コロサナイデ

平 遊

ある夏の夜

最寄り駅から新居までの帰り道だった。

その日も、熱帯夜。

一体、日本はいつからこんなに暑くなったのだろう?

そんな事を思いつつ、流れ出る汗をハンカチで拭いながら歩いていると、ゴミ集積所に奇妙なものを見つけた。

防犯上、夜間のゴミ出しは禁止されているのだが、なにも朝から夜まで働いている人ばかりではないのだ、この世の中。

夜から朝働いてくれている人がいるからこそ、この世の中は回っている。

だから、一応朝から夜勤務の自分はルールを守りつつも、僕はそこまでこの『ゴミ出しルール』に拘っているわけではないのだが。

さすがに、その日は、思わず足を止めてしまった。

ゴミ集積所にあった、いや、『いた』奇妙なもの。

それは、高校生くらいの少年だった。

薄汚れた白いシャツと白い半パン、これまた薄汚れた白いソックスに白いスニーカー姿で、抱えた膝に頭を乗せるようにして、ゴミ集積所に座っていた。


夏休みだしな。

家出少年も増える時期だよな。

おまけに、おかしな奴も、増える時期だしな。


そんな軽い気持ちで、僕は1度は止めた足を再び動かし、彼の前を通過した。

明日にはきっといなくなってるさ。

そう思いながら。


やっと辿り着いた新居は、ガランとして寂しいうえに、まるで蒸し風呂のように暑かった。

とりあえずエアコンを付けて、フローリングの床に座り込む。

本当なら、彼女と一緒に暮らすはずだった新居。

出会いは、知人を介したお見合いのようなもの。

ごく普通の、ありふれた出会い。

彼女がとても温かくて、良い人だったから。

ごく普通に付き合って。

1年後に、プロポーズした。

このまま、ごく普通に結婚して、家庭を築くのだと思っていたけれど。

3ヶ月前に、同居を開始して。

1ヶ月前に、彼女が出ていって。

今日。

婚約を解消した。


解消の理由は、至ってシンプルだ。

『性格の 不一致』

とは言え、揉め事があった訳ではない。

穏やかな日常を過ごしていたはずだった。

でも。

聡い彼女はきっと、気づいてしまったのだろう。

昔僕自身が消したはずの、僕本来の姿に。


エアコンが効き始めた室内は、だいぶ快適になってきた。

汗が引かないうちにシャワーでも浴びて、スッキリしてしまおう。

なにもかも、洗い流してしまおう。

でも僕はこの時、正直なところ、心のどこかでホッとしていたのだと思う。

彼女と迎えた、この結末に。

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