好きなタイプは?
『────やっぱり優勝の決め手は私の特攻だったと思うんだよねー。みんなもそう思うでしょ?』
四人の話題はMMVCの事になっていた。今回の目玉コーナーと言ってもいい。
『あははっ、姫知らないのー? あれコメントで「戦犯」って言われてるんだよ?』
ありすちゃんが笑いを堪えながら告げる。
姫が言っているのは優勝を決めた最後のバトル、姫とこおりちゃんVSバレッタのシーンのことだ。二人で戦えば楽勝だったはずだが、姫が先走ったせいでギリギリの勝負になってしまったんだよな。勝ったから良かったものの、負けていたらとんでもなく炎上していたことだろう。
コメントも『あれは戦犯だった』という内容で埋め尽くされていた。
『そうかなあ? 私の魂のサブマシンガンでバレッタの体力八割くらい持っていってなかった?』
『…………うーん……確か半分くらい、だったような……』
『マジかよっ!? あははっ戦犯じゃん私!!』
姫が堪えきれず笑い出す。自分がやらかしたことで腹を抱えて笑えるのは姫の一番の魅力かもな、と俺は思っている。メンタルが強い人の事を見ているだけで安心するというか。無人島で誰か一人と遭難するなら、俺は推しているこおりちゃんではなく姫を選ぶかもしれない。そういう魅力があった。
いやまあこおりちゃんと遭難したらしたで、いつも以上の力が出せそうではあるんだが。
『でもメモちゃんが半分削ってくれたお陰で勝てましたから。最後のバレッタさん、本当にエイムが凄くて負けたかと思いました』
『ねー! 最後のバレッタホント凄かった! ボク観てて感動しちゃったもん。ぬあああ、ボクがこおりちゃんに頭抜かれなければなあ〜〜』
『あはは……私もまさか頭に当たるとは思いませんでした。勿論狙ってはいたのですが、難しい武器なので』
ありすちゃんはこおりちゃんのスナイパーライフルで一撃で倒されてしまった。俺は神楽さんの隣でそれを観ていた。撃たれた瞬間こそ見逃してしまっていたが、まさか狙われていたとは全く思わなかった。ありすちゃんが先にこおりちゃんを発見していたように思えたからだ。
『…………あれは流石でした……私はあの武器、あまり得意ではないので……本当に凄いです』
『結局MVPもこおりちゃんだったしなー。私としては優勝出来て万々歳って感じだ。放送も荒れなかったし?』
『姫インタビュー凄かったよね、「荒らしてた奴ら!」って叫ぶんだもん』
『まあ私も溜まるものがあったからな。コメントで「お前何もしてへんやんけ!」って言われたけど、今日の配信で私のお陰で勝てたってこおりちゃんから言質も取ったし、私としてはもう言うことないね』
視聴者に向かって「溜まるものがあった」とはっきりと言うあたりやっぱり姫はフリーダムだ。そして姫の視聴者はそういう発言に慣れている。姫の性格はファンの皆に完全に受け入れられていた。
『うーん、こおりちゃんの性格がいいだけの気もするけどな……?』
視聴者の声を代弁したようなありすちゃんの疑問は、誰にも拾われることなく空気に溶けていった。
こういうダークな冗談が言えるのも、姫が優勝したからに他ならない。神楽さんには申し訳ないが、荒れる荒れないの話だけで言うと、姫とこおりちゃんが優勝して良かったと思ってしまう。
『そういえばボク疑問だったんだけど、こおりちゃんってどうしてそんなにエムエム上手いの? 明らかにプロレベルだと思うんだよね』
「……お」
その質問は俺も気になるな。こおりちゃんは初めて配信でエムエムをプレイした時から上手かったから、前からやっていたんだろうことは想像がつくけど、どうしてそんなに上手いのかは配信で言ったことはなかったと思う。センスがある一般人レベルでは到達出来ないのがエムエムの最高ランク、こおりちゃんが到達している『マリオネットキラー』なのだ。
『うーん……どうして上手いのか、ですか。実は私、一時期めちゃくちゃエムエムをプレイしていた時があって。それはバーチャル配信者になる前の話なんですけど。その時に上手くなった感じですね……』
『めっちゃやってたって言っても……それにしても上手くない?』
『多分、皆さんが想像しているよりもめっちゃ、ですよ。詳しくはあれですが……一ヶ月に何百時間とか、そういうレベルです』
『え、何百時間!? えーっと、一ヶ月が大体三十日だから〜……』
『ありすさん、計算するのはやめてくださいね』
『あははっ、ごめんごめん。でもこおりちゃんが強い理由が分かったよ。ボクもそれくらいやれば強くなれるかなあ』
『…………ありすちゃんなら、すぐ強くなれると思う。凄く上達してるから……』
『そーお? ありがと〜バレッタ! 次は優勝しようね!』
まだ発表されていないが、第三回MMVCもきっと開催されるはず。ありすちゃんとバレッタは雪辱を果たすため、また同じ組み合わせで出るつもりなんだろう。丁度今回のこおりちゃんと姫のように。
◆
『────えーっと、次の質問は……これにしようかな。多分気になる人多いと思う! ズバリ、好きな人のタイプは!?』
ありすちゃんが取り上げた質問を聞いて、コメントが大いに盛り上がりを見せる。
今回のオフコラボを開催するにあたり、事前に配信で取り上げて欲しい質問を募集していた。今はそれに答える質問コーナーの時間だ。
知らなかったこおりちゃんの一面もいくつか知ることが出来て俺はとても満足していたが……まさかこんな爆弾が待っているとは。
というかこの質問は大丈夫なのか。神楽さん、完全にノリで選んでないか?
『…………え、これってマジで答えるやつ?』
珍しく姫が呆気に取られている。
『そりゃ〜勿論! 皆も知りたいよね〜!?』
ありすちゃんがコメントを煽る。コメント欄はバーチャル配信者ガチ恋勢の叫びで大騒ぎになっていた。
俺はというと……静かにその時を待っていた。
こおりちゃんの好きなタイプがどういう人かは分からないが、それが俺に当てはまる可能性は限りなくゼロに近い。何故なら俺にはこれといった長所がないからだ。
男らしい?
……ノー。
優しい?
……ノー。
面白い?
……ノー。
何か詳しい趣味とかある?
……ノー。強いていえば、こおりちゃんくらいだ。
こんな有様だ。自分で言ってて悲しくなってくるな。
「…………まあそもそも、こおりちゃんの好きなタイプが分かったからといってもな」
それが分かって、何になると言うんだ。
もし当てはまったからといって「よし! ワンチャンあるぞ!」とはならないだろう。ガチ恋勢とはいえそれくらいは弁えている。
『じゃあ言い出しっぺのありすからな』
『えー、ボクから〜!? …………うーーーーんそうだなあ……一緒にいて楽な人、かなあ』
「…………これは……」
…………なんか中の人を知っていると、聞いていて恥ずかしくなるな。神楽さんの好みを盗み聞きしているような感覚。勿論作られた答えかもしれないが。
『ほら、ボクって気遣い屋さんでしょ? だから一緒に居るなら気を遣わなくてもいい楽な相手がいいなあって』
ありすちゃんの言葉に姫が反論する。
『え、そうかー? ありすって割といつも好き勝手やってない?』
『いやいや、こう見えて色々気を遣ってるんだよ? 姫には分からないかもしれないけどね? ……はい次バレッタ!』
『わっ、私!? …………えっ、えーっと…………優しい人……?』
『えーなんか普通〜、つまんな〜い』
うーん、鳥沢さんは確かにそういうタイプに見える。というかそもそも男の人が苦手だからなあ。荒々しい人は他の人より余計に無理だろう。
『…………そんな、つまんないって言われても……』
このコーナーに入り、先程からコメント欄は今日一の盛り上がりを見せている。その大半が『俺か』『俺のことだな』『ありすちゃんの好きな人は俺だったのか』『俺優しいってよく言われるよ』等というもの。こういうノリは見ていて楽しいんだよな。
『……じゃあ……次、姫お願いします』
『私かあ……正直困ったなー。好きなタイプって言われてもなあ』
姫は珍しく悩んでいた。姫のことだからズバンと言い切るのかと思っていたが、栗坂さんはあんまり恋愛に興味が無い人なんだろうか。
『うーん、パッと思いつかないけど……押しに弱いかもしれない、かな……?』
『え〜! めちゃくちゃ意外! 意外じゃない!?』
ありすちゃんがコメント欄に呼びかける。『意外過ぎる』『そういうタイプなのか』というコメントが殺到していた。確かに意外だな。配信での姫の印象でも、栗坂さんの印象としても。
栗坂さんはピシッとキマったオトナの女性って雰囲気で、恋愛事は自分からグイグイ引っ張っていきそうな印象があった。
『あーーなんかめっちゃ恥ずかしいなこれ……じゃあ最後、こおりちゃん!』
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