クローンクーロン

@ego555

第1話 墜落・クローン・サバイバル

統一暦3555年3月1日

 墜落した。



統一暦3555年3月2日

 墜落2日目


 今日から日記をつけることにする。

 まあ実際は昨日から付けていたのだが、たった4文字では小学生の夏休みの宿題でも不可をもらうだろう。


 いろいろと問題が起こりすぎて何から書くか迷ってしまうが、とりあえずは要点から書き出していこうと思う。

 思考をまとめる事にも役立つとか何とか聞いた気がする。


 ・旅行船が宙族に襲われて墜落した。

 ・周囲には旅行船の残骸ばかりで同乗者は1人も確認できない。

 ・食料は水を含めた非常食がおそらく2週間程度分ある。1日2食に絞れば3週間はもつだろう。

 ・武器は頑丈な箱に入っていた拳銃と、対ハイジャック用であろう電磁ショットガンが1丁ずつある。

 ・不時着したこの惑星の名前も座標も不明なため助けを呼べない。なんなら、この惑星のことはなにもわからない。

 ・生きてる電子機器は、日記を書いているこの簡易携帯端末しかない上に、通信等の機能は死んでしまっている。


 ここまでは今の状況についての問題点等を書き出した。

 だが、1番の問題点は以下に書く、俺に関する事だろう。


 ・俺はとある人物のクローンだった事を墜落の衝撃で思い出した。

 ・オリジナルに関することはある程度覚えてはいるのだが、人物の特定に重要な、名前や居住星等の記憶はすっかり抜け落ちている。だがそれ以外、つまるところオリジナルの知識や、それに伴う記憶はおそらく全て覚えている。

 ・クローンとして作られた際に、いろいろと知識を埋め込まれていたことをオリジナルの記憶と共に思い出した。


 俺は本当の人間ではなく、オリジナルの存在するクローンだった。

 母の腹から生まれたという記憶は嘘だった、なんなら俺は18歳から始まった。

 昨日まで俺は26歳だと思っていた、つまり実質8歳だ。

 18歳までの記憶は全て作られたものだった。笑える、面白くないジョークのようにすら感じる。

 その上オリジナルの事は殆ど何も分かりやしない。


 ずいぶんと訳のわからない、その上絶望的な状況だ。

 こんな状況で生き残るなんて、相棒にスーパーマンでもいないと無理じゃないか?

 墜落寸前までの俺ならば諦める選択肢もありえただろう。


 だが今の俺の中には、何があっても生き残って自分とオリジナルのことを知りたいという覚悟と決意と希望が燃えている。

 我ながら切り替えが早いというべきか。

 おそらくはオリジナルの記憶の影響もあって、今までの自分とはかなり違う、もはや別人になっているかもしれない。

 それもまた悪くはないんだろう。

 昨日までの俺は、生きながら死んでるようなものだったんだろう。

 随分とつまらない男だったんだろう。


 いまだに存在が証明されていない神からの試練と恵みとでも思っておこうか。


 とりあえずは拠点に出来そうな場所を探そうと思う。

 拠点を見つけられたら、改めて現状や持ち物の整理を行おう。


 記録終了。



統一暦3555年3月4日

 墜落3日目


 今日は拠点候補が見つからなかったので、残念ながら野宿だ。

 オリジナルの記憶にあるフカフカのベッドが恋しくてたまらない。

 オリジナルは随分といい生活をしていたようで、その記憶が随分と俺を煽りたてる。


 手慰みに持ち物を確認しながら、今日思い出したことと分かったことを記録していこうと思う。


 いくつか思い出して分かったのだが、どうも植え付けられた知識は酷く実践的、実利的な知識ばかりらしい。

 特に戦闘や殺人に関する知識、単独で特殊なミッションを達成するための知識。

 こんな知識植え付けてどうするつもりだったのだろうか。

 量産型のクローン兵にでもするつもりだったのか。

 どうせなら、オリジナルの知識にあるようなクールで髭の似合う傭兵になりたかったものだ。


 次に墜落点から移動しているうちに分かった、この惑星に関することを以下に記録していく。


 この惑星の1日は約25時間で、太陽にあたる星があるため朝、昼、夜が存在する。

 だが、それに対して月にあたる衛星は4つ存在しており、それぞれ特大の満月、中くらいの半月、小さ目の三日月、そして1番小さい満月がみえた。

 それぞれ構成物質か、もしくは大気を構成する気体か違うのだろう、特大が白亜、中くらいが黒、小さめが赤、1番小さいのが灰と色づいていた。

 なので、これからは色に合わせた呼び方をしていこうと思う。


 黒月にはそれなりにも距離が離れているにもかかわらず人工物、おそらくは超高層ビルだろう、それがいくつも確認できた。

 せっかく夜空の星を楽しもうとしたのに、随分無粋なもとものだ。


 宙族の拠点だろうか。

 あれだけの大きさならばかなりの勢力だろう、あの月の拠点も支部か中継点かもしれない。

 宙族に助けを求めるのは愚行中の愚行だ、殺されるか、奴らの奴隷として働かされるのがオチだろう。

 なので、あれの正体がわかるまで救出要請は出せたとしても出さないだろう。


 また、この惑星の自然環境は随分と故郷の地球に似ている。

 移動中にりんごや桃らしき果物の木の群生地点を見つけたし、雑草の中にはタンポポやクローバー、オオイヌノフグリにカラスノエンドウもあった。

 ミミズやムカデ、蝶のような虫もいたし、野生動物にはウサギや鹿もいた。


 いつかのミュータントのように炎袋や毒袋がなければ、間違いなく地球と同じ種と言えるだろう。

 あそこまで見た目が一緒なのだ、多少違う進化をしていても、あれらはウサギで鹿と呼んで良いだろう。


 小川を発見した際には、鮎のような魚やサワガニも確認できた。

 非常用食品類の中に、pHチェックシートがあった為検査したところ、7程度だったので煮沸し濾過すればおそらく飲める。


 上記の植物と生物等は全て地球のものと同じサイズだったのもなかなかに面白い。


 ただ、鳥類の姿がこれっぽっちも見えなかったのは少し気になる。

 たまたま、偶然見つからなかっただけなのかもしれないが、上記の鳥類の餌となる生物や植物が群生しているのを考えると、引っ掛かる点である。


 そもそも、ここまで地球と環境が似ていると別宇宙の同一条件惑星と言われた方が納得がいく。

 もちろん不明点や相違点が多すぎるため、確定では無いがおそらくはそうだろう。

 そのため俺は、この惑星の事を第2の地球。もしくはリアースと呼ぼうと思う。


 これだけ条件が揃っているのだから、文明レベルは分からんが原住民や知的生命体がいてもおかしくない。

 というか、居るだろうな。

 あとはそいつらが理性的であることと、危険な生物が少ないことを願うしか無い。


 ちなみに、上記のように色々と覚えがあるのはオリジナルのものではなく埋め込まれた方の知識のおかげである。


 記録終了。



統一暦3555年3月4日

 墜落4日目


 今日は拠点候補を見つけたので野宿は免れた。

 やはり人間は屋根の下で壁に囲まれて寝るのが1番安心できる。


 ここはどうもかなり古い遺跡?神殿?のようで、壁に文字であろうものや壁画が描かれている。

 部屋は3つあり、入り口の部屋、今自分がいる部屋、1番奥の部屋の順で縦に3つ並ぶように配置されている。


 1番手前の部屋には人らしきものと、ハエとキノコと甲殻類を足して生成したような生物との取引のような壁画があった。

 他にも壁画はいくつかあったのだが、どれも劣化などのせいでわからないものが殆どだった。

 もちろん言語もわかるはずもなく、10分程度眺めてすぐに諦めた。


 また、この部屋には霊長類の類の頭蓋骨がいくつか落ちていた。

 かなり昔のものな上、酷く乾いて脆く、少し触れるだけで砂のように崩れてしまった。


 真ん中の部屋、今俺が居る部屋には何も無かった。

 壁画も文字らしきものもなければ頭蓋骨も無い。

 だが、元々から何もなかったわけでは無いようで、床にいくつかかなり重たいものを動かしたように削れた部分があった。


 1番奥の部屋には、人が座るには些か大きい玉座のようなものがあったが、主はおらずただ寂れていた。


 もったいないことだが、これを作ったものたちはかなりの技術力を持っていたようで、玉座は全て金と宝石でできていたし、壁にあるような文字が背面にびっしりと刻まれていた。

 一度玉座には座ったのだが、ひどく座り心地が悪かったので5秒もせずに降りてしまった。

 硬すぎる、せめて尻と背中にはクッションを挟みたい。


 また、この部屋にもいくつか頭蓋骨があったのだが、全てに頭蓋を一周するように切開した跡があった。


 この拠点にあった頭蓋骨は可能な限り埋めておいたので、化けて出てくることはないだろう。

 ネクロマンサーでもいなければ。


 随分と恐ろしいことをしていたようだが、少なくとも言語を持ち崇拝対象を定められる程度の知恵と文化がある原住民がこの惑星に居る、もしくは居たことがわかった事は大きな収穫だろう。

 特に宗教はかなりの知能がないと成り立たないからな。

 まあ、知能が本当にあるのか疑うような宗教も山ほどあるが。


 あとは、昨日書き忘れていた武器。

 拳銃と電磁ショットガンについて書いておこうと思う。


 拳銃は1800年代の地球のアメリカ合衆国、現在は統一アメリカ大合衆国と呼ばれている国で生産されていたリボルバー、コルト・パイソンだった。

 かなりレトロなもの、というか1500年近く前の逸品のようで、入っていたケースにはコレクション品5億米ドルと記載されていた。


 博物館レベルのものだが、こいつもコレクションとして一生を終えるよりは俺と命懸けのサバイバルを選ぶだろうし問題はないだろう。

 弾は66発分あり、スピードローダーとホルスター付きのガンベルトまで入っていた為やる気は満々らしい。


 またオリジナルの記憶からは、コブラとシティーハンターが推されていた。

 オリジナルは一体いつの人間なんだ。


 電磁ショットガンは、対ハイジャック用のものな為非殺傷設定しかないかと思っていたのだが、ケチったようでお高い非殺傷設定オンリーのものではなく、流用品を使用したらしく殺傷設定しかなかった。

 電磁ショットガンのいいところは、弾は正規品でなくても良いところだろう。

 バレルに入るものであれば、電磁力で加速させて撃つため何でも撃てるし、なんならその辺に転がっている石ころでも問題なく相手を穴だらけにできるだろう。

 詳しい原理などは理解できないが、知識がそう言ってるのだし多分そうなのだろう。


 だが、問題点もある。

 電磁ショットガンは特殊な充電池を使用している点だ。

 充電装置は行方不明な上、予備の電池も無いため撃てるのは10数発、20発撃てれば御の字ってところだろう。


 いささか不安感は残るが、これらの武装と埋め込まれた知識が有れば、ある程度の問題は対処できるだろう。


 火は知識のおかげで簡単に起こせる。

 水は近くの小川のものを煮沸し簡易的ではあるが濾過すれば飲める。

 食料も野生動物と果物は確認できたため確保もできる。

 拠点も少々不気味ではあるが使えるし、武器もある。

 とりあえずある程度生き残るのに必要なことは確保できたと思う。

 あとはどうやって故郷に戻るかを考えなければ。 


 記録終了。

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