第6話 警戒

 「アイリーン。マデラインに嫌みを言ったというのは本当か?」


 その日の放課後、ヨハンスに呼び出されたアイリーンは詰問されていた。ヨハンスの傍らには、マデラインが涙を浮かべて立っている。断罪の夢と同じ状況である。


 「嫌み?そのようなことは申しておりませんわ。ただ、あなたの婚約者として、あなたのお友達とは仲良くしておきたいと思っただけでございます。何か問題でも?」

 「い、いや…確かにそれは必要だね。しかし、マデラインが傷つくようなことを言ったのではないか?」


 美しい金髪の隙間からのぞく瞳は冬の空のように冷たく感じる。その深い青に見つめられて、アイリーンは一旦折れることにした。


 「傷つけてしまったのなら謝罪します。申し訳ございません。しかし、そのような意図はまったくなかったということはご理解いただきたいですわ。」

 「マデライン、このように申しているが…。」


 マデラインは艶やかな黒髪を揺らして、にっこりと微笑んだ。

 「私の勘違いのようですわ。アイリーン様、申し訳ございません。」


 アイリーンが顔を上げると、マデラインの澄んだオレンジ色の瞳に勝利の文字が見えた。


 ともあれ、ひとまず誤解は解けたようだ。ヨハンスの部屋からの帰り道で、アイリーンは頭を抱えた。


 「下手にマデラインに近づくと、このようにいじめの実績を作ることになりかねないわ。でもこのままでは何も分からないし…。もっと自然に話しかけなくては。」


 あるいは、いじめてはいないということを証明するために、第三者に立ち会ってもらうのもいいかもしれない。しかし、マデラインのことを探っているということは気づかれるわけにはいかない。


 秋風が吹き付ける中、寮の自室へ向かう渡り廊下を歩いていく。すると、クローヴィスが反対側から歩いてきた。


 「やあ、アイリーン嬢。寒くなってきたね。」

 「そうですね、クローヴィス様。そろそろ防寒のものを用意しなくてはと思っていたんですのよ。」

 「そのほうがいい。冷えは万病の元だからね。」


 いつものように世間話をしていて、アイリーンはふとひらめいた。クローヴィスにいてもらったら良い。彼とは信頼関係があるので、マデラインをいじめているなどと疑うこともないだろう。また、再びヨハンスに疑われた場合もフォローしてくれるに違いない。


 「クローヴィス様。私今度小さなお茶会を開きたいと思っているのですが、ご参加されますか?」

 「お茶会?もちろん、君の誘いを断る理由なんかないよ。」

 「ありがとうございます。他にヨハンス様とマデライン嬢をお誘いする予定ですの。」

 「ああ、兄さんも…。そうか、それはそうだよね。」

 「何か?」

 「いや、何でもないよ。楽しみにしてる。」


 これで、安全にマデラインに近づける。アイリーンは小さくガッツポーズをした。それを見てクローヴィスは首を傾げていたが、アイリーンが楽しそうなので気にしないことにした。


 翌日、さっそくお茶会が開かれた。

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