第4話 シロー


「マスター、玄関の置き時計だけでは飾りとしてさびしくありませんか?」


 いつものように朝食後居間でまったりしていたら、隣に座っているアスカが何の脈絡もない話を俺にふってきた。


「あれだけ立派なものがあれば十分じゃないか」


「一点豪華主義とか成金趣味とか言われませんか?」


「そうかなー?」


「この際ですから、ドラゴンの魔石くらい飾りませんか?」


「この際がどの際なのかは分からないが、別にいいけれどいきなりどうしたんだ?」


「特に意味はないんですが、せっかくあるものですし、屋敷に訪れる人も時計は見飽きたでしょうが、ドラゴンの魔石を見たことのある人はいないでしょう。そういった意味ではかなり受けると思いますが」


「俺たちが受けを狙っても仕方がないとは思うが、アスカがそこまで言うなら、レッドドラゴンの魔石でも飾っておくか。アスカの方で台を作って準備してくれれば置いておくよ」


「分かりました。さっそく飾り台を作ってきます」


 アスカが玄関から出て行った。材料の木材を置いている外の納屋の方に行ったのだろう。


 そのアスカが5分ほどで小さな丸テーブルを運んできた。テーブルの脚はご丁寧に猫足に加工され、相変わらずの出来だ。ニスのようなものを塗ればそれはそれで見た目がよくなるのだろうが、このまま無垢のままでも十分な芸術品に見える。


 ただ魔石をゴロリと置くのだとカッコ悪いので、よさげな厚手の布を用意して丸テーブルの上に敷き、その上に一抱えもあるレッドドレゴンのつやつやと黒光りする魔石を置いてやったら、アスカの言うように迫力があり飾り物としてはかなりインパクトがある。その魔石の乗った飾り台の丸テーブルを玄関の真ん中に置いて、あっちから、こっちから眺めてみる。


「良いじゃないか」


 アスカの顔が何気に嬉しそうだ。


 家の連中も集まって来て、スゴイだの、カッコいいだの言ってかなり評判がいい。この程度の魔石でこの反応なら、エンシャントドラゴンの巨大な魔石を出すと騒動になりそうだ。やはりあれは出せないな。



 そうやって、家の者たちも1時間ほど入れ代わり立ち代わり騒いでいたが、当たり前だが一巡したらもう普通の飾り物だ。それでもみんなが満足したようなのでこれはこれでよかった。


 俺もアスカも安心して居間に戻って、一息入れることにした。



◇◇◇◇◇

 玄関ホールから人がいなくなったが、ここにただ一人、いや一匹、物陰から丸テーブルの上に飾られたドラゴンの魔石をじっと見つめる二つの瞳があった。


 スノー・ハスキーの幼体のシローだ。シローの嗅覚はこれまで嗅いだことのない甘美な匂いを2階で感じ取り、誘われるまま1階に下りてきて、ドラゴンの魔石を目にしたのだ。一点を見つめるその瞳には見る者が見れば鬼気迫るものを感じたに違いないが、先ほどからシローのしっぽがビュンビュンと音を立てそうなくらいに振られている。しかも鼻息がだんだんと強くなってきているので、ほとんどの者はシローから鬼気迫るものは感じないだろう。

◇◇◇◇◇



 俺とアスカが居間に戻って家の者にれてもらったお茶を飲んで寛いでいたら、玄関ホールの方から、


 ガッシャーーン!


 物が割れて砕けるような音がした。


「アスカ! もしや?」


「先ほど飾った魔石が台から落ちて壊れたような音でしたが、行ってみましょう」



 アスカと大きな音のした玄関ホールに行ってみると、床にアスカが魔石のために作った丸テーブルがひっくり返り、上に置いていた魔石が粉々になっていた。そしてそこには見たことのない子牛ほどの白いオオカミ型のモンスターが1匹。しっぽを振りながら砕けた魔石を頬張っていた。



「このモンスターはどこから? 魔石につられてやってきたのか?」


「モンスターはモンスターでしょうが、丸テーブルをひっくり返しただけで玄関の扉も壊れていません。どこから来たのでしょう?」


 言っている端からそのモンスターが二回りほど大きくなり牛並みになり毛並みも全体的に灰色に変化した。


 魔石を目の前でしっぽを振りながら食べているモンスターがどうも愛嬌がある。それでどうこうする気も起きず。結局そのモンスターに魔石を全部食べさせてしまった。最後にそのモンスターの体が二回りほど小さくなって、その代り先ほどの灰色の毛並みから、ツヤのある銀色に変化した。


「みょうにしっぽを振ってるけれど、この感じ、どこかで見たことがあるような? なんかシローのしっぽの動きに似てないか?」


「マスター、このモンスター、シローが魔石を食べて進化した姿では? シローは2階にいるはずですから、呼んでみましょう。

 シロー!」


 アスカが2階に向かってシローを呼んだら、目の前のモンスターがしっぽを振りながらアスカの近くにやって来てしっぽを振りながらお座りをした。


「まさかと思いたいが、状況証拠から見てシロではなくクロ?」


「そうみたいですね。どうします?」


「どうもこうもないだろ。大きさ的にはだいぶ大きくなったが、部屋の扉よりは小さいし、何とかなるんじゃないか? ただ心配なのは、進化して野生に戻ったってことはないよな」


「お座りしながらしっぽを振っていますから、野生には戻っていないのでは」


「何か起こってからでは、遅いがどうなんだろ?」


「それでは、可哀そうですが処分しますか?」


「そんなことできるわけないじゃないか。そうだな。シローには可哀そうだが、檻にでも入れるか? それで様子を見て大丈夫そうなら檻から出すとか」


「分かりました。シローが何に進化したのかは分かりませんが、どう見てもかなり上位のモンスターに見えます。今のシローならタダの鋼鉄の檻では簡単に壊すことができそうです。マスター、檻の材質を何にするか考えるためにも、シローが何に進化したのかとりあえず鑑定してもらえますか?」


「わかった」


名称:シロー(名まえ付き、テイム済み)

種族:ブリザードファング


レベル4相当。

物理防御力:40

魔法防御力:35


PA    85/85


MP    40/40

スタミナ  350/350


体力    210/210

精神力   60/60

素早さ   120/120

巧みさ   60/60



「レベル4になったようだ。あれ? テイム済み? これって人を襲わないってことじゃないか?」


「そのようですね。これならシローは檻に入れなくてこのままでいいでしょう。家の者たちが驚くでしょうが、それはそれでシローも喜びそうです」


「プープー犬のシローが、ごつくて精悍せいかんなシローになったから、シャーリーに怒りそうだな。いまさら、どうしようもないものな」


 仕事で屋敷を留守にしていたシャーリーが屋敷に戻ってシローとご対面した時はかなり驚いていたが、不思議とすぐにシローが進化した姿だと気付いたようで、すぐに両手を首に回して抱いてやったりしていた。


 俺もアスカも事の顛末てんまつをシャーリーに説明したのだが、怒られることもなく、二人でほっとした。



 後日、アスカが図書館で調べて判明したことだが、スノーハスキーの成体は、シルバーファングからスノーファングへ、さらにブリザードファングに進化するということだった。今のシローはスノーハスキーの最上位種ということになる。これ以上は進化しないようなので、これからは中身のある・・・・・魔石をいくらやってもいいようだ。






[あとがき]

全く探検隊関係ないですが、本編に入れる予定で考えていたものをここに入れておきました。


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魔術の天才キーン少年が成長していく物語です。

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