第37話 僕は天使こと、ガブちゃんです

 僕はビールをかなりあおった。なんかね、一気に喉がかわいちゃって。

 ガブちゃん、なぜかうれしそうに僕を見ているよ。


「同僚も私、天使、ガブちゃんも同じ考えです…」

 一口だけビールを飲んでガブちゃん、続けた。

「上司は、みなさん、小杉さん、人間、動物、生物がただ生きているだけじゃなくて、自分の意思で生きているかのチェック、Cをしているんじゃないかと…」


 うん、そうだね…、きっとそうだよ。

「それがCです…、きっと、たぶん、そうです」


「さて、小杉さんにお訊きします」

 また空中から手帳を取り出した。仕事はてきぱきとね…。ひょっとしたらビール好きは別として、優秀な天使なのか…、ガブちゃん。


「継続なさいますか? この幸運を…」


 わかっているくせに、ガブちゃん。

 だけど仕方ないよね、決められた手順ってものもあるし、勤め人は大変なのさ。


「僕はね、ガブちゃん。頭にきたのさ、自分の知らないところで勝手に人生を動かして、勝手に幸運を降らせてさ…。本当に頭にきたんだよ…。そりゃあね、悪いことはひとつもなかった、楽しませてもらったことも事実さ、楽しかったよ…」


 手帳に筆記具をたてながら、ガブちゃん僕の返事を待っている。


「だけどね、ガブちゃん。たとえ不器用でも、好きな女の子に振られても、仕事で失敗してもさ…、なんかそれは生きているってことなんだよ、生きているってことは、失敗して、悲しんで、死ぬことも含めて生きていることなんだよ…。たとえこのままずっと幸運でも、自分の意思の介在しない幸運はさ…、ある意味、魂…」


 ああ、魂か…


「魂を誰かに売り渡すようなもんだと思う…。それこそ、そうだ、そうだよ! 悪魔に幸運の代わりに魂を売るようなもんだと思うんだ…」


 ガブちゃん、あいかわらずじっと聞いている。ビールが温まっちゃうよ…。


「僕は、悪魔に魂を渡さない…」


 自分のジョッキを持ち上げ、ガブちゃんのほうに差し出した。


「継続しないよ…。乾杯しよう!」


 ガブちゃんすばやく手帳に何かを書き込み、すぐに空間にまた消してからジョッキを持って、僕のほうに差し出した。


「ご返答、確かに承りました…」


 軽くジョッキがぶつかるいい音が響いた。

「小杉さん、やっぱりいい人だ…。ですが、僕は悪魔じゃないですよ…、天使こと、ガブちゃんです」。

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