異世界転生ってレベルじゃねえぞ!~地球人1億人と異世界転生したけど、陰キャなので神にも地球人にも見捨てられた俺は、謎の褐色美少女と共に1億の頂点に立つ~

山田康介

異世界転生ってレベルじゃねえぞ

「異世界転生ってレベルじゃねえぞ!」


 俺は叫んだ。

 森の中心で、見知らぬ木々の狭間で、そして混乱した群衆の渦中で。


「うるっせえぞ! 黙ってろ陰キャ!」


「あ、はい! すいません……」


 そして後ろからぶつかってきた男に睨まれて、突き上げた頭を引っ込ませて、群衆の一員に戻った。

 きょろきょろと辺りを見回して、もう自分が注目されていない事を確認して一息ついた。

 俺は注目されるのが嫌いなんだ。

 

 俺は佐藤優斗。

 ごく一般的な高校2年生で、身長は164㎝、体重58㎏で平均より少し下だ。

 通う高校は地域の平均的な頭の人達の集う高校で、成績は学年170人中102位だ。

 部活には所属せず、運動はあまり得意ではない。

 趣味はゲームやラノベを読む事だけど、そこまで深く熱中せずライト層と呼ばれている。

 そして友達は驚異の0人。

 ……つまり俺は全てにおいて中の下辺り、そしてコミュ障が祟って社会的な層で言えば、底辺になるのが自分でも分かるくらいに人脈がない。


 高校で友達を作ろうと勇気を出して話しかけた相手は、ことごとく愛想笑いをして避けるようになり、応募した夏のバイトは面接で相手に引き笑いされて落とされた。

 最近高校では、孤立している俺を更に疎外する空気が生まれてる。

 困ったものだな。

 そんな割りとお先真っ暗だけど、何とかなるだろうの精神でここまで生きていたら、ある日転機が訪れた。

 そう、皆ご存じ全人類にとっての一大イベント。


 富士山大噴火だ。


 ……異世界転生だと思った?

 違うんだな、それが。

 ある日、唐突に起きた富士山大噴火は瞬く間に世界中を灰で覆って太陽が隠され、世界は全球凍結一歩手前まで冷やされ、俺を含む多くの人々が死んでしまった。

 見事俺のお先真っ暗の人生は、暗黒時代に突入する前の黄金時代で終わってくれたのだ。

 しかし、どうやらそれは神々の手違いによる物らしく、テンプレ通りに死んだ俺達――総勢10億人は異世界に飛ばされた。

 唯一テンプレと違うのは、この見渡す限りの大森林を埋め尽くすほどの人間が同じ世界、場所に飛ばされてしまったという事だ。

 神曰く、「そんなに飛ばせる世界も多くないし、適当に10個くらいのグループに分けて飛ばすわ」だそうだ。

 見渡す限りの人、人、人……。

 遠くの方には外国人の姿も見える。

 この大森林を埋め尽くす人混みは、総勢1億人の地球人達の群れという事だ。

 こんなに人が多いと特別感も何もないな。


「おい、何でこんなに人がいるんだよ! ……って、おい! まさかお前幼馴染のユウか?」


 後ろから男の声が聞こえた。

 どうやらその声の主は俺の方に来ているようだ。

 こいつは確か、同じクラスの杉本だ。

 サッカー部の部長で頭が良く友達が多く、女子からの人気も高いスーパーマンみたいな奴だ。

 杉本はこちらに近寄ってきて……そして俺を通り過ぎて後ろにいる女に話しかけた。


「よかった、ユウも同じ場所に飛ばされたんだな……なんか俺達ずっと一緒だな、運命ってやつか?」


「な、なに言ってんのよこのバカ! ……でも君がいてくれてよかった」


 勿論俺じゃない。

 俺なわけないだろう、コミュ障で友達0人だぞ。

 話しかけてくれる奴なんていない。

 別にいいさ、だっていつもこうだから慣れてしまったし。


 ……それに今のカップルの会話で気付いた事がある。

 神は俺達をこの世界に飛ばした時、おそらく身近な人間を近くに配置するように飛ばしている。

 杉本は同じクラスだし、相手の女は隣のクラスの佐藤――俺とは同姓なだけで無関係の佐藤優香だ。


 成程、神も何も考えもなしに飛ばしているわけではないらしい。

 知り合いを近くに飛ばしたから、せいぜい協力して生き残ってくれという訳だ。

 知り合いのいない俺には全くの無関係だけどな、ははははは。


「やばい、なんか虚しくなってきた……どっか行こう」


 コミュ障スキルその12『人混み縫い』。

 声を出さず、そして気配もなく、ただ影のように人と人の間を縫って望む場所に到達する。

 かっこつけて言ったけど、ただ影が薄いから他人に気付かれなくて。自分から相手をかわすしかないから身に着いた特技だ。

 とりあえず、それを使って俺は歩き続けた。

 

 事あるごとにやれやれ言いながら文明の利器作り出してる奴や、俺と同じくらい平凡っぽい癖に女子に囲まれている奴や、中二病患者みたいに物憂げな笑みを浮かべて「また来ちまったか……この世界に」とか言ってる奴、演説をして皆を集めてグループを作り出す奴、何かの因縁だと言いながら異世界に来た時に神に与えられた異能力で戦ってる奴、色んな奴の隣を通り過ぎて、もう2時間は歩き続けた。

 あ、ちなみに俺には神からの異能力とか、そういうのは与えられなかった。

 人によって才能とか異能力とか魔法の武器とか、物は違っても何か与えられたみたいだけど、俺には何も与えられなかった。

 多分影が薄くて気付かれなかったんでしょうね。

 コミュ障だから神が「よし、もう全員に与えたな」って言ってる時に名乗り出られなかったし。


「おっと……日本人がいるのはここまでか」


 俺は足を止めた。

 視線の先には英語を喋る人々がいる。

 ただでさえコミュ障の俺が、英語でまともなコミュニケーションを取れるとは思えない。

 いや、母国語でさえまともなコミュニケーション取れてなかったけど……。

 

 1人、日本語と英語圏の人々の境界で佇んでいると、何やら日本人が動き始めた。

 こっそりついて話を聞いた限りでは、どうやら少数の人々でグループを作って別行動を取る事にしたらしい。

 そもそも人数が多すぎるし、慣れない異世界で文化の違う相手と生活するのは負担になるという発想だそうだ。

 それには俺も同意する。

 この人数で動くとなると、情報伝達1つに相当な時間が掛かるし、そもそも知り合いが身近にいるんだし、そうしない理由がない。

 ……ただしそれは俺にも知り合いがいた時の話だ。


「そして、誰もいなくなった……」


 ぽつんと1人、コミュ障が。


 そりゃそうだろう。

 俺は最初の場所からもう何㎞も歩いている。

 周りの人は皆知らない人だし、そんな人達に声を掛ける勇気は俺にはない。

 元の所に戻るか、それとも近くの誰かに声を掛けて知り合いの輪の中に無理やりにでも入れてもらうか、でもそれはちょっと気まずくなるよな……。

 と、考えている間に皆どこかへ行っていた。

 これでよかったんだ。

 ここまで来る道中で、皆自分に与えらえた能力の紹介で盛り上がっていた。

 無能力の俺が行ったって、受け入れられない。

 勉強、運動、性格、特技、趣味、今まで何も取り柄のない俺が受け入れられなかったように今回もそうなる。

 ……だけど、一言くらい声掛けてくれたっていいじゃないか。


「本当に虚しいな」


 気付けば俺の足は動き出し、歩き続けて大森林を抜けていた。

 一応人の通った跡を選んで進んだつもりだったけど、目の前には何もない。

 荒野だけだ。

 人の痕跡1つない。

 俺は1人ぼっちだ。

 

 ――今までのように。


「……考えるのやめだ! もうどうにでもなれ!」


 寝ころべば硬い土の感触が俺を受け入れてくれた。

 おお、偉大なる大地よ、俺を支えてくれるのか。

 なんてな。


「はあ、異世界まで来てもお先真っ暗か。もうこの荒野で朽ちるのを待とうかな」


 土の香りは異世界でも変わらないんだな。

 こうやって目を閉じれば風が土の匂いを運んで……くれ……。


 ……。

 …………。

 ………………。


 なんだこれ、体が浮いてる。

 それに周りの景色も、っていうか景色真っ暗だ。

 そうか、超速理解した。

 これは夢だ。

 俺は歩き疲れて眠ったんだ。


 ほら、顔を抓ってみても痛みがない。

 あんな所で寝ていれば俺の人生も終わりだな。

 すぐに野生の動物が俺の事を喰いに来るだろう。

 いやー短い人生だった。

 でもどうでもいいよな。


 俺は孤独なんだ。

 親もいないし、兄弟もいない。

 友達だって1人もいない。

 さっきだって、俺と同じような陰キャは何人かいたけど、それでもどうにかしてグループの中に入れてもらってた。

 あの必死さがあの人達と俺の違いなんだろうな。

 まったく怠惰な性分に生れたな。


「それが良い、それを我は気に入ったのだ」


 え、誰?

 急に、銀髪褐色美少女が……俺と同い年くらい、外国の方ですか?

 

 ……じゃない、しっかりしろ俺!

 夢の中だろ。

 こいつは妄想の人物だ。


「然り、これは夢中。我の姿は貴様の妄想よ。しかしこの姿が良いというのなら、今後この姿で現れてやろう」


 ん? お?

 どういう事だ?

 夢の中で、俺好みの褐色美少女が居て……明晰夢?


「明晰夢、思い通りになる夢というヤツか。似ているが、少し違う。なぜなら思い通りにするのは貴様でなく我だ。『荒野の王』たる、この我だ」


 彼女の眼光が俺を射抜くと共に、豪風が俺の体を強く押した。

 生暖かく、そして不快な風だ。


 夢の暗闇の中なのに風が……。

 いや、これは俺がお前の風格を感じて、勝手にイメージしたのか。

 だったら……。


「んんっ……あー、声の出し方もイメージすればいけるか。……思い通りって何をするつもりだ。段々これがただの夢じゃないって俺にも分かってきたけど、お前が何の目的でこんな事をしているのか、それがさっぱり分からない。」


「ほう、人間の癖して中々やるな。だが、貴様が我が真意を理解する必要などない。我は貴様を気に入った。孤独で怠惰で、何より異界の者には珍しく神の加護を受けていない。だから貴様に力を与え、つき纏いその行く末を見る。貴様が知るべきは、それだけよ」


 褐色美少女はそう言って、俺の頬を撫でた。

 まるで愛おしい……道具かペットを、雑貨屋やペットショップでお気に入りを見つけた少女のような笑顔で無邪気に撫でた。

 思わずごくりと唾を飲み込んでしまって、恥ずかしくなって慌てて会話を続けた。


「力……つき纏う……。これから先、俺についてくるのか?」


「くくく、嫌か? だが、残念ながら貴様に拒否権は……」


「ま、待ってくれ」


 思わず彼女の言葉の途中で声が出てしまった。

 これが俺の悪い所で、考えた事が口に出やすい。

 これで何回友人を作るチャンスを失った事か。


「なんだ……我は言葉を遮られるのは好まぬ。下らぬ事であったら、ただではすまんぞ」


 ああ、やっぱり不快そうな顔をしている。

 先ほどまでの無邪気な嬉しそうな顔とは打って変わって、冷たく無感情な顔だ。

 これは言葉を間違えれば、本当にただではすまないだろう。

 ……だけど、俺は思った事を口に出すだけだ。

 俺は意を決して口を開いた。


「全然、嫌じゃないよ。君は俺の事を気に入ったし、ついて来てくれるんだろ? 俺にそんな事を言ってくれたのは君が初めてだ」


 一旦言葉を切って、深呼吸をする。

 気合を入れろ佐藤優斗。

 お前にとって、ある意味人生で最大のチャンスだぞ。

 ……よし!


「これから、よろしく」


 そう言って手を差し出す。

 礼をして手を握られるのを待つ。

 待つ……。待つ……。待つ……。


 しかし手は、いつまで経っても握られない。

 もしかしてこれ大失敗ってやつですか?

 人生最初の友達作り失敗?

 そんな事になったら、恥も外聞もなく泣くぞ俺は。


 恐る恐る頭を上げて、彼女の顔をうかがう。

 そこには。


「……なんだこれは?」


 奇妙な物を見て、困惑した表情をする彼女の姿があった。


「何って……握手」


「アクシュ? はて……アクシュ」


 もしかして、彼女は握手を知らないのだろうか。

 この世界には握手の文化はないとか?

 あり得る、日本でも未だに握手の文化は日常的に浸透しているとは言い難いし。

 教えよう。


「なるほど、これは握手か。友好の印……。そうか……ふふ」


「ふふ?」


「何でもない! さあ、早く握手をするぞ。それで契約は成立だ!」


 褐色美少女が俺の手を握った。

 その瞬間、彼女から発生した暴風が俺の体を包み、体の中に暖かい物が流れ込んでくる。

 背中から、足から、手から、頭から、体の中心に向けて、渦を巻くように流れ続ける力の奔流。

 ……こ、これは。


「気持ち悪い……。」


「なんだとー! 貴様失礼だろうが!」


 力の奔流が収まり、褐色美少女が俺の手を強く握る。

 やめてくれよ、痛いってば。


「悪かったよ。ただ、物凄い力が俺の中に入ってきたから、つい……」


「まったく……。だが、仕方がない。本来ならば貴様のような人間が耐えらえる力ではないからな。流石我の見込んだ男だ、褒めてやろう」


 見込んだ男……か、褒められると少し嬉しくなるな。

 って、ちょっと待て。


「え、今なんて言った? 人間が耐えられない? お前そんなものを俺の体に流し込んだの?」


「え……まあそうだな。そんな事より貴様名前は何と言うんだ?」


 彼女は何でもないかのように、しれっと受け流してくる。


「いや、そんな事じゃないだろ! 何も言わずに何て事してくれてんだお前!?」


「まあまあ、細かい事を気にするな。我の名は……ファムだ。気軽にファーちゃん呼んでくれ」


「ファーちゃんって……呼ばないよ。俺の名前は佐藤優斗だ。……何か最初とキャラ違くないか?」


 最初はあんなに威厳たっぷりで怖いくらいだったのに、こんな短時間でもう……なんか変な人になってる。

 ファムは俺の顔をきょとんとした顔でしばらく見た後、頬に手を当てた。


「だって優斗の初めて、奪ってしまったのだからな! これくらい仲良くなるのは当然だろう!」


何を……言っているんだ? この女……。

いや待て。

そう言えば俺はファムの話を受ける時にこう言ったな。

『俺にそんな事を言ってくれたのは君が初めてだ』

それをファムはまるで恋人のように……俺もいたことないから分からないけど。

でも、俺はもっと軽い気持ちだったんだけど。

 ……言ったら殺されそう。

 黙っていよう、俺の安全のために。


「そうだ。優斗、目を覚ました方がいいぞ。貴様の寝た辺りは凶暴な魔物が多いからな。今頃体を喰われてるかもしれんぞ」


「それを早く言ってくれよ!  じゃあなファム、また会おう」


「ん? ああ、そうだな。我も楽しみにしよう」




 目を覚ましたら巨大なオオカミに顔を舐められていました。

 うわ、臭い! じゃなくてヤバい!

 俺の命がヤバい!


「うわあああああ! 助けてくれえええええ!」


「ギャウン!」


 あ、オオカミがボールみたいに飛んで行った。

 今の俺がやったのか。

 恐怖に駆られて手を前に出したら、光弾が出てオオカミを吹き飛ばした。

 これがファムに貰った力って奴か?

 見た感じ、純粋なエネルギーって感じだけど……。


「その通り。それはまだ純粋なパワーだ」


「うわっびっくりした……。なんでファムがここに? 夢の中にいるんじゃ……」


 振り返るとファムがいた。

 腕を組んで俺を観察して、髪を弄っている……実物だ。


「言ったであろう。今後この姿で現れる、と」


 あれ現実の世界で現れるって意味だったのか。

 夢の中の話だと思ってた。


「待った、まだって言ったよな? じゃあ純粋なパワーから変化するのか?」


「ん……少し複雑な話になるな。簡潔に言えば、望む事ができる万能の力だが制約が……まあ、これからこの世界で長く生きていくのだ。その内分かるさ」


 その内ね。

 できれば今知りたかったんだけど、話す気がないのなら聞かなくてもいいか。

 なんだか、今すぐどうにかできるような力でもないみたいだし。


「それよりも、記憶で見たぞ? 貴様と同郷の者が1億もいるのだろう? くくく、荒れるぞこの世界は」


「おいおい、なんで楽しそうなんだ?」


 褐色の肌がすっと俺の肌に寄せられる。

 俺よりも少し冷たい肌の感触が直に伝り、澄んだ灰色の瞳の中に俺が映った。

 くっ、顔が近い。

 顔だけじゃない、なんでこいつ、こんなに距離が近いんだ。

 

「そんなの決まっているだろう? 神に見捨てられたお前が、神に愛された同郷の者1億を超え、この世界の頂点に立つのだから」


 そう言ってファムは俺から離れて、荒野を先に歩いた。

 もう日は沈んでいたが、俺の足はファムの背中を追っていた。

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