第27話 いい生物さん

 メニューには飲み物の他におつまみやご飯ものまである。

 僕は昔からつまみがないと飲めないほうなので、でもせっかくだからガブちゃんの希望を訊こうと思う。


「例えばさ、揚物、焼物、漬物なんてあるじゃん…」

「ハイ!」

 ガブちゃんの返事は、ビールだけじゃなく、食べ物までご馳走してくれるのか? という希望に満ち満ちている。


「何か食べる?」

「ハイ!」

「何でもいいだろ?」

「できましたら…」

 メニューを指そうとするガブちゃん。


「何で僕なのさ」

 僕はメニューをパタって伏せた。


「天使をいじめるなんて…」

「なんで…」

「誰でもいいなら、なんでもいいなら、好きな人、好きなもののほうが…」

「好きな…」

 首を振るガブちゃん。僕だって山下さんのほうがいいよ。


「そっちじゃないです、違います。それに、これって幸運って、決して悪いことではないですからね…」

 ガブちゃんの目が僕が持っているおつまみのメニューを追っている。


「せっかくだからいい人、いい方に、いい動物さん、いい虫さんに、幸運をあげてもいいなっていう生物さんに、体験してもらいたいじゃないですか…植物さんは別として…」


 “いいなっていう生物”? なんだよ、それはさ。


ひっかかるけれどメニューを渡してあげる。ガブちゃんうれしそうだ。

「僕がそのいい人、そうなの?」


 メニューから、またあの微笑をあげて、

「ハイ!もっと正確に言うなら、“いい生物さん”です」


 と素直にかえしてきた。だからその生物っていうのが気になるんだけど…。


「いつもおっしゃているでしょ、普段の行いだって…」

 ニラタマを欲しそうに眺めたあと、またあの微笑を向けてくる。最強の武器だな。

「おねえさん、ニラタマひとつね」

 僕は注文した。


「やっぱり、小杉さんいい人です。普段の行いって、こうゆうことですよ」

 天使って御世辞が言えるのか…。

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