有川浩 『塩の街』

 三作品目は、第一作目で紹介した、『海の底』と同じ作者の有川浩さんの作品、『塩の街』です。

 この作品は、有川さんが当時の電撃小説大賞へと応募し、大賞受賞された作品となっていて、つまりは有川さんの処女作とでも言うような作品になっております。

 処女作らしく、荒々しい部分もありはしますが、それすらも魅力に変えられていて、正直初めて読んだ段階ではそんなこと気付かされずに勢いよく読めてしまうのです。

 第一回目で紹介した『海の底』から存在を知って、そして購入したのですが、十年近く前に買った一冊であるにも関わらず、今でも一年に一回は読みたくなって読んでいます。

 今では、読みすぎてしまったのか、表紙の部分も黒ずんでしまったり破れてしまったりしているのですが、それでも大事にしていて、引っ越しの際も必ず持っていくほどです。


 さて、あらすじですが、地球のありとあらゆる場所に、宇宙空間から巨大な塩の結晶が降り注ぎ、その結晶を目にしてしまったものは徐々に塩の結晶となってしまう、その事実を自衛隊が突き止め、そして原因を取り除くために行動する中での、一人の自衛官と、その自衛官と偶然出会った女子高生の二人の恋愛小説になっています。

 この一冊は、登場人物こそ変わらないものの、短編集とでも言いますか、一話一話でそれぞれ読んでも楽しめる上に、続けて読むと更に楽しめるようになっています。

 今回は、その一話ごとに触れるのではなく、大枠のストーリーに関してのみ触れることにしますが、機会があったらそれぞれについても語りたいところです……。


 私がこの作品で一番好きなのは、月並みになってしまうのですが、愛する少女のために、結晶化するリスクを冒してまでも塩の結晶に挑もうとする自衛官の彼に、行ってほしくない、自衛官に片思いしている少女が押しかけていかないで欲しいと止めようと部屋に押し掛けるシーンです。

 好きだからこそ死ぬリスクを冒してまで行かないで欲しい少女、好きだからこそ、これから先も死んでほしくないと願うからこそリスクを承知でいこうとする男性、そしてようやく、一瞬の事ではあれ、繋がり合う、そしてすれ違う二人。

 これから一体どうなってしまうのか、というこの場面、今でも、むしろこの場面を何度も見たいからこそ、内容を全て記憶してしまうほどに何度も読んでいるこの作品を、もう一度、と手に取ってしまうのだと思います。


 また、この作品、シーンごとに題名が、と言うかそれぞれのシーンの中に出てくる一文がタイトルになっているのですが、そのシーンを読み進めていき、最後にタイトルの本当の意味を知った時は鳥肌が立つほどに感動すると思います。

 実際、自分は毎回鳥肌を立てていますし、今ではタイトルを見るだけで内容が鮮明に、頭の中で情景が流れていくように思います。


 立場も年齢も、住んできた世界も何もかもが違った二人、その二人の恋愛と、変わりゆく世界、是非とも読んでみて欲しいものです。

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