年忘れと言ったら忘年会

年忘れと言ったら忘年会(1)ー酔うと地が出る日本人

忘年会。


それは年忘れの会。

日本人は年中行事が大好きだから、何かしら理由をつけてそれをしたがる。


飲ミュニケーションなんて言葉を使って、全員参加を正当化してくる年配者はまず、コミュニケーションの意味を理解した方がいい。


とは、忍談。


そんなわけで、我が外交部は有志の若手で飲み会中。


「秋葉ぁ、お前はいいよな。出世候補で」

「出世欲とか今時あるの? オレ、そういうの嫌なんだけど」

「あーわかるぅ。秋葉君は上司!ってタイプじゃないもんね」


どういう意味だよ。

ほどよく酔った同僚たちの会話を流してオレも適当に頼んだものを飲む。

面子的に仕事の延長感はないが、どうしても職場がらみの話になってしまうのは、あるあるだろう。


「オレ、結婚するのに貯金全部使っちゃって。今すぐ出世したいよ!ボーナス三倍!」

「三倍の根拠ない上に、もうボーナス時期過ぎてるから半年待ちだぞ」


貯金全部使いきる男と結婚したい女がいるんだろうか。

いや、式を挙げたがったのは彼女さんのようだから、……人それぞれだな。


なんて思いながら、実感の湧かない既婚者ののろけはスルーする。


「知ってた? 隣、特殊部隊の人忘年会やってるよ」

「えっ、マジで!? ……そんなに人数入らないだろ。有志か」

「知ってたー。だって、それ聞いてこの店、設定したの私だもん」


これだから肉食系女子は。

合コンでもやる気か。

一応、こちらは男女混合だが、特殊部隊のヒトたちとなると、ちょっと特別っぽいイメージがあるせいか、狙いをつけたがる女性は多い。

隣の芝生は青いってやつだろうか。

危険手当とかは確かに多そうだけど、それを狙う女子っていうのもまた怖いな。


まぁ、有志なら司さんは来てないだろう。


あまり大人数で騒ぐの好きそうじゃないし。


なんて思ってると


「あー、外交部の女子だ! 女子がいる!」

「隼人! 人の会場に踏み込むな!」


……なんか聞き覚えのある声がした。

顔を出したのは、御岳さん。

ふつうに職務外なので私服だ。

その顔を見て、キャー!と女子数名から黄色い悲鳴が上がった。


……なんか、女子の中では有名だったらしい。


「橘さん、来てたんですか」

「秋葉もか。隣に別部署の有志がいるとは聞いてたけど……って隼人。合流するな」

「いいじゃん、せっかくだもん。大人数の方が楽しいだろ?」


隼人さんは性格上、男性にも気さくなので歓迎ムードだ。

これはもう、隼人さん一人と言わずに……


「オレ一人で合流しても仕方ないから全員合流させていい?」

「あーオレ、特殊部隊の人達と話すの初めてです!」

「いいですね、盛り上がりそう」


全体が吸収合併されるフラグだ。


「隼人!」

「決まり、決まり」


と隼人さんは立ち上がると隣の部屋につながるふすまの前に立つ。

そう、この部屋は、個室だが大部屋をふすまで仕切っているだけなので、合流は簡単だ。


スパーン!と景気よく隼人さんはふすまを両脇に払い分けてオープンした。


「!!」


当然、突然のことに驚いて振り向くあちら側の面々。

人数は十数名。

随分こじんまりしていると思ったら……


「第一世代の人ばっかり!?」

「同期の桜ってやつだよ。たまには年相応に遊びたいの!」

「……何事だよ」


もうだいぶ酒の入っている御岳さんに向こうから声がかけられるのにそう時間はかからなかった。


「こちら外交の人達でーす。女子率ゼロだから合流」


酒が入っているのか、時間外だからか、意外にも「おー」と歓迎ムードなゼロ世代の人々。

ちなみに浅井さんと司さんの姿もあった。


「すまん、止められなかった」

「騒ぎたい奴は騒げばいいだろ。俺は端に移動する」


さりげに騒ぎの渦中から逃れようとしている司さん。

しかしそうはいかない。


「司! お前とはじめましてな子が一緒に飲みたいって!」

「……」


もう手遅れだ。こっちのメンバーも迎合されるままに入り乱れて席についている。

和室なので、テーブルまで寄せ始めている始末だ。


「ちょ、フグ鍋! グレード高い!」

「あたし鍋奉行やるー!」

「ずるーい、わたしもやりたーい」


……うっとうしい人にはうっとうしいんだろうな、この会話。

司さん、食欲失くしそうな顔してんぞ。


「えっと、隣いいですか」

「ぜひそうしてくれ」

「秋葉は主賓だからこっちー」

「ないですよ!? むしろブーイング食らうからやめて!」


御岳さんに強制的に誕生日席に移動させられそうになったが、抵抗する。

酔っぱらっているので、興味が別に向くとすぐに矛先は逸れた。


「あはは、やっぱり女子がいると賑やかさが違いますねー」

「浅井さん、外交部歓迎で?」

「もちろん。隼人さんじゃないけど男だらけで飲んでてもむさっ苦しいのは確かだし」


……酔ってんぞ。この人も酔ってんぞ。

良識部分が欠け始めてる発言が気になる。


司さんを見る。


「浅井は酔うと地が出る」

「地っていつものは本当の浅井さんじゃなかった……!?」

「いや、きちんと時間内は公私を分別しているだけで……時と場合による」


柔軟な人だ。

それとも、普段が忍耐強いタイプなのか。


「あっ先輩ずるい! みんな合流してる!!」


そこになぜか、さらなる問題児が顔を出す。


「なんで一木がここにいるんだよ」

「有志でーす。部屋向かいだけど」

「お前らも狙ってきたな……?」


こっちの女子とは違う意味で。

こいつらは中二病的な意味で特殊部隊の人達とお近づきになりたいし、女子がいたらいたで喜ぶ。……まぁそこはふつーの男子だ。


「今日忘年会だし、年忘れにみんなで騒ぎましょう!」

「嫌だ。オレは静かに年越ししたい。ゆく年くる年見てしめやかに除夜の鐘をテレビから聞いていたいタイプなんだよ!」

「オレ、スクランブルでハイタッチ派!」


取り締まる側だろうが、お前の仕事は。


「手遅れだ……司さん、どうして極秘でセッティングしなかったんですか……」

「幹事に言ってくれ」


わっと顔を覆って泣きたくなるオレも多分、酔っている。

すでに一般武装警察から数名が乱入してきている。


「これじゃ護所局貸し切りじゃないですか。仕事みたいでいやだ……!」

「年齢的にみんな近いのが幸いだよね。若者の集いだよ、秋葉君」


いや、あなた誰ですか。

特殊部隊の絡みがなかった人に声かけられたけど、服装がふつうに同年代だからますます誰が誰だかわかりづらい。


制服のイメージってすごいな。

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