第六話

 待ちに待っていたはずの卒業式の日だ。


 感動している。「ぼっちでよく高校生活を乗り切ったな、頑張ったな自分」っていう一般的なJKは思わないであろうことに、感動している。

 

 嬉しいけど、なんだか少し寂しい。


 小さい時、高校生はもっと大人だと思っていた。私はもう高校を卒業して、大学生になろうとしている。誕生日に消す蝋燭の数はどんどん増えていく。でも私の中身は「おもちゃを買ってくれ」と駄々をこねて親を困らせたあの頃と、何も変わっていない気がする。心だけ置き去りだ。


 私は大人になれているのだろうか?



 卒業証書を受け取って、とにかく長い校長先生の話を聞いて、感動的な歌を歌って、卒業式は終わった。



 式が終わって教室に戻ると、卒業アルバムへのサイン交換会が始まっていた。もちろん、私には交換する相手はいない。また『一瞬』が過ぎるのを待つことになりそうだ。



 でも、音楽室の人が話しかけてきた。名前を覚えられないので、私は音楽室での出来事から、その人を「音楽室の人」と密かに呼んでいる。



 音楽室の人が言った。

 

 「ねえ、サイン交換って馬鹿げてるよね」

 「うん」

 「でもさ、この瞬間も『一瞬』だからさ」

 「うん」

 「逃しちゃいけないじゃん」


 黒いペンをアルバムと共に私の机に置いた。これは「サインしろ」ってことなのだなと分かった。私も、私のアルバムと黒ペンを渡した。


 お互いにサインを書いた。本当は、可愛い絵とか書きたかったど、残念ながら私にそんな画力と女子力はない。



 『一瞬を生きろ』



 私は少し考えてから、自分の名前を添えて、こう書いた。


お互いに書き終わったアルバムを交換する。



 『止まるなよ』



 私のアルバムにはこう書かれていた。



 「どういう意味?」私は聞いた。

 「そのまんまの意味」

 「そっか」


 よく分からないけど、分かった気がした。この三年間が一気に、意味のあるものになった気がした。

 




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一瞬を逃すな utoka @Raruhu2005

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