サマーナイト・ホラームービー

荒川アルドー

サマーナイト・ホラームービー

俺は駆け出したんだ

君の悲鳴が聞こえてきたから

誰もいないはずの旧校舎から



君の名前呼んでみたけれど

今の返事は一体なんだ

あれは君じゃないな

階段から何かが降りてきて

最悪なもの見ちまった


墓地裏に学校建てたやつ出てこい

土の中から死体がどんどん起き上がってくる

下駄箱覗いてみたけれど

銃もチェーンソーもありゃしねえ


こんなの聞いてないぜ

真夏の夜のホラームービー



俺は駆け出したんだ

君の悲鳴が聞こえてきたから

誰もいないはずの旧校舎から


あの曲がり角に一瞬だけ

君のスカートが翻ったのが見えたけど

たどり着いたら誰もいないし

君のつけてた香水の名残り

雨上がりの夕焼けみたいな香り

それが鼻をくすぐるだけ


肩叩かれて振り返れば

立っているのは君じゃなくて

女が頬裂いてきゃらきゃら笑ってる

俺もつられて笑ったけど

釘みたいな歯がびっしり並んでら

まあ普通は逃げるよね


こんなの聞いてないぜ

真夏の夜のホラームービー



近くに動物園つくったやつ出てこい

抜け出た人喰い恐竜たちが

こっちに逃げてきやがった

外から覗くティラノサウルス

渡り廊下のヴェロキラプトル

ガタガタ震えて隠れていたら

机の下の君と目があった


俺が手を振って

君が手を振り返す

ちょっと照れて笑い合う

これはいい感じだなと思ったさ

こういうのもありだよなと思ったさ

でも窓の向こうじゃ恐竜消えて

代わりに宇宙人が攻めてきた

やっぱり逃げなきゃいけないさ


こんなの聞いてないぜ

真夏の夜のホラームービー



予告編もありゃしない

プログラムもありゃしない

チケット買った覚えもない

監督も脚本家も揃いも揃って

居眠りしてるに決まってる

映写係はデートに行った


なぜなら今は真夏の夜

永遠が一瞬になり

一瞬が永遠になる時間

なぜならこれはホラームービー

客が二人しかいないレイトショー

ポップコーンはないけれど


冷房効いた部屋にいるやつらにはわからない

真夏の夜のホラームービー



君とばったり出くわして

「今はブレザー着る季節じゃないだろ」

挨拶代わりに軽口叩いたけれども

いつの間にか君はどこかへ走ってて

俺は囮にされていて


理科室で変な実験したやつ出てこい

マッドサイエンティストどもが夢の跡

床にぼたぼた内臓垂らして

人体模型がこっち来る


こんなの聞いてないぜ

真夏の夜のホラームービー



水分補給に不味いジュース

自販機の傍には君がいて

しばらく腰かけて休もうか

先月の事故で死んだ田辺くんのこと話してくれたけど

俺そんなやつ知らないし

俺そんな事故も知らないし

でも知ってるような気もするなあ


視たら1週間で死ぬビデオ

さっき横目でちらりと視たけれど

俺は何日後に死ぬのかな

まあ今はそれどころじゃないんだ

君の悲鳴が聞こえてきたから

誰もいないはずの旧校舎から


非業の死を遂げたやつ出てこい

タイルについた赤い手のひら

天井からプラプラぶら下がるフック

床板剥がせば這い上がってくるあいつが見える


俺は駆け出したんだ

君の悲鳴が聞こえてきたから



「死にたくなければついてこい」

どこかで聞いたセリフだろ

満を持して言ってみたけど

君は何も返事しないし

手を引いて走らされているの俺だし

後ろからシュワルツェネッガーが追いかけてきているし


なんとかなるさと思っても

わけわからねえと叫びたくて

どんなに速く走っても

怒る教師も

ぶつかる生徒もいやしない

通り過ぎていく窓枠

外から見れば

駆ける二人はゾーエトロープ


繋いだ手を離すのも忘れて

息切れてるのも感じなくて

階段駆け上がって

屋上に出てみれば

昼間に鳴き忘れた蝉の声


気がつけば

隣には誰もいなくて

でも星がやたら綺麗で

多分これがエンドロールで

黒い空に白い光が舞っていて

朝よ来るなと願いながら

いつまでも見上げていたっけ

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サマーナイト・ホラームービー 荒川アルドー @deepchill

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