第1話 始まりは夜明けとともに

「お父さん、お母さん、おやすみなさい」


 こちらので僕の名前は立花樹たちばないつき。お風呂を済ませた後、いつものように居間のテレビでニュースを見ている両親に声をかけた。


「ん、おやすみ」


「あら、樹。もうそんな時間なの? おやすみなさい。あ、そうそう、明日のお墓参り、忘れないでね」


 明日は春のお彼岸で、家族でお墓参りに行く予定なんだ。


「うん、朝からでしょう。大丈夫だよ」


「よろしくね。それじゃ、おやすみなさい」


 僕一人だけの部屋に戻り、寝る支度をして、布団の中に潜り込む。

 そして目を閉じ、のことを考えてみる。


 明日は日の出前から大忙しだ。だって、ジュト兄の結婚披露宴があるから。あちらには天気予報のような便利なものはないけど、雨や雪が降りそうな感じはなかった。せっかくならみんなに楽しんでもらって、二人を祝福してほしい……


 そう思っているうちに眠っていた。







 鳥のさえずりが聞こえてきた。


 目を開けて辺りを見渡す。部屋の中はまだ薄暗いから、夜は明けていないようだ。木窓から少しだけ外の光が漏れてきているな、でもこの村は東側に山があるから日の出までもう少しかかるんだよね。


 今日は春の中日ちゅうにち(太陽が真東から上る日)、1年の始まりの日だ。こちらではこの日を境に、生きているものは本来の誕生日に関係なく、1つ年を取る。だから私は今日14歳になった。


 こちらでの私の名前はソル。あちらと違って生まれた時から女の子をしている。


「うー、こっちはまだ寒いや」


 ユキヒョウのカァルがいなくなってもうそろそろ4か月。いまだにその暖かさが恋しい。

 隣を見ると弟のテムスがすやすやと寝息を立てている。さてと、今日は早く起きなくちゃいけないんだけど、どうしようかな……もう少しだけ寝かせてあげようかな。

 可愛い弟を起こさないように、そっと部屋を出た。





「母さんおはよう」


 台所ではすでに、ミサフィ母さんが朝の支度を始めていた。


「おはよう。二人とも朝早くから済まないね」


 ん、二人? 振り向くと、目をこすって眠たそうにしているテムスが立っていた。


「おはよう……」


「さあ、早く顔を洗っておいでご飯にするよ。今日は忙しいからね」


「はーい。あ、そうだ。おばさんはいつ来るの?」


 おばさんはサチェさんと言って、母さんの実のお姉さん。何かの時には手伝ってくれる頼もしい存在だ。


「姉さんは朝を食べたらすぐ来ると言っていたからね。さあ、早く」


 テムスと一緒に台所の裏口から外に出る。東の方の空は明るくなってきているけど、あたりはまだ薄暗い。でも、星がよく見えるから天気はよさそうだ。


 ただ、この明るさでは私たちだけで井戸を使うのは危ないので、台所の外に置いてある水瓶の水を使う。中を覗くと氷こそ張ってないけど、なかなか冷たそうに見える。


「テムス、冷たいけど我慢してね」


 二人で顔を洗い、ついでにトイレも済ませておく。


 台所に戻ると料理ができていたので、居間に運び三人で食べ始める。


「父さんたちが来るのは、お昼過ぎだったよね?」


「バーシを日の出とともに出発するはずだから、それくらいかね」


 タリュフ父さんとジュト兄は、昨日からジュト兄のお嫁さんになるユティさんを迎えに隣村のバーシまで行っている。ユティさんはバーシの村長むらおさ(村の取りまとめ役)のバズランさんの娘さんでジュト兄と同い年の17才。

 隣村のバーシから私たちが住むカインまでは、30キロぐらいしか離れてないんだけど、一番早い移動手段が馬のこの世界ではどうしても時間がかかってしまう。荷物も積んでいて走れないし、途中で休憩も必要なはずだから半日近くはかかるだろう。


 今日は、父さんたちの到着を待って、ジュト兄とユティさんの結婚披露宴を行うことになっているのだ。


「それまでに準備しないとだね」


「ああ、村の人も手伝ってくれるけどお前たちも頼んだよ」


「「はーい」」


 三人で急いで食べていると、サチェおばさんが野菜をたくさん持ってやってきた。


「おはようミサフィ。食事中かい」


「おはよう姉さん、もう終わるよ。それで、羊はいつ頃になりそう?」


 私とテムスは慌てて残りの料理をかきこみ、お茶で流し込む。


「今、5人がかりで東の村井戸のところでさばいていたから、そんなにかからずに来るだろうよ」


 私の家は薬師の仕事をしていて、治療のために水を使うことがある。そのために家のそばに井戸があるけど、他の村人は村で管理している共同の井戸を使っている。東の村井戸は村の中心から東側にあって、我が家からも近い井戸の1つだ。


「思ったより早いね、助かるよ。それなら、こっちの準備も急がなきゃ。片付けはいいから、ソルはパン窯でパンの準備を。テムスは私の手伝いをしておくれ」


「わかった母さん、行ってくる。……あ、そうだ、おばさん。おじさんは今日来るんでしょう?」


 おじさんはセムトさんと言って、隊商の隊長さんだ。予定ではもう戻っているはずなんだけど……


「ああ、そのはずなんだけどね。まだ帰ってないんだよ……。なあに、心配しなくても数日遅れることはよくあることだからね。それに今日は大切な日だから、間に合うように来るはずさ。それよりもソル、ジュトのあとはお前だよ。タリュフさんにお婿さんのお願いしてるのかい?」


「わ、私にはまだ早いよ。それじゃあ、行くね」


 後ろから『早くはないよ』というおばさんの声が聞こえたけど、お婿さんの話題はなー、精神的な抵抗があるからなかなか決められないよ。


 それにしてもおじさん大丈夫かな。大事なお願いの返事を聞かせてくれるって言っていたのに、心配だよ……


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あとがきです。

「樹です」

「ソルです」

「「皆さん初めまして、僕(私)たちの物語をご覧いただきありがとうございました」」


「お気づきかもしれませんが、通常僕とソルが一緒のところにいることはあり得ません」

「え、そうなの?」

「だって、そうでしょう。これまでこんなふうに話したことないよね」

「うーん、私たちそんなに仲悪かったっけ?」

「仲悪いわけないでしょ、だって僕たちは……」

「はーい、樹そこまで。この先は物語の続きをご覧ください」

「まだ最初なのであまり話すことはできませんが、こんな感じで僕たちがあとがきに出てくることがあります」

「本文を読まれた後、ほんの少しあとがきも見ていただけたら嬉しいかな」


「「それでは、皆さん。引き続き『おはようから始まる国づくり』をお楽しみください!」」

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