第42話 王子、決闘を申し込む。


 モンスターから女学生を救うという自作自演作戦が完璧に裏目に出て、面目丸つぶれのジョージ王子。

 しかし彼は自分が倒せなかったボスを、アトラスが倒してしまったという現実を受け入れられないでいた。

(これはなにかの間違いだ……!)

(この僕が、あんなやつより劣っているはずがない)

(そうだ。僕がいいところまでボスを追い詰めていたから、あいつは簡単に勝てたんだ)

(つまり、手柄を横取りされた!)

 それが彼の出した結論。

 それが彼の中で事実になった。

(そうだ。ダンジョン攻略で遅れを取ったのも、パーティの宮廷騎士が弱すぎるからだ)

(一対一で戦えば、僕が負けるはずはない)

(……このまま「僕が弱い」なんて評価のままじゃ終われない)

(真に強いのは僕なのだと証明しなければ)

(そのためには……そうだ。決闘だ)

(どちらが強いのか、白黒ハッキリさせるのだ)

 王子は早速、宮廷騎士の副団長を呼びつける。先日孤島へ左遷された男の跡を継いだ新任副団長である。

「おい! あの生意気なアトラスと決闘をする!! 準備しろ!!」

 そう命令すると、副団長は苦い表情を浮かべる。

 王子以外の人間は、王子がアトラスより弱いと理解していた。

 だが、肝心の王子だけがそのことを理解できていなかった。

 ただ恥を上塗りするだけになる。それが副団長の本音だった。しかしそんなことは口が裂けても言えない。もしそれを指摘すれば、左遷は間違いなかった。

「承知しました」

 副団長はしぶしぶ指示に従う。

 ――負けたときに、王子の怒りの矛先が自分に向けられないことを祈りながら。


 †


「決闘……ですか?」

 宮廷騎士副団長によって、決闘の件を伝えられたアトラスは突然のことに困惑する。

「王子様はアトラス様の真の実力を図りたいと仰っています。他意はありませんので、どうか引き受けていただければと」

 流石にいきなり決闘を申し込むという行為が非常識だということは副団長にもわかっていたので、下手(したて)に出てアトラスをなんとか決闘の場に引き摺り出そうとする。

 言うまでもなくアトラスは乗り気ではなかった。その大きな理由は――王子相手では、本気を出していいのか、手を抜いていいのかわからないからだ。

(手を抜けば流石にわかるだろうし、かと言って勝ってしまってもそれはそれで気まずいし)

 どうしたものかとアトラスは考え込む。

すると、副団長は深々と頭を下げて言った。

「王子様のお望みです。何卒よろしくお願いします」

 年上の、しかも宮廷騎士団の副団長という役職についている男が、そうして頭を下げてきたことで、アトラスは断れなる雰囲気ではなくなった。

「えっと、そのまぁ王子様が言うなら仕方ないですが」

 アトラスはしぶしぶ了承するしかなかった。


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