妹は姉の婚約者が欲しい

妹は私の婚約者が欲しいようです

  

 私の婚約が正式に決定し、公表される日の前日の夜。

 見た目が良く要領が良いだけの妹が、私の寝室に態々出向いて来ました。


「お姉さまにあの方はふさわしくありません。私に婚約者様をお譲り下さいな」

「リーシャ、貴方は何を言って……ああいえ。私の婚約はお父様、並びに国王様が決めた物です。私に抗議されても、どうこうできる物ではありませよ」


 私の婚約者は3つ年上のこの国の第2王子。

 国王と現侯爵のお父様が5年程前に侯爵家と王家の繋がりを強固にするなどのために、政治的な理由で取り決めた物です。


 そのため、いくら婚約者だろうと私から口を出すことは出来ませんし、口を出すという事は国王の決定に異を唱える事になるため、下手なことは出来ません。


「そうなの? だったらお父様にお願いすればいいのね!」

「え?」


 私の婚約には国王が関わっているので。簡単には変えられないという旨を伝えたかったのですが、どうやらお父様に言えば良いと受け取ってしまったようです。一言もそのようなことは言ってはいないのですけど。


 まあ、なるようになるでしょう。


 お父様もそこまで馬鹿なことはしない……そう言えば、王子の相手は私でもリーシャでもいいと言っていたような? それに国王も色の多い第2王子の身を固めさせるためと言っていたそうですから、実のところ私でなくても良いのかもしれませんね。


 むしろ、私は第2王子の人となりを知っているので、可能であれば他の方に譲りたいとも思っていましたから、リーシャのお願いが上手く行った方が、私にとっても都合が良いのかもしれません。



 そして、翌日の朝、リーシャが満面の笑みで朝食の場にやってきました。それにいつも以上に身だしなみを整えて来ているのが、着ている服装からも伺えます。


 それを見て私はまさかという驚きと、少しの安堵の気持ちが身の内に現れましたが、なるべく平静を装い、感情を表に出さないよう努めます。


「お姉さま!」

「何でしょうか」


 自慢げ、というよりも、私を馬鹿にしたような表情でリーシャが話しかけてきました。


「グリー第2王子は私の婚約者になりました! なので今日、お姉さまは外に出なくて大丈夫です!」

「……それは正式に決まったことですか?」


 私たちが暮らしている屋敷が王都内にあるとはいえ、昨晩の話がすでに王宮まで伝わっていて、さらにそれが決定しているのはさすがに早い気がします。


「はい! 今朝一番に書簡を王宮に送り、返事を貰っています!」

「……そうですか」


 リーシャの態度からして本当そうですね。ただ、これを完全に鵜呑みには出来ませんので、お父様に確認は取らなければなりません。


 リーシャが言ったことが実は嘘で、正式な場に予定していた人物の代わりに別人が立っているというのは避けなければなりませんから。



 

「その話なら本当の事だ。書簡についてはこちらにある」


 朝食の後、お父様の執務室へ確認に行ったところ、このように言われたのでリーシャの発言が正しい事がわかりました。


 王族との婚約のため、正式な書類に私と第2王子の婚約が纏められていたのですが、それについては魔法による契約がなされているため破棄され、もう一度、第2王子とリーシャの間で契約が交わされるようです。


 あれ? これはもしかして、婚約は致命的な理由がない限り破棄出来ないはずでしたから、私に原因があって婚約を破棄した、という流れになっているのではないでしょうか? 


 私と第2王子との婚約は、公にはなっていませんでしたが王宮の上位関係者には周知の情報でしたし、今日の発表で王子の婚約者が変わったことに気付くでしょう。

 当然、王族である王子の悪評が流れないよう画策するでしょうから、婚約者が変わった理由が私にあるとされる可能性が高いですね。


 お父さまは権力欲が強い方ですから、王族との繋がりは消したくないでしょうし、王族と事を構えないようにそうする可能性は否定できません。


 何故、リスクを負ってまで第2王子の婚約者をリーシャに変える判断を下したのかはわかりませんが、昨晩にリーシャから何かしらの提案があったのかもしれません。

 あの子は色々と画策するのが得意ですからね。あくまでも自らに利益があることに限られますけど。


 しかし、色ボケ……いえ、女癖の悪い第2王子との婚約が無くなったのはとても良かったのですが、今後の事を考えると、早めに手を打っておかねば私の立場が危うくなりそうです。


 最悪、他家との繋がりを作るために適当な家に嫁がされるかもしれませんし、悪評がある中でそうなれば、その家での扱いがどうなるかは容易に想像できます。


 悠々自適な生活が送りたいという訳ではありませんが、何からも縛られ一切の自由がない生活はさすがに嫌です。しかも、嫁ぎ先の相手が真っ当かどうかも怪しいですね。


 ええ、今すぐにでも手を打ちましょう。まずは、知り合いに連絡を取っておきましょう。後になると、連絡が取れなくなっているかもしれませんからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る