【ホラー】キャッ!

水ManJu

第1話

昔の話です。僕はその当時大学生だったんですね。僕は地方の大学に受かり大学の近くに引っ越しました。


その日は夏の暑い日で僕は若くて貧乏だったこともあり、クーラーもつけずに、大体……夜中の一時頃でしたかね……部屋の中で布団の上でゴロゴロしてました。


すると外から「キャッ!」っていう女性の声が響いたんですね。僕はさほど気にしなかったんですが……その「キャッ!」って声は次の日もその次の日も同じくらいの時間に聞こえてくるんですよ。


大体夜中の2時から4時くらいが多かったですかね。その「キャッ!」っと女性の声が聞こえるの。どうもそれは随分遠くから聞こえる感じだったんですよ。


僕はその当時、賃貸のマンションに住んでました。まぁいわゆる閑静な住宅街だったんですね。で、その土地はいわゆる盆地で四方が山に囲まれた土地なんです。どうやら、「キャッ!」って声はその山の方から聞こえてくる感じだったんですよ。



僕も最初は気にしてなかったんですが……段々怖くなってきましてね。マンションの管理人さんや、近所の人に聞いても、そんな声は聞いてないって言うんですよ。


で、その話を当時仲が良かった友人たちにしました。するとその友人たちはなんだか僕の話を面白がって、そこ山に肝試しに行こうって言うんです。


僕は本当は嫌だったんですけど、意を決して友達を連れて夜中に車を走らせてその山に行くことにしました。怖かったんですけど、そこは若い時のノリってやつですね。


で、車の中で友達が言うんですよ。あの山は知る人ぞ知る心霊スポットだと。あの山でかくれんぼをすると幽霊に取り憑かれると。


夜中2時くらいですかね。とりあえず車で行けるとこまで行こうってことで車を走らせて、で、「キャッ!」って声がするの待ってたんですね。


で、夏だったんで蚊も多くて友達も

「おーーい! 幽霊さーーん! 返事してーー!」とか

「おーーーい! ここだよーー! 幽霊さん。なにがあったのーー!」とかふざけた感じで大声をあげてたんですね。


で、最終的にはやってはいけないかくれんぼを始めたり……

「もういいかーーい!」

「まーだだよーー!」みたいな感じで。みんな信じてなかったんですね。


で、山の中にも入ったんですけど、なんせ真っ暗ということもあって、まともに登れず、蚊も多かったんでその日はそのまま帰ることにしたんですね。


で、車を走らせていたら猿を見かけたんですね。僕たちの車が近づくとすぐに逃げていったんですが……

「お前、あの猿の鳴き声と聞き間違えたんじゃねぇの?」って友達が笑うんですよ。


僕もひょっとしたらそうかもなぁ……なんて思いながらその日は帰ったんですね。その日は女性の叫び声も聞こえませんでした。なので、おそらく、猿の声が山に響いてそれが女性の声っぽく聞こえたんだろうって思いました。


で、しばらくその女性の声は聞こえなかったんですね。でも! 一緒に山に肝試しに行った人間が事故にあったんです。飲酒運転の車に


ドーーーーーーーン!! っと撥ねられて

両足が複雑骨折になったんですね。


で、その他にも一緒に行った友人が原因不明の病気で倒れて入院したり……なんだか僕怖くなって……


どうしよう! どうしよう! あの山に行ったせいだ! ひょっとしたら僕も……って真剣に悩んで……だけど


夜中にその女性の声が聞こえるんですね。

「キャッ!」って今度は近づいてる感じがしたんですよ。

それでその次の日も「キャッ!」っと声がするんですね。どんどんどんどん大きくなってる!


僕は本当怖くなってお寺にお祓いに行ったんです。そしたら住職さんが

「そんなとこ行くな!」って。心霊スポットなんて行くなって言うんです。

「お祓いは出来ないが、ご祈祷は出来るからそれでいいか?」って僕に聞くんです。


僕は藁にもすがる思いでご祈祷してもらったんですよ。でお寺の住職さんは「もう女性の声がしても反応するな! 山にも絶対に行くな」ってことを強く言われましたね。


それで僕は家に帰りました。夏だったんですが、家の窓を全部しめて聞こえないようにしたんですね。で、僕は布団にくるまって寝たんですね。


その日は本当に怖くて……少しの物音でビクッとした思い出があります。で時間は夜中の4時……あぁご祈祷してもらったからもう聞こえないんだ……って思ってたら……小さく「キャア」って聞こえたんですよ! 僕はもう全身鳥肌が立って、怖くて、怖くて。窓を閉めたハズなのに。


窓の外は真っ暗なんですね。窓の外を怖くて見れないんですね。誰かが覗いてる感じがして。その日は僕は一睡も出来ませんでした。で、その日から眠れない日々が続いたんですね。いつ「キャア!」って声が聞こえてくるか分からないから、もう眠れないんです。ホントに一睡も。


僕はその時はうつ状態みたいな精神状態になってまして。ノイローゼって言うんですかね。で、これはもう行くしかないと思ったんですね。山に。多分僕たちがふざけてしまったからだと。霊に対してふざけた態度をとるのは厳禁なんですね。でも僕らはそれをしてしまった。


それで霊が怒ってるんだと。住職に行くなと言われてたんですが、もう限界でした。


僕はその日は一睡もせずに夜中の2時になったら車を走らせてあの山に行ったんですね。で、大声で叫びました。


「すいません! 僕が悪かったです! 許してください! あの時ふざけてすいませんでした!」半狂乱でしたよ。もう必死で。涙を流しながら必死に必死にお願いしましたね。


すると懐中電灯をつけた人が近づいて来たんです。僕は驚いたんですが、その人はとても人当たりが良さそうな初老の男性でした。


その人は「どうしたの?」って心配そうに僕に声をかけてくれました。僕はその男性に

「ここの山から女性の声が聞こえるんです! キャア! キャア! って女性の声が!」と僕は半狂乱になりながら説明をしました。するとその優しそうな男性はなんだか事情を知ってるようでした。


その男性は

「僕にもたまにその叫び声が聞こえる」と言ってくれました。「えっ?!」っと僕が驚いているとその男性は昔ここであったことを僕に話してくれました。


実はここで昔、今ぐらいの季節に殺人事件があったと。女性はここに連れてこられて「キャーーーー!!!」っと大きい声で叫んだんだと。しかし、それも虚しく殺されてしまったと。その日から女性の叫び声が聞こえるようになったとのことでした。


その男性は

「よっぽど辛かったんだろう。よっぽど苦しかったんだろう。自分の叫び声が届かない思いを抱きながら亡くなったんだと僕は思う。だから、僕はその声が聞こえるたびに手を合わせて成仏を祈ってるんだ」


と言いました。その時にはなんだか僕は落ち着きを取り戻して

「一緒に祈ってもいいですか?」とその男性に聞いて、一緒にその女性のご冥福をお祈りしました。


「叫び声が聞こえるかもしれないが、その時は心の中でお祈りして」と言いながらその男性は僕を見送ってくれました。


なんだか僕は憑き物が落ちたような感じがして車を走らせて家に帰りました。するとその日からピタリとその「キャア!」と叫ぶ声がしなくなりました。


怪我や病気をしていた友達もなんとか回復して……そうですね。一年くらい経ったでしょうか。その時にとあるニュースが飛び込んできました。


あっ! っと思いました。


そのニュース番組に出てたのは、あの時山で会った初老の男性だったんです。犯人の父親として出てました。顔は映さず声だけだったのですが、あの特徴的な声。僕は一発で分かりました。あの初老の男性だと。


そのニュースの事件とは悲惨なもので、近所のたちの悪い不良たちが少女を拉致しては監禁しこれ以上はとても言えないことを繰り返していたというものでした。


その不良のリーダー格がその初老の男性の息子とのことでした。


しかも、その監禁場所は女性の叫び声が聞こえていたあの山だったんです。そこの山の山小屋に監禁していたのです。


しかもその手口は悪質で、同じ不良仲間の子供を使って信頼させた後「かくれんぼをしよう」と提案させる。

それで、子供たちがかくれんぼで一人きりになっているところを狙って誘拐したそうです。


ひょっとしたらあの「キャア!」という声は実際の被害者の声だったのでは……そう思うと僕は震え上がりました。本当に監禁されていた女の子が必死に助けを求めていた声だったのでは。だけど僕はそれに気づかなかった。


この事件は凄まじく悲惨な事件だったのですが、地方の一新聞社が取り上げただけで、全国的なニュースになりませんでした。


僕は不思議に思いました。あの「キャア!」という声。本物ならみんな聞いていたハズなのに。なんで近所の人はみんな知らないと言ったのだろうと……


どうやら事件を調べていくと、犯人は地元でも有名なワルらしく、しかも父親である初老の男性が地方の有力者で、反社会的勢力とも繋がりがあるらしく、みんな触らぬ神に祟りなし状態だったとのこと。


僕は思いました。みんな「キャア!」と叫ぶ女の子の声を聞いていた。それで、知らないフリをしていたのでは……あの山に行くなと言っていた寺の住職でさえも……街の人全員が山でなにが起こっているのか薄々気づいていた。だけど、気づかないフリをしていた。


僕はその土地が気持ち悪くなり、引っ越しました。僕は自分に起こったことを警察に話しましたが、相手にされませんでした。あの声は必死で助けを求める女の子の叫び声だったのでしょうか。それとも幽霊の叫び声だったのでしょうか。僕には分かりません。


今だにあの「キャア!」という叫び声が耳に残っています。


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