怪獣出現

「どうなってるんだ!? 一体……」

 十二月も中旬に入り、いよいよ気温が下がってきたころ。

 雪でも振り出しそうな曇りの土曜日。


 アラトの両親は遠くまで営業と調査に行くとかで、昨日から二週間ほど家には帰ってこないことになっている。

 まあ元々いつ家に帰ってきているのか分からない様な人たちだが。

 経営者なのにというか、経営者だからなのか、アラトの両親は二人で遠くまで出かけて仕事をしてくることが多かった。


 外が暗くなり、家でアラトが夕食の用意をしていた時、遠くから何かが爆発するような轟音が響いてきた。

 音の感じからして、そう離れた場所ではない。

 アラトは音が聞こえてきた方角の窓に駆け寄りカーテンを開ける。


 信じられない光景が、アラトの目に飛び込んできた。

 ビルの隙間から覗ける住宅街のあたりには火の手が上がっているのか、日暮れの闇の中でオレンジ色の大きな光が揺らめき、黒いモヤがゆらゆらと揺れていた。


 そして、その上空。

 そこには、三十メートルほどもある巨大な人影がどっしりとした威圧感を放ちながら浮かんでいた。


 いや、人ではない。

 地上から上がる炎に照らされたそのシルエットは、二足歩行のようであるが、輪郭や手足の形、体の曲線を見る限りでは獣のようだ。恐らく、あれは……


「……猫?」

 巨大な二足歩行の猫が、フワフワと上空に佇んでいる。


 その猫がゆっくりと腕を振り上げ、スッと振り下ろすと、その下で二度目の爆発が起きた。

 数秒遅れ、窓越しでもはっきり伝わる爆音。

 あの猫のような怪獣がいる場所からアラトの家まではかなり離れているはずだが、爆発の衝撃まで伝わってきた。

 いや、これはもしかすると錯覚か?


 既に赤々と炎が燃え盛っていたところにさらに爆発が叩き込まれ、火の粉が辺りに大量に拡散される。

 いや、離れているから小さく見えるだけで、それなりに大きな火の玉になっているはずだ。


 一体、あの猫のような怪獣は……とそこまで考えたところでアラトは弾かれたように窓から離れ、勢いよく廊下を走りだした。

 乱暴に自室の扉を開けると、警戒したような様子のミーが、驚いたように扉のそばから飛び退いた。


 一瞬間を置き、入ってきたのがアラトだということに気が付いたらしい猫怪獣は、爆音がしてきた方向、つまり外の怪獣がいた方向の壁をじっと睨み、そのまま微動だにしなくなった。


 アラトはひとまず安堵し、同時にハッとした。なぜ自分は安心しているのか。あの怪獣が猫だと分かって、それで。


 ミーじゃないかと思った?


 いや、仕方がない。

 この前うるちに指摘されたところだ、それぐらい警戒しておいた方がいいに決まっている。そのはずではあるが。


 ふと、怪獣のいる方向を見つめて石のように動かなくなったミーを見て、アラトの頭にある考えがよぎった。


「いや、まさか、まさかだよな?」

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