第2話 ピラミッド探検


 小ピラミッドの中の部屋の中央に置いてあった箱を調べようとアスカと俺が近づいていく。ピカピカに磨かれた表面に俺たちの姿がはっきり映っている。


 箱の表面はツルツルピカピカなうえ、取っ手もなければボタンの類も何もない。目の前の物体を箱と俺は勝手に思っているが、何かの装置の可能性もある。


「アスカ、これ何だろうな?」


「上に登ってみましょう」


 そう言ってアスカがぴょんとその箱の上に跳び乗った。


「上も鏡のように磨かれた金属で他の面と同じです」


 アスカの体重がどの程度あるのか俺は知らないが、高速機動時、地面をえぐりながら動き回るわけで、相当な重みがあるのだろう。


 あっ! アスカがこっちを見てる。


 それは冗談にしても、アスカがその箱に跳び乗ったとたんに箱が床に向かって沈み始めた。そのままアスカが箱の上に立っていたら、とうとう床より下まで沈み込み、3メートルほど沈んだところで沈下は止まった。


 すぐにアスカが穴から跳び出てきたが、箱はそのままでせり上がってくるようなことは無かった。


「下には部屋があるようでした」


「ここには何もないようだから、下にりてみよう」


 3メートルほど下に下がった箱の上の面は、下にある部屋の床の一部になっていた。


 この程度の距離なら俺でも問題なく跳び下りることができる。



 跳び下りた先の部屋の中はどこかからの間接照明のような光でカンテラがなくても部屋の中を見ることができた。


 そこは10メートル四方ぐらいのそれほど広くはない部屋で、4面を囲む壁の一つに扉があった。その扉の前に立つと音もなく扉が左右の壁の中に吸い込まれて、その先に通路が現れた。


 現れた通路は緩い下り坂のまっすぐな通路で、かなり遠方に行き止まりらしき壁のようなものが見えている。底辺が200メートル程度のピラミッドの真ん中から伸びる通路にしてはずいぶん長い通路だ。途中一定間隔ごとに区切りの溝のようなものが入っているのだが、横道など何もなく、ただまっすぐ続いている。想像だが、区切りの溝は、何かあった時、隔壁かなにかで区切るための物のような気がする。


 映画などでは、こういった何もない通路を通っていると、自動の防御装置が働いて、主人公がレーザーで狙撃されたり、ロボットが襲い掛かってきたりするのだが、俺は主人公でも何でもないので、そういったお客さま受けするイベントはないと思う。それにアスカと一緒なので、心配する必要さえ感じない。


 こういった思考をしているということは、心のどこかでなにがしか不安を感じているのだろうな。


「アスカ、通路の先は行き止まりのようだけど」


「わざわざ通路があるのに、その先が行き止まりということはないと思います。行き止まりの通路の正面か両脇に扉があるのではないでしょうか」


「それはそうか」


 何が行き止まりの先にあるのか?


 通路を進んでいくと行き止まりだと思っていた突き当りは、やはりアスカのいう通り、自動扉だったらしく、俺たちが近づくと正面の壁が左右に開いて、その先に部屋があった。


 部屋の中に入ったのだが、そこは高校の体育館ほどの天井の高いだだっ広い部屋で、入り口からざっと見た感じ、部屋の中には何もなかった。ここまでの通路は緩い勾配があったがここの床は水平のようだ。この部屋は昔は倉庫か何かに使われていて中身を全部どこかに運び出したような気がなんとなくした。


「マスター、この部屋の向こうにも部屋があるようです」


 今いる部屋の正面の壁には、それとわかる扉が見えた。


 動いている物にここまでなにも出会っていないので、そろそろ何か出てきそうだ。


 その扉まで歩いていくと、今度も自動で開いてくれたので、すんなりとその先の部屋に入ることができた。その部屋は、照明がかなり落とされた部屋で、見渡す限り、銀色のまゆのような形のものが銀色のフレームでできた何段もの棚の中に置かれて並んでいた。


 一つ一つのまゆの大きさは縦が2メートル、横が1メートル弱。その繭には何本もパイプだかコードが後ろの方で繋がっているのが見える。この繭が何なのかわからないがちょっと薄気味悪い。


 俺たちは繭の並んだ棚で囲まれた真ん中の通路を進んでいく。


 ずいぶん長い通路の先にはまた扉があり、その扉も正面に立つと自動で開いてくれた。


 今度の部屋は、高さが10メートルほどの銀色の縦型サイロのような大きな筒が床の上にずらっと並んでいた。その筒には太いパイプがつながっていて、そのパイプは先ほどの部屋につながっているようだ。


「マスター、先ほどのまゆ培養槽ばいようそう。ここに並んだタンクのような物には培養液が入っているんじゃないでしょうか?」


「培養というと、生き物を増やしているってことか?」


「おそらく生物でしょう。考えられるのは、食用の家畜の筋肉組織、人間の移植用部位、繭の大きさからいえば人間そのもの」


「どっかのSF映画でそんなのを見たことがあるけれど、まさか人間を培養してるってことはないだろう。というか、ないと思いたい」


「さっきの繭を一つ分解してみましょうか?」


「いやいや、もしも人でも入っていてそんなことをしたら大ごとだろ。そっとしておこう。それに、パイプで何か液体を送っているのかもしれないけれど、何かが流れているような気配は全くないぞ」


「そうですね。ポンプなどがどこかにあるのでしょうが、私のセンサーでも液体の流れる音や振動は感知できません」


「まさか、さっきの繭が培養槽だったとして、それが全滅?」


「もしあれが培養槽だったのなら、マスターの言う通り培養液が循環していなければ全滅でしょう。この場所は、マーサの乗ってきたソルネ4のような宇宙船の内部かもしれません。この先にも部屋があるようですから、行ってみましょう」


 その先にも扉が見えたのだが、近づいてもその扉は開いてくれなかった。


「マスター、髪の毛を扉の先に伸ばして様子を探ってみます。……。

 マスター、扉の先は砂で埋まっていました」


「砂を排除すれば何かが見つかるかもしれないが、あまり期待できそうもないな。謎ばかり残ったが、第1回目の探検はこれくらいにして帰るか?」


「分かりました。少し気になりますので、床の金属も採集して、後でこのピラミッドに入って来た時切り取った金属と一緒にマーサに年代測定してもらいましょう」


「そうだな。中身はそんなに傷んでいないけれど、実際は相当古いものかもしれないしな」


 俺はアスカが切り取った床の金属片を収納に入れて、もと来た道を戻っていった。要所ではアスカにお姫さま抱っこされながらだがな。




 こころよく俺たちを送り出してくれた陛下に何かお土産がないかと思って帰る途中ピラミッドの中を再度見まわしたがそれらしいものは見つからなかった。


「なにか陛下にお土産になるようなものはないかな?」


「それなら、マーサの年代測定にはそれほど金属は必要ありませんから、残った金属で私が何か作りましょう」




 後日、アスカがピラミッドで切り取りとった金属をマーサに年代測定してもらったところ、その金属がこの惑星の環境で作られたものだとして1万2千年前のものだということが分かった。別の惑星で作られたとしてもこの惑星と環境が大きく違うことはないだろうということで、測定年代にほとんど差はないだろうという話だった。


 残った金属はアスカが加工して、それらしいピラミッドの模型を作った。中には小さなピラミッドが入っていて、さらにその小ピラミッドの中には箱を置いた部屋が作られている。リリアナ陛下にお土産で持っていったが、あまり受けは良くなかった。どうも、陛下は自分も連れて行ってもらいたかったようだ。



「マスター、私たちの最初の本格的探検でしたね!」


「そうだな」


「ということは、私たちは、これからショタアス探検隊?」


「アスカ、それはやめないか?」




[あとがき]

2021年9月1日

本編が完結して3カ月、未だに読んでくだる方がいらっしゃり感謝です。

今回は2話で終わりましたが、『ショタアス探検隊』は今のところ不滅なので完結とはしていません。

今回の宇宙船?から数千年後の世界が、

『ASUCAの物語』https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848 の世界になります。


宣伝:

完結済み

転移転生ものでないファンタジー『キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-』https://kakuyomu.jp/works/1177354055157990850 よろしくお願いします。

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