第26話 本選決勝戦の切符を手にした者たち


 

 七月△日(日)午後の部――本選決勝戦。


 まずは予選を勝ち抜いたメンバーの紹介。


 まずaグループ――綾香

 双剣使いにして蓮見にゲームリリース直後から興味を持つプレイヤー。

 事あるごとに蓮見に期待の眼差しを向けると同時に蓮見を倒そうとしてきたトッププレイヤーの一人である。実力はまだまだ未知数ではあるものの噂ではルフランや美紀に次ぐ実力者だとも言われている。

 そんな彼女が今日闘技場に姿を見せた。

 すると、会場全体が盛り上がり歓声が聞こえてくる。

 周りが彼女の実力を認めている事がわかる。


 続いてbグループ――里美

 蓮見の幼馴染にしてゲームに誘った人物。

 【深紅の美】ギルド副ギルド長にして【異次元の神災者】の異名を持つ蓮見の最大の抑止力として世間から知られている。

 実力だけで言えばルフランと対等とも裏では言われているも、実際の所はわからない。ただしトッププレイヤーたちの間ではかなり警戒されているとの噂も最近ある。

 登場しただけで綾香が作った闘技場の雰囲気を重たくする。美紀の真剣な眼差しは武器の槍の先端のように鋭く見た相手を萎縮させる圧を放っていた。


 続いてcグループ――ソフィ

【雷撃の閃光】ギルドのギルド長。

 世間的な暫定順位では七位の彼女は普段どこかやる気を感じられない。噂では本気を出せる相手が中々いないのと出したらすぐに勝負が付いてしまい面白くないからだと言われている。ただし見た者こそ少ないがやる気があり闘争心をむき出しにした時はギルドの名前【雷撃】を連想させる高速かつ一撃が重たい嵐を喰らうとされている。つまり、彼女を怒らせたり、煽ったりする行為は自殺行為とも呼べる。


 三人がそれぞれの入場口から静かに登場した。

 そのたびに会場全体が熱気を放っていた。

 だけど今日はトッププレイヤーと呼ばれるこの三人以上に注目を浴びているプレイヤーが出場する。

 数多の試練を乗り越え、数多の敵を葬り、数多の伝説を創造した男。

 リリースして半年だが、プレイヤーで彼の名前を知らない者はいないとまで言われている。その者はネット世界の住人からも評判が良く、今日も多くの視聴者が彼を見る為だけに公式サイトにログインしてはリアルタイムでライブ映像を見ている。


 未だに強いのか弱いのかすら判断に迷うプレイヤーが本日場の雰囲気を壊す勢いで登場する。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ、試合時間待って~、遅刻、遅刻、遅刻だぁーーーー! 里美にまた怒られるぅぅぅぅぅからぁーーーーー!」


 最後にdグループ――紅。

 情けない声をあげては全力疾走で闘技場にやって来た。

 突然のことに熱気が充満し十分に温まった会場が困惑の冷気で満たされる。


「ちょっと可愛い金髪のお姉さん二人組を見ていたら時間が浪費されるとは世の中恐ろしいぜ」


 息を荒くし、額の汗をぬぐいながら蓮見は言った。


 具体的に何処を見ていたと言えば大問題になるかもしれないのでご想像に任せるとしよう。美紀と一緒にログインした。その後少し話して別れた。それから時間にして五分もしないうちに事件は起きたのだった。たまたま金髪美女二人組が目の前を通り過ぎざまに『最近恋人が欲しい』なんて話題で会話していたものだから――。


「ふぅ~、でもまぁ‥‥‥‥あれだ、なんとなくだが周りの反応を見るに多分セーフって感じだな。マジであぶねぇー、助かったぁ~」


 ――つい、聞き耳を立てては眼福と思って視線を釘付けにしていたら時間が過ぎていたのだ。

 そんな男を、待っていた者たちが大勢いるのもまた事実。

 実際に会場からは。


「「「またか!!! なんで毎回普通に登場できないんだよぉ!!!」」」


「「「ついに来たぁ!!! ルフランを倒した最恐ぉーーー」」」


「「「ウォォォォォ!!! 我らのあるじ【異次元の神災者】様ぁ!!!」」」


「「「今日も特大の神災を見せてくれ!!!」」」


 さっきまでの静寂が嘘のように会場から歓声が聞こえ始めた。

 それは綾香、美紀、ソフィが登場した時以上。

 これが世間から【異次元の神災者】の異名で呼ばれ神災と呼ばれる物を量産するオンリーワンプレイヤー。会場からの声は一斉に蓮見に向けれるも蓮見にそれを聞き分ける能力はなく、皆の声が混ざった結果ただのノイズでしかなかった。


「うぉ!? まさか皆俺が遅刻しそうになって怒ってr――違うか、美女三人に囲まれた俺を羨んでは嫉妬しているのか!?」


 と、お得意の超訳をしていた……。


「やっと来たね、紅。今日は楽しもうね」


「お久しぶりです綾香さん。はい!」


 ペコリ。


「随分と人気者になったな。今日はよろしく頼む」


「ソフィさんもお久しぶりです。こちらこそよろしくお願いします」


 ペコリ。


「んで、さっき金髪がどうとかって聞こえたけどなんの話し?」


 ギクッ!?


 綾香とソフィに頭を下げて挨拶をした律儀な少年は美紀の言葉と刺すような視線に息を呑み込んだ。


 ――ゴクリ。


 (ま、ま、まずい……。


 なんか知らんがお、お、怒ってる気がする。


 朝は機嫌が良かったのに……今はなんか悪い気がする。


 俺もしかしてなにかした……。


 もしかして、金髪のお姉さんの身体を見てスタイルいいなぁ~と思ってはそれを眺めながら二人が恋人が欲しい話しに聞き耳立ててたのがばれたのか?


 たしかに……それで遅刻しそうになったのは事実。


 だがそこまで怒る……もしかして俺の一部始終を見てたのか!?

 ……いやでもしっかりと美紀が先に闘技場に行ったのを確認してからだし……美紀より大きいたわわ触らせてくれないかな~と思いながら……)


 蓮見脳内で状況を理解しようも美紀の視線にビビり一歩後退する。

 試合開始前から力の差を見せつけられた自称か弱い少年は、


「き、き、気のせいでございますぅ、はい」


 動揺を隠しきれなかった。

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