ジュンキとうるち

「ジュンキさん? なんでちょっとむくれてるんですか?」

「スミキですー!」


 アラトに招き入れられ、リビングのソファに落ち着いたジュンキは、先ほどの笑顔はどこへやらといった具合のしかめっ面を浮かべていた。

 家に入るなり


「え? 今までキタちゃんと二人だったの!?」

 と言ったきり、ずっとこの状態である。


 出されたお茶を飲み、ミーがじゃれ付けば遊んでいるが、アラトに対しては妙に冷たい。

 ちなみに、ジュンキがうるちにつけた「キタちゃん」というあだ名は、「宇喜田」の「キタ」から取ったらしい。


 最初は「キタさん」だったのがちゃん付けに変わり、うるちの方でもジュンキのことを「スミキ」と呼んでいるのを見ると、知らないうちに仲良くなったらしい。

 最初こそ少しもめたものの、うるちがミーのお世話をすることに対して、なんだかんだ一番喜んでいたのもジュンキだったはずなのだが。


「私はここでお暇する」

「えー!? 私まだ来たばっかりだよ!?」


 鞄を持って立ち上がったうるちに、ジュンキが抗議する。

 冷たいのはアラトに対してだけらしい。


 ジュンキが引き留めるのも聞かず、立ったまま二歩、三歩と歩き出したうるちは、何を思ったのか立ち止まり、ソファに腰掛けるジュンキを真っ直ぐ見て、淡々と話し始めた。


「ごめんなさい、私はいつも言葉が足りなくて。その子にもすっかり警戒されてしまっているし、私はあまりお役に立てそうになかったから」

 ジュンキの足元でじゃれついているミーを見つめながら、無表情のままそこまで言ったうるちは一拍置いてからさらに付け足した。


「それに、二人の邪魔をしては悪いし」

 そういったうるちの顔はいつもの無表情のままだったが、いつもより纏っている空気が柔らかく、ほほ笑んでいるようにも見えた。


 それを受けたジュンキは、目を丸くしてパクパクと口を動かしている。

 その様子を見たうるちは満足げにスタスタと歩き出し、玄関の方へと去って行った。


 扉が閉まる音がした途端、アラトは思わずぽつりとつぶやいてしまう。


「なんだ? あれ」

「さ、さあー?  なんだろうね?」


 妙な調子で応えたジュンキに、アラトは疑問符を浮かべながらもさらに続けた。


「悪い奴ではない……と思うんだけど」

「キタちゃんはいい子だから!」


 またしても調子が一変し、真っ直ぐな視線と突き出した人差し指をアラトに向けてくる。

 もう不機嫌はいいのだろうか。

 元々感情がストレートで表情もころころと変わるタイプだが、今日は特に目まぐるしい。

 だが、アラトはそれに安心してしまう。


 苦笑を浮かべながらうるちと自分のカップを洗い場に持って行くアラトは、ミーにおやつをあげながら笑っているジュンキを、何の気なしに、しばらく眺めていた。

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