第3話 何でもします

「あなたは刺されて無いし、怪我も負って無い。わき腹見て見なさいよ!」


 自分の手を刺された箇所にやり、患部を擦る、無い、傷も何もない。


「ちょっとした悪戯だよ、なのにあなたは本気で刺されたと思って驚きの余り心肺停止したの」


「うわっ! 何コレ、濡れてる」


 俺の腰回りに広がる謎の黄色い水たまり。


「大神くん、失禁したんだよ。驚きすぎて」


 嘘だろ? 高校二年生になってまでお漏らししたってのか?


「でも良かった、生き返ってくれて。それじゃあね、私、帰るから」


 しゃがんでいた彼女はスッと立ち上がって、俺に背を向けて逃げるように足を踏み出した。


「待て! 何テキトーに話流して誤魔化してんだよ!」


 俺は彩子さんの手首を強く掴んた、か弱い少女には絶対に解けない握力で。


 少し驚いた表情で、彼女は俺の手を振りほどこうとして体を逸らして言った。


「叫ぶわよ!」


「お前、自分の立場わかってんのか?」


「その言葉、そっくりそのまま貴方に返すわ」


「お前がやった事は殺人未遂だぞ!」


「過失致傷じゃなくて?」


「えっ? かしつ……う、うるさい! 兎に角お前の行動は許されない!」


 俺は美少女を睨みつけ、股間をべしょべしょに濡らしているのに息巻いた。


「ごめんなさい」


 彩子さんは声を震わせて口元を抑えた、泣きそうな顔をして今にも涙を流しそうだ。


 今にも、今にも? 何時まで経っても彼女は涙を流さない……演技だ。


「嘘っぽい泣き方だな、俺はそんな手には引っ掛からないぜ」


 その言葉に反応した彩子さんは真顔になって俺を見つめて言った。


「何でもしますから許して下さい」


 ぐはっ! 美少女の口からの禁断のワードが飛び出しやがった。


「何でもだと?」


 俺は彩子さんにどえらいエッチな事をしている妄想をした。


「はい、何でも」


 俺は鼓動が早くなるのを抑えられない、妄想が妄想を呼び何をしたいのか分からなくなる。


「じゃあ、と、取り敢えずパンツ見せろ」


「はい、やりますからこの手を離してもらっていいですか?」


「お、おう」


 掴まれていた手首に手形が赤く残っている彼女は、床に座っている俺の目の前に立ち、少し近づいて顔を赤面させ視線を逸らしながら両手でゆっくりと制服のスカートをたくし上げる。


 水色のパンツを焦らすように見せつける彩子さんは着エロアイドル並みに見せ方が上手い。


「じゃあ次は」


「え? おしまいですよ、要求は飲みましたから」


 彼女は大きくバックステップを踏み俺から距離を取る。


「まだ終わっない! これからだろ!」


「大神君ってヘンタイで最低ですね、見損ないましたクズ男」


 おいおい、短い言葉でどんだけディスるんだよ!


「そいじゃ、さいなら」


 彩子さんは教室からダッシュして逃走した。


「おいっ! 待てって!」


 俺は立ち上がり後を追おうと一歩踏み出し、自分のションベンで濡れた床に足を滑らし転んだ。


 股関節がいてえ、股が裂けるかと思うほど大股で転んだ俺は、彩子さんの廊下を駆ける音を虚しく聞くしか無かった。

 

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