第7話 お茶会にて

 聖ベルタ学園は、貴族の令息令嬢のみが入学できる名門校である。将来、国に貢献できるよう高い学問を授けられるが、それだけではない。教養やマナーを学ぶために、寮のそれぞれの部屋でのお茶会が推奨されているのだ。もともとは教育のためであったが、今では政治の場であり、貴族同士の育ちの良さを見せつける格闘場にもなっている。


 そんな雰囲気は息が詰まるのでということで、アイリーンはもっと気軽に楽しめるお茶会を頻繁に開いていた。アイリーン自身は「完璧な令嬢」の顔を崩すことはないが、友人たちには多少の無礼講も許し、笑顔の絶えない場となっていた。彼女が自ら選んで取り寄せた茶葉と、手作りのお菓子も好評であった。


 しかし、今回のお茶会は別だ。アイリーンにとっては決闘の場とも言えるものである。いつもは趣味気分で作るお菓子にも気合が入るし、茶葉は厳選した最高品質のものを用意した。表向きは、二人の王子を招待するからという理由だったが、実際はマデラインがお茶やお菓子を気に入らなかった場合、「わざと悪いものを選んだ」などと言いがかりをつけられないためである。


 「こんなお茶会は趣味ではないけど。今回ばかりは仕方ないわね。」


 アイリーンはため息をつきながら、客の到着を待った。


 ヨハンスとマデラインは一緒に来るかと思いきや、意外にもばらばらにやってきた。二人の仲を疑っていることに気づいているのだろうか。


 少し遅れて、クローヴィスが入室した。将来宰相となる予定のクローヴィスは、学業の他に国の業務も少し請け負っているため、予定には遅れがちなのだ。お茶会は、問題なく始まった。


 しばらくは世間話に花を咲かせ、会はなごやかに進んでいた。季節の変わり目であるため、防寒には何が良いか、この時季に咲く花はあるのか、そういったとりとめのない話をする。マデラインの話から何か探れないかとアイリーンは目を光らせていたが、口数が少なく、あまり情報がとれない。


 やきもきしながらも、アイリーンは茶葉の話を始めた。


 「今日のお茶は、隣国カテリンから取り寄せたものですのよ。カテリンの茶葉は世界最高品質と言われるものの一つです。お砂糖を入れなくても自然な甘さがあって、なおかつすっきりとした口当たりで、お友達にも好評ですの。」

 

 クローヴィスが一口飲んで、ほっと息をつく。


 「確かに。僕は甘いお茶は苦手だけど、こんなにすっきりしているなら飲みやすい。気に入ったよ。君の目に狂いはないね。」

 「ありがとうございます。よかったですわ。」


 ヨハンスも、うんうんとうなずき、お茶を楽しんでいるようだった。ヨハンスからも評価が高いようで、アイリーンは少し涙が浮かんだ。こんなことで彼の愛を取り戻せるかというと疑問だが、少しでも良い時間を過ごせたならそれだけでも収穫と言えるだろう。


 ところが、マデラインの思わぬ言葉で自体は急変する。

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