004

「あんな人がギルド統括だなんて信じられないわ」


 首席卒業生を筆頭に優秀な元学生で構成された「蒼き疾風ブルーウィング」のメンバーである少女が口にした。

 彼女の名前はエルーヌ・メルツァー。魔法剣士教育を行なっている「リトルブレイブズ学園」卒業生であり、彼女らの代の第二位に輝いた天才魔術師だ。

女生徒も憧れていた誰もが知ってる聡明な美人だ。が、冷静沈着な性格のせいで人を寄せ付けない傾向があるのがたまにきずである。


 彼女達はギルドを出てから、近場のカフェで一休みしていた。エルーヌは終始苛ついており、それをいつも宥める男は現在不在である。

 その男こそこのパーティのリーダーであり、首席であるルシオ・ヒルベルトだ。彼らは幼馴染であるが故に、お互いの宥め方はよく理解していた。

しかしながらそのリーダー様がいないのは、彼だけまだギルドに残り、クエストボードを睨んでいたからである。


「でも〜カッコ良かったの〜」


 イリアルをフォローするかのように少女が話す。学園第六位、フレデリカ・イバルラは性格こそおっとりめであるものの、錬金術の腕は彼女を超える人間がいないだろうという天才である。稀に変なものを錬金しているということ以外は、このパーティにとって必要不可欠であった。


 それに口を挟むのは、第五位でありこの国有数の著名貴族であるペトラ・ヒルシュフェルトだ。ヒルシュフェルト家の財力は底知れず、学園にすら影響を及ぼす。もちろん彼女が学園にて第五位であったのは、財力ではなく彼女の実力であった。

身長が低いことを気にしており、プライドが高いのが難点ではある。


「そうかしら? だらしないと感じたわ」

「それも含めて〜カッコいいの〜。ペトラは〜お子ちゃまだから〜わからないの〜」

「だ、誰がチビでガキですって!?」

「そんなこと言ってないの〜〜〜」


 口喧嘩を始める二人を見て、エレーヌはため息をついた。他人の振り見て……ではないが、少し冷静さを取り戻した。確かにイリアルはだらしないが、言っていることは正しかった。

 本人的には面倒ごとを持ち込んで欲しくない気持ちで言ったのかもしれない。言い方は悪かったが、所属している人間を守ろうとする言葉だった。

自分達はまだ学生気分が抜けていないのかもしれない、とエレーヌは思った。大人に迷惑をかけている場合では無いのだ。


「にしても遅いわね」

「僕が思うに、男同士でクエスト選びを楽しんでいるんだと思う」


 口元をクリームたっぷりにしながら、横に座る少女が話す。彼女は学園第四位のアウリ・アウティオである。パーティの中では一番レベルが低いのだが、彼女の持つ特殊なスキル「全知全能オールオブザワールド」によって、高度な魔法も道具や武器も扱えるのだ。


「ちょっと、アウリ食べすぎよ……」

「食べ過ぎって……エレーヌは聞いてなかったの? 冒険者は半額かそれ以上の割引を受けられる! この店に至ってはケーキがタダだよ」


 そう熱弁しながらまた別のケーキを頬張る。これはチーズケーキだ。雑にフォークを突き刺して、口元を汚しながら食べる様を見て、エレーヌは「本当に同い年なのかしら」と嘆いた。

男二人はまだ戻らないし、とため息をつきながら紅茶を口に含んだ。




「うーーん」

「そんなに悩むことか? 一番難しいのを受ければいいだろ」


 クエストが貼られた掲示板を見ながら頭を抱えていたのは、ルシオではなくライマー・エクスラー、学園第三位の少年である。

彼は飛び級で他のメンバーと合流し、そして卒業を果たした。エレーヌ達が18歳に対し、ライマーは15歳だ。パーティでは参謀担当で、その知略を活かしている。

 そして今もこうして掲示板の前に張り付いて、ルシオを悩ませている。正直ルシオも空腹になりつつあったので、早々に決めて帰りたいところだった……のだが。この現状である。


「逆に聞くけど、君はどれが大丈夫だと思う?」

「え? うーん、このドラゴン討伐?」


 ブロンズの掲示板にある一番難易度の高い仕事だ。ドラゴンといえど、親からはぐれた小さな成人男性サイズのドラゴンだ。小規模パーティでも撃破出来たという実例があって、今はブロンズ級でも倒せると思われている。


「やっぱり……」

「なんだよ、文句があるなら言えよ」

「じゃあ言うけど。まず第一に、本当にはぐれたかと言う心配だね。子供が殺されて怒らない親はいない。特に動物は」


 依頼書を叩きならライマーは喋る。言うことは最もである。これを見つけた住人が一匹で遊んでいるところを見かけただけで、実際は親龍が見える範囲で作業なりしているかもしれない。


「それは置いといたとしても、僕達はそもそも金がない」


 ドラゴンの討伐はここから馬車で三日はかかる遠方だった。そんな遠くの討伐任務を置いておくなと言う話だが、本部であるが故に各地方のクエストも置かざるを得ない。

時々遠方に用がある冒険者もいることから、必要なことなのだ。

 そしてなんと言っても、卒業したての彼らには予算というものがなかったのである。宿を借りようにも移動しようにも必要な金が欠如していた。


「まぁそうだけど……」

「エレーヌは黙ってろって言ってたけど、今日泊まる分の金がもうないんだよ」

「……マジか」


 流石のルシオも女性を四人連れて野宿というわけにもいかない。ルシオは覚悟を決めると、掲示板にあった一つの依頼書を取った。

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