第24話 添い寝と安眠と二人の時間


 考え事をして、どれくらいの時間が経っただろうか。

 ふとっ、視線を時計に向けると夜の21時を過ぎている事に気が付いた。

 美紀が自分の家に戻って一時間ぐらい。

 なんとなく窓に視線を向けてみるもまだ戻ってくる気配はない。


「一時は疎遠になってもう会う事もないだろうと思っていたんだけどな~」


 明日の戦いについて考えていた。

 その時に美紀のことについて考えていた為か急に過去が懐かしく感じた。

 美紀攻略のため過去の美紀に目を向けた。

 その結果として過去の美紀との思い出が脳裏によみがえる。


「そうだよな……最初は美紀がいたからゲームを始めたんだよな」


 ――。


 ――――。


「美紀には感謝だな。こうしてゲームを通していろんな出会いを与えてくれた」


 その言葉を紡いでいると、ある答えがポンッと浮かぶ。


「やっぱり俺は頭を使う人間じゃないな。頭脳戦で勝とうなんて百年早い。俺は俺の道を進めばいい。ってことで考える事を諦めて明日の事は明日の俺に全部丸投げしよう!」


 考える事をキッパリと諦めた蓮見は大きく背伸びをしてベッドの上でくつろぐ。

 すると――。


 ――ガラッ!


 音が聞こえた方に視線を移すと窓から顔を出してはすぐに身体ごと蓮見の家へと入ってくる女の子。女の子はそのまま着地と同時に蓮見の隣まで行き身体を横にして目と目を合わせるようにしてやって来た。


「お待たせ~」


 元気な声でニコニコと柔らかい微笑みを向けられた蓮見は思わず「お、おう」と返事をする。


「待った?」


「べ、べつに」


「むぅ~」


 頬っぺたを膨らませてご機嫌斜めな態度を見せた美紀は少し顔を近づけきた。

 後十センチほどでお互いの顔が触れ合う距離で見つめ合う二人。

 お互いの黒い瞳にはお互いの顔が映っている。

 一人は不満下な顔を見せて。

 一人は戸惑った顔を見せて。

 二人の瞳がお互いの顔を鏡のように反射させて本人へと見せる。


「意地悪ぅ~」


 何かを期待したように美紀が蓮見の目をじっーと見つめる。


「意地悪って急にどうしたんだよ」


「べつに。ただ‥‥‥‥」


「ただ?」


「少しは可愛い幼馴染がわざわざ会いに来ることに興味を持ってもいいんじゃないかなーと思っただけ‥‥‥‥」


「なるほど」


「まぁ、いいや。それで明日は何か作戦あるの?」


 近づけた顔を少し離して美紀は蓮見の腕を自分の頭の位置へと持っていき腕枕として使う。


「腕が重た‥‥‥‥いえ、なんでもありません」


 右腕に美紀の頭が乗るとほぼ同時に腕に感じた違和感をそのまま口にするも途中で拗ね始めた美紀に気付いて好意を受け入れる蓮見。口を尖らせて頬っぺたを少し膨らませた美紀をもう少しこのまま見ておきたいも質問に答える。腹部に美紀の手が触れ軽くつねられた感覚痛みがあるから。


「ある!」


 自信満々にそう答える蓮見。

 その目は真っ直ぐでとても嘘を付いているようには見えない。


「ちなみにどんな作戦?」


「知りたいか?」


「う、うん‥‥‥‥。でもそれ聞いたら‥‥‥‥」


 知りたい気持ちと明日の楽しみにしたい気持ちが入り交じったような声の美紀にニコッと微笑んで、


「大丈夫だ! なぜなら明日の俺に全部任せる、が俺の作戦だからな!」


 蓮見が答えた。

 予想外と言いたげな美紀が目をぱちぱちとさせる。


「‥‥‥‥‥‥‥‥えっ?」


「明日のことは明日の俺が考える。とても合理的で素晴らしいとは思わないか?」



「‥‥‥‥思わないけど?」


 合意を得られなかった蓮見は「そうか‥‥‥‥」とボソッと呟き、そのままリモコンで部屋の照明をOFFにすることでこの場を切り抜けようとする。


「と、とにかく今日は眠いから明日ちゃんと考えるし、今までそれでなんとかなってきたからまぁ‥‥‥‥その‥‥‥‥美紀の期待を完全に無視する結果にはならないからそこだけは安心してくれると嬉しい」


 目を閉じた蓮見に美紀が「わかった」とだけ返事をした。

 とは言っても、まだまだ構って欲しかった美紀は暗い部屋の中をキョロキョロしては蓮見に視線を戻す。


「本当に寝ちゃたの?」


 頬っぺたを指先でツンツンしてみるも反応がない。

 起きる気配もない。

 それを確認した美紀の中の小悪魔が脳内で囁く。

 甘い言葉と誘発に負けた美紀は意識がない男にそっと唇を重ねてはすぐに離す。


「もう少し構って欲しかった。だからこれはその埋め合わせね」


 恥ずかしくて少し震える小声は月の灯りが射し込み顔を赤くした女の子の声。

 一度寝たら中々起きない蓮見にそのまま腕を伸ばし引き寄せて美紀は瞳を閉じる。


 二人の温もりが重なると、とても幸せな気持ちになって心が満たされた。ここにくる前に他の女の子と楽しそうにしていた蓮見に嫉妬しどこか寂しい気持ちになったのだが、そんな気持ちすら和らげてくれる。


「やっぱり私は――」


 静かな部屋に小さく響いた言葉は恥ずかしくて中々素直になれない美紀の本音の言葉だった。


 その頃提示板では――。

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