第2話 死亡観察

「ダサ」


 彩子さんは足をパタパタさせて喜んでいる。


 彼女は制服の上着からピンク色の手帳を取り出しページをパラパラとめくり筆を走らせフムフムと呟きながら、たまに俺をチラチラと見ている。


 意識が遠くなる、こんな死に方って……。


 教室の床に寝転がる俺からは、立っている彩子さんのスカートの中が良く見える。水色の下着か……普段ならガン見している所だが、そんな気力はもはや無い。 


「えっ! 大神おおがみくん?」


 彩子さんは驚いて俺を凝視した。


 自分の股間が生暖かく感じる、ああ、出てる、ションベンが……。


 俺の命は尽きかけようとしている、膀胱を抑える筋力が今際いまわきわで緩んだんだ。


「冗談だよ、冗談。死ぬ訳ないじゃない!」


 意識が薄れる俺の耳に彼女の声が響く。


「ちょ、どっ、え? ヤバいって!」


 彼女は慌てた様子でウロウロしながら俺を見ている。


 グラグラと体を揺すられる、無駄だ、もう死ぬから放っといてくれ…………。


「心臓が止まってる⁉」


 彩子さんの上ずった声が聞こえて俺の視界はブラックアウトし、意識は途切れた。



 ◇    ◇    ◆



 機械じみた音声が微かに聞こえる、その直後体がビクンと飛び跳ね、俺は目を覚ました。


 硬く冷たい床に仰向けで寝転ぶ俺の傍に感じる人の気配。


 その方向に視線を向けると、制服姿の女子が床にぺたん座りをしていた。我が校自慢の可愛いブレザー、女子はこの制服目当てで入学を決めるとか……。


 短いスカートから両ひざを折り曲げ、ムチっとした太ももの間に水色のパンツが見える。


 彼女は四つん這いになり俺の顔を覗き込む、俺は大きな胸が重力に負けて形作った何ともいえない曲線の美しさに息をのむ。


「大丈夫? 大神くん」


 少し掠れた小さな声が至近距離で聞こえて俺は胸から顔に視線を移した。


 可愛い顔が心配そうに、上から俺を覗き込んでいる。


 俺はこの可愛い顔を知っている、名前は確か……「季三月……彩子」


「良かった、人工呼吸をした甲斐があったみたい」


「人工呼吸⁉」


 俺は驚いて上半身を一気に起こした。


 まくれているシャツがハラリと下がり、その下から伸びる白い配線。


「何だこれ?」


 俺はそれを引っ張ると上半身に何かがくっ付いている、シャツを捲るとズボラ筋トレ器具のような電極パッドが張り付いている。配線を逆にたどると床に小さな機械が置いてあった、自動体外式除細動器A  E  Dだ。


「うわーっ! お、お前、殺人犯!」


 俺は倒れる前の出来事を思い出して叫んだ。


「ちょっと、大きな声出さないで!」


 彼女は小さな手のひらで俺の口を押え、声を殺して言った。

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