第28話 全翼機計画、前へ

「マリー、どうだった?イメージ作れたか?」

「空を飛ぶところはできたわ。でもごめんなさい。ぶっちゃけ紙の滑空玩具で想像しちゃった」


マリーが苦笑いすると、アニエスも同じ表情で続いた。


「姿は想像はできるんだけれど、あれはあくまでも紙だから飛べたのよね。石で作る全翼機でも同じことができるの?」


その言葉に、何人かが頷く。


「確かに、材質は選ぶ必要があります。石では条件が悪すぎるから、軽さと頑丈さを兼ね備えた素材を探したい」

「素材なら、いくつか候補があるわ。樹脂系と軽金属系で何種類か試せそうね」


ちなみに私は想像できたわよ、と微笑むのは技官の向かいに座っていた壮年ドワーフだった。髪の毛を赤黄緑とグラデーション状に染めており、目がちかちかする派手なシャツを着ている。口調は女性っぽいが、どう見ても男性である。


「ザヴィアさん、素材にも詳しいんですか」

「バルちゃんで結構よ。魔道具の意匠職人デザイナーなんて職業、素材選びができないと話にならないもの」


バルタザール・サンチェス・ザヴィア。2号機トイネン君3号機コルマス君の製作にもかかわった、アニエスとマリーが全幅の信頼を寄せるデザイナーだ。とにかく話が早いということだったが、なるほど、これは期待できそうな人材だ。


「滑空の仕組みについてはもう少し勉強させてほしいかも。でもここにある設計図の通り作るだけなら難しくない。そうね、3日も貰えればそれっぽいものはできるでしょ」


マジか。それはありがたい。


「すみません、お渡しした資料は、理想的な素材を用意できるという前提で最も効率の良い飛び方ができる姿です。私たちは新しく」

「だ~いじょうぶ、わかってるわよ。でもまずはここにある形を参考に、どの素材を使うか決めるわ。軽さと頑丈さと魔法への相性を考えれば良いのよね?」

「その通りです。あと、できれば調達の容易さと価格も」

「了解りょうかい。素材が決まったら、改めてどんな形が一番良いのか試してみましょ。それが一番早いと思うわ」


何でもないことのように言って話を促してくる。

視線を感じてちらりのアニエスの方を見ると、マリーと二人でドヤ顔をしていた。私がこの人を見つけてきたのよと言わんばかりだ。


「滑空試験に当たっては、軍の方で場所を提供できると思います。高所からの発進が必要とのことでしたので、城壁から街の外に飛ばす形が良いでしょう」


軍の技術士官さんも協力を申し出てくれた。ありがたい。


「試験機の製作に当たっても、軍の設備をお使いいただけます。必要に応じてお申し付けください」

「あら、それは助かるわね。とりあえず作るだけならウチの工房アトリエで間に合うケド、量産まで考えると誰かに設備を借りたいところだわ」


「助かります。ブレン、手続きをお願いできるか?」

「ふむ、ならば儂から軍に依頼書を書こう」

「バルタザールさんの所である程度完成の目途がたちましたら、正式に依頼を出させていただきます」

「もう、バルちゃんでいいってば。でももう少しお話聞かせてほしいから、この後ウチの事務所に来てもらえるかしら?」


ばちこんと放たれるウインクに若干の危険を感じるが、俺も知識を出し惜しみするわけにはいかない。できる限りのことをしよう。


「わかりました。伺います。アニエス、マリー、一緒に」

「来てもらうのはリュートちゃん一人で大丈夫よ。二人っきりで、じっくりしっぽり話し合いましょ」

「バルちゃん言い出したらきかないから、リュートがんばって」

「よくわからないけど、苦しいのは最初の15分だって同級生が持っていた本に書いてあったわ!」


え、何この状況。まさか二人に見捨てられるとは思っていなかった。

仕事上の必要と身の危険、どちらを優先させるべきかについてしばしの間頭がフリーズする。


「それでは、素材選びも含めた試作4号機の制作をザヴィア工房に依頼します。いったんこの会議は解散ね。議事録はのちほど送るわ。また来週、同じ時間に同じ場所で会いましょう」


固まる俺を尻目に、アニエスが閉会を告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る