第15話
──今は原作のどの辺りだろうか、と私は考える。
原作「
炎の異能を持った主人公・一路は異能術師となるためにこの学園に入学するのだ。
クラスメイトの雰囲気を考えても、入学直後ではなさそうだ。かといって物語後半ほど灰音ちゃんと一路が打ち解けていないように見える。千景も然り。後半はもっと表情豊かになっていたはずだ。
何より──彼らの担任であり異能術師の
彼は原作後半にて戦闘の最中、死亡する。
まだ彼が生きているということは、前半後期……もしくは中盤頃か。
最推しである丹羽先生が死んでしまった時、私は泣き喚いた。そのせいで幼馴染にもひどく迷惑をかけたものだ。
ここが夢の世界なら。なにをしても許されるだろうか。
それならば私は丹羽先生を救いたい。大好きな人をみすみす死なせるようなことはしたくない。
私が夢の中へ入る前、受付ではいくつかの注意事項を告げられた。
1.夢の中へは一度入ると漫画が完結、もしくは既刊の最終場面が来るまで目は覚めない。
2.夢の中で死亡した場合は強制的に目覚める。
3.夢の中で本人が死亡しても身体に影響はない。しかし酷い死に方をすれば精神に異常をきたしたり、最悪の場合ショック死する可能性もある。その時夢喫茶は一切の責任を負わない。
4.夢の中へ入れるのは一つの作品につき一度のみ。
その中に“原作を変えてはならない”という項目はなかった。ならば変えても文句は言わせない、とある種のクレーマーのような思考に至る。
絶望に溺れていた私に差し込んだ光。
確かに、その一つに丹羽先生はいた。
大好きだ。ずっと変わらず、あの人が大好きだから。
──私は、丹羽先生を助ける。
そう決意してグッと拳を握った。
私がこの世界に来た意味があるとするならば──きっと先生を助けるためだと、そう信じたい。
「灰音ちゃん、私頑張るね」
灰音ちゃんはこれから始まる学校生活への意気込みだと思ったのだろう、優しく頭を撫でてくれた。
「今日、必要なモン買いに行くか」
「いいの?」
「しゃーねえからな。テメェ一人で行かせた方が面倒なことになりそーだろ」
うわぁと声をあげれば灰音ちゃんが鼻で笑った。いじめっ子みたいな顔をしているのに、ちっとも意地の悪さは感じない。優しさは隠せていないぞ。
私は買い物なんて行きたくはないけれど、身一つでこの世界に落とされたのだから現実的に必要なものは多い。下着を始めとした着替えや生活用品、女の子として必要なものだってある。灰音ちゃんはいち早くそれに気付いて私にそんな提案をしてくれたのだ。なんてできる男だろう。
そして一人で行けと突き放すのではなく、一緒に行ってくれると言う。
「灰音ちゃん大好き……!」
腰に回していた手を首に回し直して勢いよく抱きついた。
鍛えている灰音ちゃんはよろけたりはしないけれど、「テメェ……!」とお怒りの様子。でもその手はしっかりと私の身体を支えてくれていた。
「クソ可愛いことしてんな、潰すぞ」
「物騒すぎない?」
唇を尖らせた私を早く準備してこい、と引き離す。
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