少年を拾う

翌朝。

燃えるゴミの収集日。

生活感のなにも感じられないこの部屋でも、ある程度のゴミは出るものだ。

早めに起きて、ゴミ集積所に向かった僕は、呆然としてその場に立ちすくむこととなった。

昨晩の予想は、見事に外れていたのだ。

あの少年は、昨晩とまるで同じ姿のまま、そこに座っていた。

もしかして、コレは誰かが捨てたマネキンなのだろうか?

一瞬、そんな考えも頭をよぎった。

だが、次の瞬間には、その考えが誤りであることがわかった。

少年が、膝に乗せていた頭をゆっくりと持ち上げ、真っ直ぐに僕を見たからだ。


「ボクを殺して」


少年は、確かにそう言った。

何の表情も無いその顔の中で、僕を見る目はまるで、透明な硝子玉の中に『哀しみ』だけが閉じ込められているように感じた。


夏休みだしな。

家出少年も増える時期だよな。

おまけに、おかしな奴も、増える時期だしな。


昨晩とまるで同じ事を考えたが、このまま放って置く訳にもいかないだろう?と、心の中にあるらしい良心が問いかける。

確かに、昨晩も熱帯夜で、まだ朝早い今だって、もう既に日射しは刺すように照りつけているし、このまま放置してしまえば、熱中症になりかねない。

命の危険を伴う行為だ。

…自殺志願者には、もってこいだろうが。

かと言って、彼にここでこのまま死なれても、近所に悪い評判が広まってしまうだろうし、何より僕自身が後味が悪い。


とりあえずの、応急処置だけだ。


そう自分に言い聞かせ、手にしたゴミを所定の場所に置くと、僕は少年に声を掛けた。


「おいで。」


少年は黙って僕を見上げたまま、微動だにしない。

既に熱中症にでもなって、動けないのだろうか。

そう思って差しのべた僕の手をつかみ、彼は再び言った。


「ボクを殺して」


僕の手をつかむ彼の手は、この暑い空気の中、冗談みたいに冷え冷えとしていた。


手だけでなく、体全体から冷気でも漂わせているのではないかと思うほど、少年の体は冷えきっていた。

この暑い中で、何故?

不思議に思いながらも、僕は彼の体を抱えるようにして、部屋に連れ帰った。

幸い、部屋は空いているし、住んでいるのは僕だけだ。

誰にも気を使うことはない。

彼の体は冷えきってはいたものの、熱中症ではないようだった。

部屋に入ってすぐに麦茶を飲ませたが、彼は半分ほど飲んだだけ。

ならばとりあえず、と思い、彼に熱めのシャワーを浴びさせることにしたのだった。

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