第7話 G級ダンジョン(お試し)
親父の店でヨルハのローブを新調した俺たちは、ギルドを介さず直接王都の外にある近場のG級ダンジョンにやってきた。
「カードの提示をお願いします」
「どうぞ」
ダンジョン入口に設営された詰め所で冒険者カードを提示して入口を通過する。
ちなみに冒険者カードはパーティの誰かが提示すれば問題ない。
というのも、場合によっては商人や物好きな貴族が冒険者パーティを雇ってダンジョンにアタックすることもあるからだ。
ダンジョンに用があるのは冒険者だけではないので誰か一人であればいい。
防犯上の問題を考えるとどうかとは思うが、人間の犯罪なんて魔物の巣窟で気にしても仕方がないという風に俺は認識している。
ちなみにラッシュたちとアタックするときは俺は最後尾だったのであいつらに俺のカードを見せたことはなかった気がする。
「アルメスさんのカードはわたしのものと色が違うんですね」
「これは冒険者のランクによって色が変わるんだよ。といってもGからEランクは共通で緑色。DランクとCランクは青色、Bランクが赤、Aランクが黒でSランクはカードの素材も色も白金貨と同じになるんだ」
「わたし白金貨って見たことないんですけどそんなに綺麗なんですね……」
白金貨というのは見た目は白みがかった金だが、特徴的なのは光を当てた際に金よりも鮮やかに光を放つところだろう。
まるで晴天に空から降り注ぐ太陽の輝きのように様々な色彩を見せる。
ちなみにA以下のカードの素材はすべて鉄製だ。
「素材もそうだけど、カードの色が違うのはエンチャントの種類にも寄るんだ。緑色は名前と所属が識別できるエンチャント。青はそれに加えて偽造防止のエンチャント、赤と黒はそれに比べてギルドの身分保障が付いてくる。例えば、買い物をするときに赤や黒のカード持ちなら手持ちが足りないときにツケにできる。払わなかったらギルドが立て替えてくれるわけだな。まあ、そのあとギルドに雇われた冒険者に追われることになるが」
赤と黒の違いはその信用度の差だな。
「アルメスさんは本当に物知りなんですね。尊敬します!」
「それはありがたいけど、ヨルハだってそういう知識を身に浸けなきゃ立派な冒険者にはなれないからな。勉強の時間も作ろうな」
「わかりました! 夜はお勉強の特訓ですね!」
お勉強の特訓って……まあ、言葉の問題はなんとなく伝わるからいいか。
というか夜に勉強するなら宿はどうするべきだろうか。
「っと、ダンジョンで気を抜くのは不味いな。今日はヨルハの力量の確認しかしないつもりだが、気を付けないといけないぞ」
「……!! そうでしたっ! ダンジョンに入ったら警戒……しないと――!」
「そうそう、その意気だ」
とはいえ今回はヨルハの実力が分からないので俺が先導してダンジョンの一層を進んでいく。
数分程そうして歩いていると――
「グゲゲッ」
通路の先にゴブリンらしき声が聞こえた。
「ヨルハ、通路を右に曲がった先にゴブリンがいる。恐らく一体だけだ。奇襲に注意しろ」
「はいっ!」
何処に潜んでいるかまで教えているので奇襲もなにもないのではあるが、ヨルハは素直に返事をする。
こんなことでも素直に話を聞いてくれるというのは案外大切なことだ。
「さて、それじゃあ俺がゴブリンから武器を奪ってくるからヨルハは戦闘準備をしておいてくれよ」
「え? 武器を奪う? は、はい!?」
背後から困惑したヨルハの返事が聞こえるが気にせず先に進み、角に潜んでいたゴブリンの背後へ音を立てずに移動。
「万が一があったらいけないからこれは没収な」
「グゲッ?」
いきなり背後に現れた俺に手に持っていた木製のこん棒を奪われたゴブリンが間抜けな声を上げて呆けたまま立ち尽くしているのでヨルハの方に蹴り飛ばす。
「ダンジョンで気を抜くとこういう風になるから気を付けること」
蹴り飛ばされてダンジョンの床に転がったゴブリンの背後から腕を組んで訓示する。
「は、はい! 背後には気を付けます!」
「よろしい。では次はそのゴブリンと戦ってみてくれ」
「え!? わたし素手ですよ!?」
「ゲゲッ!?」
ヨルハとゴブリンが揃って俺の方を見て驚きに目を開く。
「大丈夫。お互い素手だから問題ない。こいつより弱い魔物は居ないんだから不満は言わないでやってくれ。ゴブリンさんも頑張るように」
「ひえ……」
「ゲゲッ……」
色々と困惑しているヨルハとゴブリンにちょっとS級の圧を放出して黙殺する。
猛特訓するって言ったじゃん。
頑張れヨルハ。
「くっ……やらないと、強くなれない……やらないと、やらないと、もう逃げないって決めたんだっ!」
「グゲェッ!!」
気合を入れ直して握りこぶしを作りゴブリン目掛けてまっすぐに走り出すヨルハと、同じくヨルハ目掛けて走りだすゴブリン。
「ゴブァッ!」
交錯し、相手に一撃を当てたのはヨルハだった。
俺の見立て通り、ヨルハは獣人族として生まれ持ったしなやかで俊敏な筋肉を持っている。
人間とは生まれた時点から違うステージに立っているのだから、同じ小さな子供でもその身体能力には差が出るものだ。
しかし、それでも回復術師であり、冒険者になりたてのヨルハの拳では最弱のゴブリンとはいえ、鍛えていない獣人よりも強い肉体を持つ魔物を倒すには至らない。
立ち上がるゴブリンの目にもヨルハに殴られたことによる怒りの炎が灯っている。
「ゲルルルッ」
僅かによろめきながらも、両脚で地面を強く踏みしめて獣のように唸りを上げるゴブリンが拳を握る。
やばいな、このゴブリン鍛え甲斐ありそう……
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