3.復活・バレンタイン

「お前ならわかるだろう? 俺は絶対嫌だからな」

「うーん、そういわれると……」

「ツカサ、だがそれはお前の意見であって、ポスター起用でモテモテになりたい隊員の方が多いかもしれないぞ」

「……」


司さん、沈黙。心当たりがあるのか。というより、特殊部隊といっても構成員は年頃の男子なわけで、そりゃそれで女子にちやほやされたらちょっといい気分にもなるだろう。

彼女募集中の人もけっこういるはずだ。


「俺はマスコミに大々的に晒されるよりdash島にでもこもって作業をしている方が好きなんです。とりあえず、俺ははずしてください」


まさかの司さんからdash島ネタ出たよ。今どうなってんだあの番組。


「お前がリーダーだろう! リーダーが外れたら絵にならない!」

「向こうのリーダーも他のメンバーが芸能活動してる間も一人で島やら職人みたいなことやってるようなので、成り立つはずです」


司さん、やめて。テコでも出たくないのはわかったから、その例上げるのやめて。いろんな意味で。


「私はそんなリーダー好きだったけど。知ってる? TO-KIOはじゃんけんでリーダーを決めたらしいよ」

「それ、司さんと全然被らないエピソードだろ。特殊部隊でそれはないよね!」

「結果的にパワーバランスは良かったわけで。そうやってみんなが派手に動いている時にコツコツと居場所を守るような人ってリーダーに向いてると思う」


待て。何の話だ。


「メンバーが欠けてからは事件もあったし私もテレビとかあんまり見てないのでどうなっているかは知らないけど」

「シノブ、今の事件ってどっちのことだ? TO-KIOのことか? 天使襲撃のことか?」

「どっちでもいいだろ、もう」


そんなことを言っている間に司さんは電源を抜いた端末をもってソファの方へ戻ってきた。

忍がうまく隙を作ってくれたとみていいのかこれは。


オレの見ている横で司さんは「特殊部隊」と書かれたフォルダごと、削除した。

画像なので「サイズが大きすぎてゴミ箱に入りません、完全に削除しますか?」みたいなメッセージが出たが、躊躇なくYキー、つまり「はい」を押す。


「あっ! 人のデータを……器物損壊罪に値するぞそれは」

「忍、復旧不可能にするにはどうしたらいい?」

「セクタを上書きするとかだけど、時間かかるから物理的にディスクを破壊するのが一番間違いないと思う」

「本当に器物損壊になるだろ……」


結局、完全消去はアナログ方式に還元する不思議。


「冗談! 冗談だよ。端末返せ」

「一人くらいはノリノリの奴を貸し出してもいいですが、面倒は見切れないので個人契約にしてください」


それ、御岳さんでしょう。司さん。

割とわかりやすい。


「あーあ、この揃ってる感はいい線行けると思ったんだけどな」

「お前今冗談って言ったばっかだよな。本音くらい黙っとけ」


相手の都合を考えないところはさすが悪魔としか言いようがない。


「もういっそのこと男性形女性形の神魔を別々に集合ポスターにしてそれぞれ華々しくしたらいいでしょう」

「キャッチコピーは『誰からチョコを贈られたい?』とかなら一枚で掴みはオッケーだよね」


司さんのなげやりな発言が、忍の機知によって活路を見出されてしまった。


「もっと臭く狙っていくなら、誰から愛をもらいたい?的な」

「絶対それビジュアルこいつだろ。そんなこと言いうそうなのこいつぐらいしかいないぞ忍」

「で、女性の方もそんな感じで五、六人集めてユニットみたいにしてみる。そしたら男女平等イベントになってどっちも入りやすい気がする」


まさかの全く進まない日常茶飯事から、一気に話が進み始める。

なんかこういうの前にもなかったか?


あ、音楽会のコンサートのポスターの話か。

オレは思い出した。

しかし、その時より対象が身近な分、突っ込みどころは多いわけで。


「あと、事前に購入した人に投票権を与えてみたらどうでしょう」

「投票権?」

「男女各メンバーの中からチョコをもらいたい人に投票をして、投票した人の中からさらに抽選で実際チョコがその神魔の方々から送られるシステム」


全員沈黙。


すごくないか、それ。

神魔のユニットなんてだけでもセンセーショナルなのに、お好きな神魔選べますとか、絶対釣れるよね。


「実は忍、商才がすごくあるんじゃないか」

「いや商才っていうか、心理的にどう囲うかだよな?」

「公爵、忘れがちだけどメンタリストですよね。心理分析してみたらそんな感じで行けそうじゃないですか」


もう日本の生活にどっぷり浸かっていて悪魔としての利点を使うことを忘れている模様。

平和な時代には剣は曇るものだ。


一方で忍は日本人の一般的な社会の仕組みを前提にしているので、アイデア出始めるとバンバン出る。

本日の議題の収束は近そうだ。


「そのアイデアは悪くない。女子が食いついてくるのは目に見えているし、それならチョコが貰えなくて義理でもいいから欲しいとか羨望まで行ってしまった男は本気で狙いにくるレベルだ」

「アイデア自体はちょっと前にあったアイドルグループの総選挙をふと思い出しただけですけど」

「つまり導入実績もあるってことだな」


本気になって考え始めている。

というか、穢れなき(?)女神さまたちをそういう使い方していいものか。


……ダンタリオンは悪魔だ。オレの知ったことではない。


しかし、マニアじゃなくても女神からチョコが貰えるなんてシチュエーション的にはちょっといいのは否定できない。


「話題性もあるな。よし、次の会議で提案してみよう」


むしろ神魔の人がポスターで出ちゃうあたりが話題性だらけだよ、もう話題以外の何者でもないよ。


本当にどれだけ駐在のヒト達は日本経済に貢献しているんだろう。



 * * *



そして……

その年を境に、日本のバレンタインは大きく変わった。


義理チョコ消費から、友チョコ、自分ご褒美を経て、そこに新たに「神魔のために貢ぐ」という選択肢が増えたことは言うまでもない。


この手法はやがて、あらゆる採用可能なイベントに取り入れられ、神魔と人間は、ますます親密になっていくのだった……



「仲良きことは美しきかな」

「うん、まぁどっちも楽しいならいいけどさ……」


とりあえず。


「……忍、もう少し早くアイデアを出してくれないか」

「あれは司くんたちの画像を見た経緯を経て出たものだから、早くは出ない」

「……」


司さんの肖像権も守られたまま。

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