第52話 因果応報

 ――憲兵に連れられて、王都から遥か彼方の孤島エリバ島に連れてこられた元王子のジョージ。

 船が岸に着くと、島の唯一の住人たちがジョージを出迎える。

「これは、これはジョージ様。ようこそおいでなさいました」

 出迎えた男たちの顔に、さすがのジョージも見覚えがあった。

 ジョージの機嫌が悪かったというただそれだけの理由で、島流しになった宮廷騎士団の元副団長たちである。

「……!! お、お前たち!」

 かつてであれば圧倒的に上の立場から接することができた元部下たち。

 だが、今のジョージは既に王子でもなければ、宮廷騎士団長でもない。ただの囚人である。

 左遷という形で島流しになったとはいえ、騎士である彼らとは立場に大きな差があった。

「ジョージ様。正式に辞令が出ましたので、我々は一週間後には王都に戻ります。僭越ながら私は団長代理の任を預かりましたので、ジョージ様の後任を務めさせていただきます」

「な、なんだと!? ぼ、僕を置いていくのか!?」

「船なしに島から抜け出すことはできませんから、見張るまでもありません。そうですね、一年に一回くらいは生存確認に誰かがくるかもしれませんが、こないかもしれません」

「そんな!!」

「それでは少しの間だけですが、我々がジョージ様の面倒を見させていただきます」

「……そ、それで家はどこにある? 寒くて仕方がないんだが……」

「それならあちらです」

 と、元副団長は丘の上の掘っ立て小屋を指出す。まだ家畜の小屋の方が立派、という印象の代物だった。屋根ははがれかけており、薄い木の壁には穴が開いている

「あ、あれが僕の家か!?」

「その通りです」

 宮廷暮らししかしたことがない王子は絶望する。

「……と、ところで、腹が減ったし、のどが渇いた。水と食べ物をくれるか」

 ジョージは王子気分が抜けきれないまま、元副団長にそう言った。

「ジョージ様。ここではご飯は勝手にでてきませんよ。食べるものは自分で探してください」

「な、なんだと!?」

「バッタがいくらかいるのでそれを主食にするといいと思います。あと、少し歩いたところに野草もありますから」

「ば、バッタ!?」

 エリバ島は見捨てられた土地だ。左遷された騎士たちが自分用に持ち込んだもの以外にまともな食料はなかった。

「おお、お前たち! こんなの無理だ!! 助けてくれ 死んでしまう!!」

 ジョージは元副団長に泣きつく。

「いえ、王子様。死にはしません。私たちは王子様に命じられてからずっとここで生きてまいりましたから」

 元副団長は真顔でそう言った。

「……ッ!!」

 因果応報とはまさにこのことであった。

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