【5分で怪談】道端に置かれた太いテープで巻かれた何かが、気になる。

松本タケル

道端に置かれた太いテープで巻かれた何かが、気になる。

 トシキは通勤のため、自宅から3キロメートルほど徒歩で駅まで歩いている。二年前に郊外に購入した一軒家。都心の物件は高額で買えなかった。

 しかし、散歩が趣味のトシキは苦にならなかった。むしろ妻は周辺環境が気にっており、機嫌が良い。


 トシキは三十八歳の会社員。二年前に一人目の子供が生まれた。今年、二人目の子供が生まれるのを機に社宅から引っ越したのだった。


(課長に昇進して給料が上がったので、ローンは定年前に返し終えられる)

 トシキは営業職だが、業種に似合わず保守的だ。同期を蹴落けおとすような画策はできない。その代わり、部長には徹底的に尽くした。争わず、敵を作らず慎重に会社生活を送ってきた。

 資料を一枚も作らない部長に「そんなことで定年後、生きていけるのか?」と思いつつも、そんな態度はおくびにも出さず、言われるままに資料を作った。その甲斐あって、課長に推薦すいせんしてもらえたのだ。


 トシキはある夏の日、大粒の汗をかきながら駅まで歩いていた。通勤路は都心近郊とは思えない程、田舎だった。畑の間の道を通り、山沿いの一車線の道を歩いて駅まで到着だ。そこから一時間ほど電車を乗り継ぎ、職場に到着する。


(おや?)

 トシキは山沿いの細道で気になるモノを見つけた。長さ2メートルほどの物体。小山の土手の端っこ、人通りが少ない道のすぐ脇に置かれていた。

 手のひらの幅ほどもある白く太いテープでグルグル巻きにされ、透明のビニールに納められていた。


(鉄骨か?)

 足を止めて観察した。誰も通っていないので怪しまれなさそうだ。

 ふと、前日テレビで見た包帯に巻かれたエジプトのミイラが頭をよぎった。

(包帯で巻かれた人? まさかね)

 違和感を感じつつも、電車に乗り遅れそうだったので、その場を離れた。

 


 通勤路の夜道は暗い。そのため、帰りはバスかタクシーを使うので、例の道は通らない。帰宅後、トシキは改めて気になり始めた。

(もし……あの中身が人間だったら)

 トシキは昔、絵本で読んだ話しを思い出していた。忍者の話しだ。それは、このような話しだ。


 侍に追われて屋敷を逃げ回る忍者。ある部屋に飛び込むと、人が入れるほど大きな箱が二つ。中には巻物がぎっしり入っている。

 その部屋に侍が探しにきた。一つの箱はフタが開いており、もう一つはフタが閉まっている。こんな所に隠れやがって、侍はそう言いながらフタがされた方の箱を槍でザクザク刺した。ちぇ、別のところか。侍は部屋を出た。

 部屋を出た侍は、ふと、もう一方の箱を調べていないことに気が付いた。そして、すぐに部屋に戻り、フタが開いている方の箱を槍でザクザク刺した。結局、忍者は見つからなかった。


 この話には種明かしがある。侍は最初に、「フタがあいている箱に隠れているはずはない」と思った点だ。忍者は最初、フタが開いている方の箱に隠れていたのだ。侍が出て行ったすきにフタが閉まった方の箱に移動して、難を逃れたのだ。


(灯台もと暗し。皆が見える所こそ、最大の隠し場所になる)

 トシキは忍者の話を、例のモノに当てはめて考えていた。


 

 翌日、その場所を通った際に、例のモノを確認した。

(うえ、気持ち悪い)

 よく見ると、白いテープの下側に茶色いシミがベッタリとついている。

(血……まさかね)

 真夏の気温で中身が腐敗して……そんな想像をしてしまった。

(いやいや、鉄骨だとしたら、雨でサビて血のように見えるこだってあり得る)

 悪いイメージをかき消すようにそう考えた。


(でも、鉄骨にテープを巻いて、あんな場所に置くか? あの土地は誰の所有なんだ)

 トシキは土地の所有者を調べ始めた。すると、ある産業廃棄物業者の持ち物だと分かった。地元で聞いたことがある程度の小さな有限会社。産業廃棄物の業者なら鉄骨を扱うこともあり得る。


(でも、放置するかね? ところで、いつからアレはあるんだ?)

 トシキは記憶をたどった。

(二年前に引っ越してきた際にはなかった。うん、確かになかった)

 引っ越し当初、周辺を歩き回った。近所を良く知るために相当、観察しながら歩いた記憶がある。もし、アレがあったなら気付くはずた。


(とすると、二年以内に置かれたことになる)

 警察に通報するか、業者に伝達すればいいものの、慎重派のトシキにはそれができなかった。

(事件性があるかも)

 そう思ったトシキは、過去、二年以内の事件を調べ始めた。

(車で一時間圏内、25キロメートルくらいを範囲とするか)


 一週間ほど調査をした。結果、十三件の行方不明事件があることが分かった。

(意外と多いな。サイズ的には子供、老人ではないだろう。比較的、大柄な男性といったところか。それなら、一件に絞れる)

 トシキは色々と推論した。しかし、推論のための題材は尽きていた。

(もう、我慢できない。明日、確かめよう)

(鉄骨ならそれでいい。もし……予想通りだったら警察に通報すればいい)



 トシキは翌朝、早めに家を出た。周囲の景色を眺める余裕なく歩いた、

 十分ほどで現場に到着した。


(ほんの数ミリ、ビニールを突破すれば……答えが分かる)

 周囲には誰もいない。トシキはポケットからカッターナイフを取り出し、刃を1センチほどスライドさせた。

 そして、白いモノに近付いてカッターナイフで切り裂こうとした。


 その時!


 トントン。

 突然、肩をたたかれた。


 驚いて振り返ると、作業着を来た中年男性が立っている。

「!?」

「私はこういう者です」

 男性は手帳のようなものをトシキに見せた。警察手帳だ。

 男性は隠すように、それをすぐにポケットに入れた。

「そにあったモノは昨晩、回収しました。今、あるのはダミーです」

「オ……オレは……ただ……」

「署でおうかがいします」

「中は、中身は……何だったんですか! そもそも、あんたは本物の警官なのか!?」

 狂ったように叫ぶトシキ。


 男性はトシキの腕を引いて、路地に停めてあった車に乗せた。


(終)

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