第16話

 話を聞きつけた佐奈が服を貸してくれると言うので、盛大に体を震わせビビりながらお言葉に甘えさせてもらった。


「ねぇ柳楽。ミニスカートは?」

「却下」

「じゃ、オフショルは?」

「却下」

「えー、可愛いのに。似合うよ絶対」

「知っとるわ。似合わねェわけねーだろ」

「まじ溺愛じゃん」

「うるせェ。肌は出すな。見せんな。あいつキャパオーバーすんぞ」


 着せ替え人形のように服を何着も着替えさせられ、薄いメイクとヘアアレンジまでしてもらい……見た目だけはキラキラした陽キャに変身した。


「うっわぁ……。ほんとに柳楽にはもったいなーい!」

 可愛い可愛いと連呼してくれる佐奈。あんたの方が可愛いわ。


 可愛らしいワンピースを貸してもらい、準備万端で佐奈の部屋の前で待っていた灰音ちゃんの前へおずおずと出る。ムスッとしている通常運転の灰音ちゃんに、私はへらっと笑ってワンピースの裾を摘み上げた。

「灰音ちゃんこれ可愛い服だねぇ」

「テメェの方が可愛いわアホか」

 オデコをぺちん、と叩かれる。いい音がした。


 外へ出ようとする灰音ちゃんの背中に引っ付けば、顔だけ振り返った彼が目を細めて私を見下ろす。

「テメェ、んな格好で外歩けるか。動きにくいわ」

 そう言われて渋々身体を離すが、胸の中に不安が渦巻くせいで俯いた。下唇を突き出して拗ねた私の目の前に指先が差し出される。

「これで我慢しろ」

 こちらに向く手のひら。じっと見つめていれば「ほら」と急かすように揺れる。その手の上に自分の指先をそっと置いてみれば、力強く握られた。優しい灰音ちゃんだ、もちろん痛くはない。

「うん、ありがとう灰音ちゃん。大好き」

 繋がれた手を引っ張って、灰音ちゃんの腕にピッタリと寄り添う。

「……そうかよ」

 いってらっしゃーい!と手を振る佐奈に向かって控えめに手を振り返した。灰音ちゃんはもちろん無視だったけれど。




 ショッピングモールに着くと、人混みに目が回りそうになる。灰音ちゃんがいないと絶対に倒れていただろう。

 フラフラと揺れる身体を支えてくれていたのは他でもない彼だったから。

「は、灰音ちゃん……こわい……」

 小声で歯をガタガタ言わせながら発した言葉。灰音ちゃんは私を宥めるように、握った手の親指で私の指を撫でた。

「……俺がいんだろ」

 その一言で恐怖が少し和らぐ。側からすれば、私たちはカップルに見えるのだろうか。

 そんな距離感で彼に寄り添えば、灰音ちゃんは口の端を上げて意地悪そうに笑っていた。


 超大型のこのショッピングモールは屋外にもお店や遊び場があって大人気のスポット。もちろん休日の今日は人でごった返している。


 まずはどこへ行こうかとフロアマップを二人で見上げる。必要なものを灰音ちゃんと提案し合っていると、突然足元がぐらりと揺れた。

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