季三月彩子

第8話 脳内の居候

 季三月家 彩子自室



 綺麗な原稿用紙を文字で埋めて行く快感、私の何時ものルーティーン。


 でも今日は集中出来ない。普通人間の調査対象から反撃に遭ったから。


大神一洲おおがみいちず……変な名前」


 成績は学年順位ど真ん中、背は少し高いけど、それでも普通の域を出ない。運動神経はまあまあ、性格……普通? よく分かんない、目立つ訳じゃ無いけど暗くも無い、ちょっとスケベだけどそれも男子なら普通でしょ? 顔は……少しだけ良いかも、少しだけだよ。でも短髪のボサボサ頭は減点対象。よって、大神一洲は我が高一の普通人間である。


 って、嫌だ! あーもう、何でアイツの事ばっかり思い出しちゃうんだろう。


 私は原稿用紙に無意識に書いてしまった大神の名前を消しゴムでゴシゴシと擦った、原稿用紙のマスが消えてしまうほど強く。


「おしっこ漏らしたくせにカッコつけないでよ」


 なんか乗らない、下校して直ぐ自室に籠って原稿用紙を広げた私は何時もなら憑りつかれたように筆が進むのに。


 ダメだ……私は制服のままベッドに背中から倒れ込んだ。


「アイツ、小説書いたことあるのかな? 随分的を得た話してたけど」


 って、また考えちゃった! もう、大神! 私の頭の中から出て行ってよ!


 私はむくりとベッドから身を起こし呟いた。


「気分転換しよっと」


 今日は何だろ? バニーガール先輩かな……私はクローゼットから黒のバニーガール衣装を取り出し着替え始める、黒髪ロングのウィッグをかぶりアニメの彼女と同じ髪止めをつけて姿見の前に立つ。


 可愛い、なんてね……。私は鏡の前で前屈みになり胸を両腕で挟み込みポーズを決める。


「エロっ」


 私がコスプレイベントに行ったら周りを人で取り囲まれたりするのかな?


 彩子ウォール出来てるって……でも行くのが怖い、正体バレたら恥ずかしくて学校に行けないし。


 もう少し背が高かったらなぁ、胸の大きさは完璧だと思うんだけど、Eカップだし。


「写真撮ろ」


 部屋の隅から三脚を手に取り足を延ばし、お父さんの形見の一眼レフカメラを据付ける。リモコンでポーズを決めながらシャッターを数えきれないほど切り、カメラの小さな液晶画面で出来栄えを確認する。


 普通だなぁ、三脚を移動しベッドにカメラを向け私は布団の上に寝そべり少しエッチいポーズをしてみる。


 私は大量にシャッターを切って画像をまた確認した。


 いいよこれ、エロかわじゃない! 


 ノートパソコンに画像を取り込み大きな画面で出来栄えをチェックする、可愛く撮れてるけど、何か違う……表情にエロさが足りないんだ。


 エロい顔ってどうやるんだろう、したこと無いから分からないし。でもこれは実験って訳にはいかないし……恋愛もした事無いのにエロい顔出来るかっ!


 私はため息を付きながら画像を全消去した。


「あっ!」


 あの写真! 大神に撮られたやつ! 消去してくれたのかな? ヤバいヤバい、急にお腹が痛くなる、拡散されてたらどうしよう。


 取り敢えず大神に連絡しなきゃ、って分かんないよ連絡先!


 そういえばアイツの最寄り駅、確か新地谷って言ってたっけ。


 急がなきゃ、財布を机の上から取りポケットに入れる……ヤバっ、バニースーツだった、私はそのままジーンズを履き黒いパーカーを羽織ってうさ耳とウィッグを部屋に投げ捨てて家を飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る