2.バレンタイン商戦を考える

「公爵のキャッチフレーズなんて適当でいいんですよ。それより、こっちの女性神魔のポスター」

「適当でいいってなんだ、シノブ」

「なんでも合うってことです。公爵起用の場合、大事なのは素材だから」

「それもそうだな」


適当にあしらわれてるぞ、お前。

でもまぁ、ビジュアルだけ必要という意味では間違っていない。


「人間のオレから見てもこっちは、さすがに美人可愛いが揃っててすごくいい感じじゃないか?」

「こっちは、ってなんだ秋葉。こっちの方はどうなんだ」

「お前の方はたくさんストックがあるんだろ、ない方が優先」


自己主張が激しい魔界の公爵である。

今見ているのは、えりすぐりの神魔の女性陣がチョコを中心にわいわいしている感じのポスターだ。


……こういう経験はさすがにないであろう。素で楽しそうな雰囲気が伝わってくる。


「これだと結局前と変わらないバレンタインとして復活しそうだから、できれば男女関係なくどちらからでも送れる仕組みにした方がいいかと」


海外発祥の本来は、感謝の気持ちを込めて。


そういう日なわけだが、女性から男性に贈るというイメージは日本独自の発展結果だ。

なんかその独自なイベントの文化ブレイカーになりそうな忍の発言。


一度停止する前も、すでに友チョコや自分へのご褒美といった面が出てきていたからそっちを推すのもありだろうが……

いずれ一方通行だと、確かにこいつ、義理チョコとかすごくめんどくさいとか言いつつきっちりやってそうだもんな、余計気遣いがめんどくさいわな


「ツカサ、お前の意見は?」

「なぜ俺に振るんですか」

「護衛面してないで、参加しろ」


……元々司さん、護衛で随行してるんですけど。

仕方なさそうに、司さんは意見を述べる。


「確かに、男性も贈るシチュエーションの広報があったら、結果消費は伸びるでしょうね。ビジュアルで映える女性神魔を起用するなら、贈られて喜ぶ構図にでもしては?」

「なるほど、たくみな心理をついてるな」


司さんもけっこう観察力が高いんだよな。

頭が柔らかい人は企画やらデザイン畑でもやっていけそうだ。


「そうか、公爵が乙女ゲーなら、ソシャゲのバレンタインイベント画像みたいな感じにすればいいのか」

「忍、俺はそういうことは言ってない」

「ギャルゲーよりあからさまじゃない分ナチュラルじゃない?」


知らないよ。

オレも司さんも同時にそんな顔をしたことは言うまでもない。


「女の人は華やかだからな~神様たちいつも笑顔だから何やっても花飛んでそうだし。撮影現場でいいのできるんじゃないか?」

「じゃあそっちは担当に伝えておくとして……他にも女性向けポスター候補がある。シノブ、ちょっとこっち来てみてみ?」


ソファの前のテーブルの上が雑然としているせいか、自分の執務用の机の上にある端末を忍に見せるダンタリオン。

さすが情報系の悪魔だけあって、使いこなしていそうだが、正直、違和感はある。


「……」

「この写真を見てフレーズをつけるなら何にする?」


こちらからディスプレイは見えないが、行くほどではないのでオレも司さんもそれを眺めている。

忍は即答した。


「平和と愛を届けます」

「え、どういうこと?」


ていうか何の写真見てるんだよ。


「もしくは、全力であなたを守ります的な何か」


がたん。

司さんが無言で立ち上がって、そちらに行った。

オレもなんとなく予想がついたが、とりあえず、動かない。


「……なんでこんな画像があるんですか」

「お前らほとんど二十代だろ? ビジュアル的にもイケてるから何枚か隠し撮りしたやつを……って、消すなよ!」


ひょっとしなくても特殊部隊のメンバーだっただろ。

司さんは画面を覗くと同時に割り込んで、その中から画像を削除したようだ。


「盗撮は犯罪です」

「肖像権もあるよね」

「いいけどな……お前、それ広告用のデータだからもちろん他のフォルダにオリジナルがあるからな」


ぷちっ

何かが切れるような音がしたような気がするのは気のせいだろうか。


「こっちの画像なんかどうだ」

「いやこっちはなんか自衛隊に入りませんかみたいな感じになってるからかっこいいけどちょっと違う」


何枚仕込んでるんだよ。

司さん、オリジナルが別の場所にあるとしてもその端末ごと破壊した方がいいんじゃないですか。


展開によってはやりそうだ。


「いっそのことみんな私服にしたらどうだと思う?」

「制服だから馴染みがあるわけだけど、年齢的要素はクリアしている。仕事柄体型もきっちり維持してる人ばっかりだし、十分モデル的な要素はあると思います」

「忍、それ以上進めないでくれ」


忍が乗ってしまっているので、まずはそちらから下ろすことにした模様。

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