあった。ちなみに今まで一度も「こだま」とさえ呼ばれたことはない。


サマー鉄旅とは、文字通り、夏休み中に鉄道研究会が敢行する鉄道旅であり、一大イベントである。毎年、1学期の終業式の日に部員一人ひとりプレゼンを行うことになっていることを僕はすっかり忘れていた。そんなことよりも僕には仲間達に伝えなければならないことがあったのだ。僕は部員の注目が一通り集まったことを確認して、

「その前に言いたいことがある」

と、できるだけ真顔を作って言った。そして、大きく息を吸うと、

「僕は鉄道系YouTuberになる!」

と堂々と宣言した。なぜかアリサを指さして。

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